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「絶対に落とせます」
コンシリエーレは真顔で言った。
屋敷の会議室。
長机を囲むように、
カポ、ソル、ラクティー、そしてマフィオソが座っている。
「……本気で言っているのか」
マフィオソの低い声。
「ええ」
リエーレは冷静だった。
「現状、主導権は完全にチャンス側にあります」
「ボスは毎回ペースを握られている」
「それが問題です」
「いや問題なのそこ!?」
カポが突っ込む。
「もうちょい別の問題あるだろ!!」
「あります」
リエーレ即答。
「ですが、最優先事項は“主導権の奪還”です」
ソルが小さく手を挙げる。
「でも……どうやって?」
その瞬間。
リエーレの眼鏡が怪しく光った。
「簡単です」
静かにメモを置く。
そこには大きく、
【チャンスを“逆に”落とす】
と書かれていた。
「………………」
会議室が静まり返る。
「嫌な予感しかしねぇ」
カポが顔を覆う。
「待て」
マフィオソが眉を寄せる。
「なぜそうなる」
「チャンスは“追う側”です」
リエーレは淡々と説明する。
「つまり、追われる側に回る経験に極端に弱い」
「実際、ボスが少し距離を詰めるだけで明らかに動揺しています」
「……そうか?」
「はい」
全員頷く。
ラクティーまで。
「めちゃくちゃ効いてます」
「この前もボスが“帰る場所”って言った時、固まってましたし」
「ボス無自覚で重いんですよ」
「……」
マフィオソは少し黙る。
「つまり」
リエーレが結論を言う。
「ボスが少し誘惑すれば、チャンスは崩れます」
「崩してどうする」
「主導権を握ります」
「……」
「今後の安全保障のために」
どんな理論だ。
だが——
マフィオソは少し考え込む。
「……具体的には」
カポが絶望した顔をした。
「聞くんだ……」
リエーレは静かにメモをめくる。
「まず、ネクタイを緩めてください」
「断る」
即答。
「ではシャツのボタンを一つ」
「断る」
「視線だけでも」
「断る」
「ボス、やる気あります?」
「ない」
「ありますよ」
リエーレが断言する。
「ここで引いたら今後ずっとチャンスのペースです」
「うっ」
ソルが小さく呻く。
「それは嫌かも……」
「でしょう」
リエーレが頷く。
「ですので今夜、逆襲します」
⸻
その夜。
カジノVIPルーム。
「で?」
チャンスが笑う。
「今日は何の用?」
ソファに座り、
いつもの余裕顔。
完全に“いつも通り”だった。
マフィオソは向かいに立つ。
リエーレたちは別室から監視中。
『ボス、落ち着いてください』
イヤホン越しにリエーレの声。
『まずはネクタイを』
「……」
マフィオソの指が、
ゆっくりネクタイへ伸びる。
緩める。
ほんの少しだけ。
チャンスが止まる。
「……え?」
『効いてます』
リエーレ即報告。
『続けてください』
しかし。
マフィオソはぎこちない。
死ぬほどぎこちない。
だが。
本人は真面目なので、
全力でやっている。
「……チャンス」
低い声。
「今夜は」
少しだけ身を乗り出す。
「お前の言う通りにしてやってもいいが?」
静寂。
「………………は?」
チャンス、停止。
完全に。
『入りました』
リエーレが小声で言う。
『押してください』
マフィオソはさらに近づく。
「どうした」
「いつもみたいに喋らないのか」
「…………」
チャンスが黙っている。
珍しい。
耳まで赤い。
『今です』
リエーレの声。
『視線を外さずに』
マフィオソは真面目に実行する。
「……」
じっと見る。
近い。
かなり近い。
「……お前」
チャンスの声が変になる。
「それ、反則……」
『勝ちました』
リエーレ確信。
しかし次の瞬間。
チャンスが突然立ち上がった。
「待て待て待て待て」
両手で顔を覆う。
「無理無理無理」
「……?」
マフィオソが困惑する。
「どうした」
「どうしたじゃねぇ!!」
チャンスが叫ぶ。
「何!?!?」
「急に何!?」
「え、待って」
「心の準備が」
「え?」
完全に大混乱。
『……想定以上に効いてますね』
リエーレすら若干引いている。
「お前、いつもこんな感じで俺にやってたのか!?」
チャンスが頭を抱える。
「いや待て、やばい」
「嬉しい」
「でもやばい」
「死ぬ」
「落ち着け」
「無理!!!!」
ガンッ!!
勢い余ってテーブルに膝をぶつける。
「あっ痛ぇ!!」
「……」
マフィオソが若干引いている。
『ボス、そのまま押してください』
「本当に大丈夫なのか」
『たぶん』
「たぶん」
マフィオソは少し迷い——
それでもリエーレを信じて、
再びチャンスへ近づく。
「……チャンス」
名前を呼ぶ。
その瞬間。
「うわぁぁぁ!!」
チャンスがソファへ顔から突っ伏した。
「ダメだ!!」
「今日のお前ダメだ!!」
「好き!!」
「理性が!!」
「壊れる!!」
監視室。
「……」
カポが静かに呟く。
「なんかもう……」
「思ってたんと違う」
ソルが頷く。
「もっとこう、駆け引き的な……」
ラクティーは爆笑していた。
「チャンスさん、弱〜!」
リエーレだけが冷静にメモしている。
『ボスの無自覚攻撃、極めて危険』
『チャンスに致命的有効』
その頃。
VIPルームでは。
「……」
マフィオソが困った顔で、
ソファに埋まるチャンスを見下ろしていた。
「……これで」
低い声。
「私の勝ちか?」
「いや……」
チャンスが顔を隠したまま呟く。
「お前がそういうこと言うと」
ゆっくり顔を上げる。
目が完全に熱暴走している。
「余計好きになるからやめろ」
沈黙。
マフィオソが珍しく、
本気で言葉に詰まった。
監視室。
「「「「うわぁ……」」」」
ゆゆゆゆ
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