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最初に仕掛けてきたのはホーディだ。ラビックは私の右側へ回り込むらしい。
『|強化《ブースト》』、『不懐』、『|与硬《ギバード》』による身体強化の事象を掛けた状態で駆け出した勢いのままに、右前足を私の左眼に向けて突き出してきた。そのまま受ければ、エネルギーを抑えた状態の私ならば確実にダメージを負うだろう威力を持っている。
無論、そのまま受ければ、だ。
左足を大きく一歩前に踏み出し、身を屈める。突き出されたホーディの右前足が私に当たる軌道から逸れ、私の頭の左側を横切っていく。
突き出されたホーディの右前足を肩に乗せて左腕で抱ええ、ホーディの勢いと左足を戻し身体を元の位置に戻す勢いを利用して、ホーディを後方に投げる。
直後、私の右膝裏に向かって『強化』、『不懐』、『与硬』を使用したラビックの右後ろ足による後ろ回し蹴りが繰り出された。
体勢を崩す威力は十分にあるが、少し遅かったな。体をラビックに向けて右足で蹴りを受け止める。そのまま脛と足の甲でラビックの右後ろ足を絡めて捕まえ、起き上がって此方に向かってきたホーディへ向けて放り飛ばす。
顔を向けて突っ込んでくるラビックに、ホーディは構わず突っ込んでくるようだ。ラビックも体を回転させて体勢を直し、ホーディの顔面に着地、直後に飛び跳ねて私の左足甲に向かって左後ろ足で飛び蹴りを放ってきた。
ホーディの勢いを加えて、速度が増しているな。だが、視線と予備動作で狙いが分かりやすい。
ラビックに向かって二歩前に出る。右足でラビックの身体の左側を少し押すようにして軌道を逸らすと、私を横切って地面を滑っていくラビックを見る間も無く、『黒炎』と『黒雷』を纏わせたホーディの両前足が私の頭上から振り下ろされた。
身体強化以外の事象を使うか。ならば、私も使わせてもらおう。水色のエネルギーを取り出し、『旋空』を私の左手に発生させて振り下ろされた両前足を左手の甲で払い弾き飛ばす。
ホーディの両前足が私から少し離れた地面を叩き、黒い炎と雷を帯びた爆発が生じて砂埃が舞い、視界が塞がっていく。
砂埃の中から、ラビックが飛び出してきて剣状の岩石を纏った左前足を突き出してきた。
それは知らない事象だ。やはり新しい図形を見つけていたか。それに、私の後方へ滑って行った筈のラビックが爆発から出てくるということは、ウルミラの『入れ替え《リィプレスム》』に近い事象を物にしたということだ。
素晴らしい。後で私にも教えてもらおう。
それはそれとして、今はラビックの対応だ。左手の『旋空』を霧散させ、素の状態の左手で剣状の岩石を掴んでみる。
驚いたことに、しっかりと抵抗を感じる、握った岩石をじっくりと見てみれば、相当な量のエネルギーが込められている。
それに、岩石の剣には『不懐』と『与硬』もしっかりと掛けられているようだ。
ここまで私が抵抗を感じたのは初めてだ。どれぐらいの強度があるのか試したくなりそのまま力を込めていくと、四割ほどの力を込めたところで岩石に皹が入り、そのまま砕けた。
エネルギーを抑えているとはいえ、これほどの強度とは。こちらの事象も見事なものだ。
この剣状の岩石、もっと鋭くしてやれば、私でなくとも果実の外果皮を切断できるんじゃないだろうか?私の手は傷ついていないところを見ると、今のままでは果実の外果皮は切れなさそうなのだ。
岩石を砕かれたラビックがその場から姿を消す。視覚的に消えただけか。気配は薄っすらとだが残っている。
分かり辛いが、エネルギーをチャージしているな。私が岩石を砕いている間にホーディが私の右側に回り込み、黒い雷を纏った『黒炎弾』(さしずめ、『黒雷炎弾』といったところか)を私に向けて撃ち、私の注意をラビックから逸らす。
これを躱すのは容易だが、躱せば姿を隠しているラビックに当たってしまうな。耐えられないことは無いだろうが、私もあの『黒雷炎』を使ってみたい。真似て相殺してみよう。
『黒炎』と『黒雷』の図形をそれぞれ用意する。七色すべて使うと周囲がしばらく住めない環境になりかねないので、『黒炎』は紫と赤、『黒雷』は紫と黄のエネルギーで作り、重ねて事象を発生させる。正直、かなり面倒くさいな。
何とかホーディの放った『黒雷炎弾』が私に到達する前に私の右足に『黒雷炎』を纏わせられた。
と思ったのだが、ホーディの放った『黒雷炎弾』と比較すると、私の『黒雷炎』は少し違和感がある。精査している時間は無いので、そのまま蹴りつけるように『黒雷炎弾』を受け止めよう。
痛いし、熱いな。ホーディが使用しているエネルギーの数は三色。私はそれぞれ二色。その差がこれか。
それに、この黒雷炎。この事象はどうも一つの図形で発生させられている。私が発生させたものはあくまでも『黒炎』と『黒雷』であり、ホーディが使用している『黒雷炎』とは別物のようだ。
いつの間にこんなものを使えるようになっていたのだろう?
