ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。レイミと一緒にキャプテンボルティモアとの会談を済ませた私達は帰り道を用心しながら進みます。
帝都の貧民街はキャプテンの縄張りとは言え、治安はある意味シェルドハーフェンより悪いのです。
シェルドハーフェンは群雄割拠ではありますが、各区域を支配する組織が統治しておりある一定の治安は維持されています。独自のルールもありますし、エルダス・ファミリーみたいに内政に無関心な組織でなければ、ですが。
しかしここ貧民街は昨今の重税もあって治安は最悪。治安を維持するための帝都騎士団等も貧民街は半ば放置しているため、素敵な無法地帯が形成されています。結果何が起きるかといえば。
「お姉さま、お怪我はありませんか?」
「ありませんよ、レイミ」
宇宙一可愛い私の妹が因縁を吹っ掛けてきそうなチンピラを片っ端からサーチ&デストロイするので、私は貧民街では有り得ない程快適な散歩を堪能しています。私達は村娘姿、ましてレイミは美少女。狙いたくなる気持ちは分かりますよ。許容はしませんが。
レイミが刀を振るって血を払い、鞘に納めています。ちなみにレイミの刀は血塗られた戦旗との抗争で紛失してしまいましたので、ドルマンさんに依頼して新しいものを打って貰いました。
魔法が自由に使えるレイミのために、ドルマンさんは勇者の剣を復元する際僅かに余っていたマナメタルを使用。
刀身に冷気を纏わせる事が多いレイミにとって、まさに鬼に金棒?の処置だったらしく。
「冷凍ビーム!」
「ぎゃあああっ!!!」
切っ先から出されたビームが鉄棒を片手に近寄ってきた柄の悪い男性を氷付けにしてしまいました。
……これ無敵では?
「そうでもありませんよ、お姉さま。広範囲への攻撃には使えませんし、射程も短いです。ただ、刀身に冷気を纏うのは簡単になりました。改めて感謝を」
「働きに正当な報酬で報いるだけです」
まあ、レイミだから多少の贔屓はありますがね。
「お姉さま、このままお屋敷に戻りますか?」
「お姉様には明日戻ると伝えています。まだ時間はありますね」
空は真っ暗ですが、朝までにはまだ時間があります。そして交渉した為か目も冴えています。あんまり眠くない。
「では散策しますか?」
「レイミは大丈夫ですか?」
「三日までなら眠らずとも大丈夫です」
うちの妹は予想以上にタフに育った様子。お姉ちゃんとしては頼もしくも複雑な気分です。
レイミがただ笑って穏やかに暮らせる環境を整えてあげないといけません。うん、復讐以外にも目的が出来ましたね。
「では少し早いですが、港へ行きましょう」
余り帝都を出歩くのは避けたいのですが、帝都の港で確認したいことがありますからね。
私達姉妹はそのまま何度か絡まれながらも貧民街を脱して港へ向かいました。
「治安が悪すぎるでしょう」
「キャプテンボルティモアは統治に関心がないタイプなのでしょうね」
今の帝都は廃れています。度重なる増税で民は疲弊し、街は活気を失い貧民は増える一方。治安の悪化はある程度ならば裏社会にとって好都合ではありますが、行き過ぎれば旨味を失います。
キャプテンも帝都を牛耳りながらも本拠地は海賊の島ファイル島なのでしょうね。だから統治に関心がない。
何せ帝都ロザリアスは政治の中心ではありますが、特産品や資源が取れるわけではありません。治安が悪化して活気を失えば同時に旨味も消えていきます。
まだシェルドハーフェン旧市街の人達の方が活気もありますよ。成り上がろうとギラギラしていますね。
さて、現在時刻は真夜中と言って良い時間帯。篝火の火が灯されて僅かに道を照らしていますが、その数も少ない。如何に帝都が貧しくなっているかを証明していますね。
私達姉妹はランプを片手に歩き、暗い町並みを通って港へ辿り着きました。
「帝都の港となれば少しは船もあるかと思いましたが……」
「少し多いですね」
レイミが驚くのも無理はありません。暗い港には蒸気船が何十隻も停泊していました。月明かりに照らされた旗を見る限り、あちこちの貴族みたいですね。
去年ライデン社は蒸気船の値段を一気に引き下げました。マーガレットさん曰く燃料である石炭が採れる鉱山の大半はライデン社が買収しているので、一気に普及させて燃料費や維持費で稼ぐつもりなのだとか。
ライデン会長としては、大量建造によるコストダウンと技術の蓄積を目的にしているみたいです。既にシェルドハーフェンの港湾エリアにあるドックで次世代の軍艦を建造中であり、私達も結構な額を出資しています。
それはさておき、値段が下がったことで港を持つ貴族達が挙って蒸気船を購入したのは事実です。帝都には巨大なドックがありますから、そこで大量建造しています。だから帝都も港湾部だけは活気があるんですよ。
「お姉さま、こんな時間にに降ろしをすることはありますか?」
「ありませんよ、視界が悪いし足元が見えませんからね。トラブルの原因になります」
「では、あの連中は?」
私は暗くて良く見えませんが、どうやらレイミは遠方で作業する人たちが見える様子。
「レイミは見えるのですね」
「お姉さま、身体強化の応用です」
「なるほど、視力を強化することが出来ると。後程練習しましょう。それで、なにが見えますか?」
気付かれるわけにはいきませんから、ランプの明かりを消して観察します。まあ、見るのはレイミですが。
「桟橋につけた船から大量の積み荷を降ろしていますね。降ろされた積み荷は馬車に運び込まれていますが……馬車に紋章はありませんね」
「ふむ、船の旗印はありますか?」
「お待ちを……残念ですが、旗印もありません。ただ、船の形状は覚えました」
「では後程絵を描いてください。ラメルさん達に調査を依頼しましょう」
まあ、こんな時間帯にコソコソしてるんです。間違いなく悪巧みでしょう。そして恐らく貴族によるもの。お姉様に良いお土産が出来ましたね。
何らかの策謀の匂いを感じながらシャーリィは笑みを浮かべた。彼女にとって他者の悪巧みなど利用できるなら利用するだけのものなのだから。
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