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東の空から差し込む朝日が、新しく張り替えられた障子を真っ白に透かし、室内をいつもの三倍は明るく照らし出した。 俺は一晩中作業を続け、賽銭箱の角を磨き上げたところで、力尽きて縁側の隅に座り込んでいた。
ガラッ、と奥の部屋の戸が開く。
「……ん、ふぁ……。何よ、今日の朝日はやけに眩しいわね……」
目をこすりながら、寝ぼけ眼の霊夢が居間に現れた。 しかし、彼女の足がピタッと止まる。
「…………え?」
視線の先には、純白に輝く障子。 足元には、ささくれ一つなく滑らかに磨かれ、朝日を反射して飴色に光る縁側の床板。 そして視線を外に向ければ、塗装が剥げてボロボロだったはずの賽銭箱が、まるで新品のような重厚な輝きを放っている。
「………………」
霊夢は無言で、一度目を閉じた。 そして、そのままくるりと背を向けて、奥の部屋へと戻っていく。
「おい、霊夢? どこ行くんだよ」 「……寝る。まだ夢を見てるみたいだから。修行不足ね、こんなに都合のいい幻覚を見るなんて……」 「幻覚じゃないって! 現実だ、俺が五万二千円の資材と一晩の努力で直したんだよ!」
俺の叫びに、霊夢がひょこっと襖の陰から顔を出した。 信じられないものを見るような目で、恐る恐る新しい縁側を指先でツンツンと突く。
「……冷たい。本物の木だわ。……え、本当にアンタがやったの? あのボロ神社が、一日でこんな……」 「ああ。職人の道具もいいの買ったからな。どうだ、これで見栄えも良くなっただろ」
霊夢はしばらく呆然と境内を見渡していたが、やがて新しくなった畳の上にぺたんと座り込んだ。 そこから見える景色は昨日までと同じはずなのに、額縁(障子)が綺麗になったせいで、まるで別の世界に来たかのように清々しい。
「……アンタ、バカね。五万二千円もあったら、もっと自分のために美味しいもの食べたり、いい服買ったりすればよかったじゃない」 「いいんだよ。俺の『外の世界』の価値は、もうこの神社の一部になった。これで俺も、胸を張って居候できるだろ?」
俺がそう言って笑うと、霊夢はふいっと顔を背けた。 でも、その耳のあたりが少しだけ赤くなっているのを俺は見逃さなかった。
「……ふん。まあ、綺麗になったのは認めてあげるわ。お礼に、今日のお茶は私が淹れてあげてもいいわよ。……その代わり、朝ごはんはアンタが作りなさい。その『究極の白だし』ってやつでね」
「へいへい、御意に。……あ、そうだ。魔理沙もそろそろ来る頃だぞ」
新しくなった神社の縁側で、二人で迎える朝。 五万二千円という数字には収まらない、温かい日常がそこにはあった。