熱と電気が明確な痛みとして私の足に伝わってくる。凄まじい威力だ。今までに、ここまでの痛みを感じたことは無い。
黒炎で見えていないが、右足の膝から下は火傷を負っていると見て間違いない。相殺してこの有様ということは、そのまま受けていれば結構なダメージになっていた筈だ。
右足の痛みにほんの少し気を取られている内に、エネルギーのチャージを終えたラビックが両前足を突き出して、炎を纏った岩石を私の顔面目掛けて射出してきた。君達、新しい図形を見つけるの早いな。
この炎を纏った岩石(『炎岩弾』とでも仮称しておこう)、熱量がホーディの『黒炎』よりも高い。そして普通の岩石ならば、間違いなく溶けている熱量の筈だが、生成された岩石は確かな個体として存在している。
左手に再び『旋空』を纏い、素早く上に『炎岩弾』ごと突き上げる。空高く弾き飛ばされた『炎岩弾』は、効果をまだ失っていない。
このまま威力を保ったまま落下してきたら広場が危なそうなので、もしそのまま落ちてくるようならエネルギーを解放して消しておこう。現状、エネルギーを抑えたままアレを無力化するのは、私にはできそうにない。
『炎岩弾』を射出してすぐ、ラビックは次の行動を起こしていた。私が『炎岩弾』を弾いた隙に、全ての足に炎を宿した岩石を手甲、足甲のように纏っている。その状態のまま、私にラッシュを仕掛けるつもりだろう。
ホーディ―の方を見れば、同じく両前足の爪に『黒雷炎』を纏わせて、私に突っ込んでくる。
私を直線で挟んだ位置でそれを行ってしまったか。それは悪手だよ。
それぞれが繰り出した、最初の一撃を躱すと、ちょうどラビックとホーディの攻撃がぶつかり合う。このままでは、どちらもただでは済まないだろう。
ぶつかる寸前で、二体の動きが止まる。
ラビックは右手で胴を捕まえて、ホーディは尻尾で絡めて私が2体を押さえ込んだのだ。
再生能力があるからと言って、稽古で大怪我をしてもらいたくは無い。ちなみに、私の右足は既に完治している。
「少し危なかったね。一旦、休憩にしようか」
〈…あのタイミングでは容易に躱されてしまうのか〉
〈挟み撃ちを行うには早計だった、ということですね〉
2体とも、少し息が上がっている。先程使っていた事象はエネルギーの消費量が多いと見た。使いどころが大事になるのだろうな。
「ホーディもラビックも、いつの間にか私の知らない事象を使えるようになっていたね」
〈皆と互いの知識を共有し合ったおかげだな〉
〈新たな発想や、事象を知ることができました。姫様。改めて素晴らしき機会を与えて頂いたことに感謝します〉
〈主が皆を集めようとしなければ成し得なかったことだ。我も、有り難く思っている〉
やっぱり、そんな風に褒められるとむず痒くなるな。
だが、悪い気はしない。定期的に勉強会を開くのも、悪くないかもしれない。
息が整った二体の表情は、晴れやかだ。先程の稽古で、今できることは一応出し切ったということか。
「それじゃあ、先程の稽古を振り返ってみようか」
〈よろしくお願いします〉
〈既にいくつか反省すべき点が思いついてしまうな〉
気に病むことは無いよ、ホーディ。
その反省を次に生かせばいいのだから。