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詩
33
「人間って、死後数分は耳が聞こえているらしいよ」
突然、耳元でそんな言葉が聞こえた。
見なくても分かる。声の主は俺の想い人。
ひろくんだった。
「…いきなりどうしたの、」
さっきの言葉の内容は、いつものひろくんからは出ないような話だった。
「…ううん、なんでも」
「ただ、うりさんに知っててほしかっただけ」
そう言って、ひろくんは身を翻して去っていった。
何故、あんなことを俺に知っていてほしかったのか。
まるで、ひろくんがもうすぐ死んでしまうような言い方だ。
「…………、、」
「…そんな訳、ないよな」
ひろくんが死ぬなんてあり得ない。
俺に何も言わずに死んでしまうことなんて、無いはず。
そう、言い聞かせた。
本当は怖かった。
どんどん小さくなっていくひろくんの背中を、もう見ることが出来ないのかもしれない。
突然この世からひろくんがいなくなったら、俺はどんな気持ちでいればいいんだろう。
ひろくんが、俺の全てなのに…。
「…うり?」
声がして振り向くと、心配そうな顔をしたメンバーが2人いた。
「あぁ…どした、?」
「ずっと呼んでたんだけど…うり、全然反応してくれなくて」
「大丈夫ですか…?疲れてないですか?」
驚いた。本当にずっと、呼ばれていることに気づかなかった。
ひろくんの言葉に心を動かされすぎだな…気をつけないと。
日常生活にまで影響が出てしまったら、問題事だ。
「大丈夫、ちょっと考え事してただけだって!」
「この通り、元気だから!」
そう言うと、2人はほっとした顔付きになった。
「それなら良かった。でも用件はまた後でにするね」
「ゆっくり休んでください!」
ひらひらと手を振りながら、2人も仲良く来た道を帰っていった。
…皆、このままいなくなったり…しないよな。
あの言葉からずっと、今まで気にならなかったことが心配になってくる。
皆がいなくなる訳無いのに。
「…ひろくんのせいだ、、」
今度会ったら、恨み言の一つでも吐いてやろう。
さて、俺も行くか…。
そのとき、突然大きな音がした。
日本語で言い表すなら…
「ぐちゃっ」、「キキーッ」、「ドンッ」…くらいか?
どれにしろ、あまり良い音では無い。
どうして、そんな音が…。
「…!!」
気づけば、俺は走り出していた。
瞬きが出来ないほど、思わず呼吸を忘れるほど…。
俺は追い込まれていた。
何故かなんて分からない。
ただ、冷や汗が止まらなかった。
“ただ、うりさんに知っててほしかっただけ”
その言葉が、何度も脳内を駆け巡る。
耳からは、人の叫び声と、怒声しか入ってこなかった。
建物から出て、声のする方向へ走る。
数回角を曲がると、人が密集して騒いでいる道路に出た。
「おい、救急車呼べよ!」
誰かが放った一言に、俺の頭は真っ白になった。
誰かが轢かれた?撥ねられた?
一体、誰が……?
「すみません、退いてください…っ、」
人の大群を押し退けて、中心へ急ぐ。
予想通り、そこには人が倒れていた。
近くにはタイヤの後が残ったトラックもあったが、運転席には誰もいなかった。
「……っ、、」
血の匂いが鼻を掠める。
倒れている人からは、大量の血が溢れていた。
恐らく、さっきのトラックに轢かれたのだろう。
でも今は、何に轢かれたかなんてどうでもいい。
「……………、、」
大量の血の上に横たわる人物を、俺は知っていた。
灰色の綺麗な髪。
目を閉じていてもその顔は美しくて、思わず女性と見間違える程。
何度も何度も、この顔を見た。
俺に笑いかける顔も、驚いた顔も、眠っている顔も。
全てが美しかった。
何度この顔に目を奪われたことか。
いつもならすぐに顔が赤くなって、彼から目を逸らすはずなのに。
何故か俺の瞳は彼に釘付けで、目からは大量の涙が溢れていた。
きっと…彼はもう、目覚めない。
笑ってくれないし、怒ってくれない。
ずっと、眠っているだけ。
もう…俺に笑いかけて、楽しくに2人で笑うことなんて…出来ない。
「なんで…」
「なんでだよ…ひろくん…っ、、」
hr side
“なんでだよ…ひろくん…”
うりさん……?
もう目も開けられなくて、手を動かす力も無かった。
まさか、こんな事になるなんて。
身体中が痛い。
耳からは叫び声しか聞こえてこないし、凄く不快だ。
そう呆れていると、聞き慣れた綺麗な声が耳に入ってきた。
よく透き通る、うりさんの声。
何度も、その声に惹かれてきた。
でも、うりさんは…
いつもみたいに元気な声じゃなかった。
まるで、泣いているみたい。
どうして泣いてるの…何か辛い事があったの…?
笑ってよ、俺心配だよ…。
“ひろくん、聞こえてる…?”
うりの、声…。
涙ぐんでる気がするけど、確かに俺に話しかけてくれた。
聞こえてる…。返事をしたいのに。
もう、話す気力も無かった。
“…人間は、死後数分…耳が聞こえるって、言ってたよね…”
そう言えば…言ったなぁ。
つい最近のことだけど、うりさん覚えてくれてたんだ。
“…俺、ひろくんに言いたいこと…沢山あるよ…”
……俺も、うりさんに言いたいことが沢山ある。
もっと、一緒に話したかった…遊びたかったなぁ…。
それなら、今話してるうりさんの顔を、ちゃんと見て聞けたのに。
“…ごめんね、ひろくん。迷惑ばっかかけちゃって…”
迷惑…?
うりさんに迷惑かけられたことなんて、無いのにな…。
“…最後に一つ、言わせて”
なんだろう…。
もう死んでるも同然なのに、呑気にそんな事を考えていた。
唇に柔らかい何かが触れる感触がした。
…何だ、今の……。
“……ひろくんっ、”
うりさんが、笑った気がした。
少し泣いているけど、我慢して…笑って。
そして、言った。
「 ____________ 」
うりさんが最後に、俺に何を伝えたかったのか。
俺には分からなかった。
言葉が耳に入る、直前で。
俺は完全に、この世から居なくなってしまったから。
コメント
7件
うあーーー!重いぃ、、、、 数分ってこれぽっちなのかぁ、、、、 うりりん頑張ったのになぁ、
お
うわっ…いきなり重い…これ、やばいやつだわ。 「死後数分は耳が聞こえる」っていう設定からして、伏線が既に仕込まれてて、最後の「伝わらなかった一言」がめっちゃ刺さった。ひろくんの意識がまだある状態でうりの声を聞いてるけど応えられなくて、唇の感触まであるのに…ってシーン、キツすぎる。 1話でここまで持ってく構成、巧いな。続き読みたいけど、また泣きそうで怖いわ🔥