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13
放課後の廊下で崩れてから、数日。
「元貴」
名前を呼ばれる。
その声にびくっとする癖は、まだ抜けない。
「大丈夫?」
「……うん」
短く返す。
嘘じゃないけど、本当でもない。
あの日、またフラッシュバックして。
ちゃんと戻ってこれたはずなのに。
「……まだ怖い?」
遠慮がちな声。
踏み込まない、でも引きすぎない距離。
「……ちょっと」
正直に答える。
「触られるのとか、急に来られるのとか……」
言葉を探す。
「あと……言い方」
「そっか、」
若井はそれ以上何も聞かなかった。
ただ、少しだけうなずく気配。
それが、ありがたかった。
その日の帰り。
昇降口で靴を履き替えながら、ふと口が動く。
「…若井」
「ん?」
「今日さ」
言っていいのか、迷う。
でも、あの日。
ちゃんと戻ってこれたのは、たぶん―
「一緒に帰ってもいい、」
自分で言って、心臓が跳ねる。
沈黙。
ほんの一瞬なのに、すごく長く感じる。
「……いいの?」
慎重な声。
前と同じ確認。
「…うん」
小さくうなずく。
「無理してない?」
「してない」
「ほんとに?」
「……ちょっとだけ、してる」
正直に言うと、少しだけ息を呑む気配。
「でも」
続ける。
「一人で帰るほうが、怖い」
それは、はっきりしていた。
考えすぎて、勝手に苦しくなるから。
「…そっか」
若井はそれ以上何も言わなかった。
ただ、靴箱を閉める音がやけに優しかった。
帰り道。
前より、 少しだけ近い距離。
それでも、まだ余裕はない。
「…元貴」
名前を呼ばれるたびに、少しだけ身構える。
でも、逃げない。
「なに」
ちゃんと返せる。
それだけで、少し進んでる気がした。
「寒くない?」
「……平気」
短いやり取り。
でも、その空気が落ち着く。
沈黙も、前ほど苦じゃない。
「……あのさ」
ふいに、元貴が口を開く。
「ん?」
「ちょっとだけ」
言いながら、自分の手を見る。
震えてないか、確認するみたいに。
「……近く、来てくれる、?」
言った瞬間、後悔しかける。
やっぱり無理かもしれない。
でも。
「……ここでいい?」
すぐに距離を詰めるんじゃなくて、確認してくる声。
「…うん」
その一言で、少しだけ肩の力が抜けた。
ゆっくり。
本当にゆっくり、半歩だけ距離が縮まる。
それだけで、心臓はうるさいまま。
「……っ」
やっぱり、少し怖い。
体が覚えてる。
でも。
「……大丈夫?」
すぐに止まる声。
その一言で、現実に引き戻される。
「……うん」
小さくうなずく。
「大丈夫……だと思う」
完全じゃない。
でも、さっきよりはマシ。
その繰り返し 。
「……ありがと」
ぽつりと、若井が言う。
「……なんで」
「来てもいいって言ってくれたから」
当たり前みたいに言われる。
それが、変にくすぐったい。
「……別に」
そっけなく返す。
でも、少しだけ頬が熱い。
歩いていると、ふと影が重なる。
肩が、ほんの少しだけ触れた。
「……っ」
一瞬、呼吸が止まる。
過去が、よぎる。
でも。
「……元貴」
すぐに、少しだけ距離が離れる。
逃げるためじゃなくて、様子を見るための動き。
それがわかる。
「…ごめん」
「……違う」
反射で出た謝罪を、否定する。
「嫌じゃ、ない」
言ってから、少し間があく。
「……怖いけど」
本音がこぼれる。
「でも……」
言葉を探す。
「前より、ちゃんと今ってわかる」
それが、今の限界。
でも、確かな変化。
若井がは少しだけ黙って、それから。
「……そっか」
それ以上、何も言わなかった。
無理に踏み込まない。
でも、離れすぎない。
その距離が、ちょうどいい。
少し歩いてから。
「……元貴」
また名前を呼ばれる。
「なに」
「さっきの」
少しだけ間があって。
「すごいと思う」
「……やめて」
すぐに返す。
でも、声は前より柔らかい。
「そういうの、まだ慣れない 」
「うん」
あっさり受け止められる。
「じゃあ、言わないほうがいい?」
「……それは」
迷う。
言われると困る。
でも、言われないのも―
「……少しなら」
ぽつりと出る。
「たまにでいい」
自分でもよくわからない条件。
でも、正直だった。
「了解」
軽く返される。
その軽さが、ありがたい。
帰り道の終わり。
別れる少し前で、足が止まる。
「……若井」
「ん?」
「僕さ」
言葉を選ぶ。
間違えたくないから。
「たぶん、すぐ戻る」
怖くなって、距離とったり。
またパニックになったり。
「……うん」
否定しない声 。
「それでも」
少しだけ顔を上げる。
「また、隣いていい?」
小さな声。
でも、ちゃんと届く距離。
「、うん」
即答だった。
「何回でもいいよ」
その言葉に、胸がぎゅっとなる。
完全に安心なんて、まだできない。
怖さも、消えない。
でも。
「……ほんと、ずるい」
小さく呟く。
「そういうの」
離れられなくなるから。
それでも。
「……ちょっとだけなら」
自分から一歩、踏み出せる。
その繰り返しでいいと思えた。
下手になった?
コメント
2件
えがちで上手すぎるよ ~ 😭😭😭😭 なんか , 小説( ?? )を読んでるみたい この後の発展めっちゃわくわくする 😖💭 続きも楽しみにしてるよ - う !!!!! 🤙🏻🎀