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23
放課後。
教室に残っているのは、僕と若井だけ 。
窓の外はもう薄暗くて、世界が少しだけ静かになる時間。
「……元貴」
「ん」
名前を呼ばれて、顔を上げる。
前みたいに、びくっとはしなくなった。
それでも、心臓は少しだけ速くなる 。
「もう帰る?」
「……うん」
ノートを閉じて、立ち上がる。
そのとき、椅子が少し音を立てて。
「っ」
小さく体が強張る。
「……大丈夫?」
すぐに距離を詰めない声。
それだけで、呼吸が整う。
「……平気」
短く答える。
完全じゃないけど、ちゃんと戻れる。
それが、前との違い 。
昇降口までの廊下。
隣を歩く距離も、だいぶ慣れてきた。
それでも、ふとした瞬間に過去がよぎるのは変わらない。
「……元貴」
「なに」
「今日、ちょっと寒くない?」
「…少し」
そんな他愛もない会話。
それが、やけに安心する。
靴を履き替えて、外に出る。
冷たい空気が、少しだけ気持ちいい。
歩き出して、しばらく。
沈黙が続く。
嫌じゃない沈黙。
でも、今日は―
「……あのさ」
自分から声を出す。
「ん?」
その一言で、また少し緊張する。
言うか、やめるか。
迷う。
でも。
「……ちょっとだけ」
言いながら、視線を落とす。
自分の手を見る。
「……なに?」
若井の声は、いつも 通り落ち着いてる。
急かさない 。
「……触っても 、いい」
言ってしまったあと、時間が止まる。
心臓の音だけがうるさい。
「……どこ」
慎重な声。
冗談にもしない。
「……その」
言葉に詰まる。
「袖……とか」
それが限界だった。
「いいよ」
すぐに返ってくる。
でも、動かない。
元貴が動くのを、待ってる。
その配慮が、ちゃんとわかる。
「……っ」
一歩、近づく。
それだけで、心臓が跳ねる。
手が、少し震える。
やめたほうがいいかもしれない。
でも。
――自分でやるって、決めた。
ゆっくり。
本当にゆっくり、手を伸ばす。
布に触れる直前で、一瞬止まる。
怖い。
あの日の感覚が、少しだけよぎる。
でも。
「……元貴」
名前を呼ばれる。
優しく、静かに。
それだけで、現実に戻る。
「…大丈夫。」
自分に言い聞かせるみたいに呟く。
そして。
そっと、袖の端をつかむ。
「……っ」
触れた。
逃げなかった。
自分から。
「……どう」
かすれた声で聞く。
「大丈夫?」
聞きたいのは、本当は自分のこと。
「うん」
すぐに返ってくる。
「元貴が大丈夫そう」
その言い方が、少しだけくすぐったい。
「……わかるの」
「なんとなく」
軽い返事。
でも、ちゃんと見てる感じがする。
「……そっか 」
少しだけ、力を抜く。
袖をつかむ指先は、まだぎこちないまま。
それでも、離さない。
離したくない。
「……あのさ」
少しだけ間を置いて。
「まだ、怖い」
正直に言う。
「うん」
すぐに肯定される。
「でも」
言葉を探す。
「さっきより、大丈夫」
それが今の全部。
「……そっか」
若井はそれ以上何も言わない。
ただ、歩く速さを少しだけ合わせてくる。
引っ張らない。
でも、離れない。
その距離が、ちょうどいい。
少し歩いて。
「……元貴」
「なに」
「今の、すごいと思う」
「……やめて」
反射で言う。
でも、前より少しだけ弱い。
「そういうの、まだ慣れない」
「うん」
あっさり引く。
それも、安心する 。
「……でも」
小さく続ける。
「ちょっとだけなら」
褒められるのも、悪くないと思ってしまった。
「……ほんと、ちょっとだけだから」
言い訳みたいに付け足す。
「了解 」
軽く返される。
その軽さが、ちょうどいい。
別れ道の手前。
足が止まる。
袖をつかんだままなのに気づいて、少しだけ焦る。
「……あ」
離そうとする。
でも 。
「……そのままでいい」
若井の声。
優しいけど、押しつけない。
「……いいの」
「元貴がいいなら」
その言葉に、また胸がぎゅっとなる。
「じゃあ、」
ほんの少しだけ、指に力を入れる。
「…もうちょっとだけ」
それが限界。
でも、ちゃんと自分で決めた一歩。
怖さは、消えない。
たぶん、これからも。
それでも。
「……ちょっとずつ」
そう思いながら、袖をつかむ手を離さなかった。
かわええなあ
コメント
7件
わ ーー 最高すぎる ーーー 😭😭😭 ほんとに天才ですか ??? 天才ですよね ??? 🫵🏻🫵🏻 見ててほんとに楽しいし , 飽きないよ 🥹🥹 続き楽しみにしてます‼️‼️😽🫶🏻
うわあ……めちゃくちゃ良かった……! 元貴が自分から「袖、とか」って言えたの、それだけで泣きそうになったわ。 震える手で触るところとか、若井が「元貴が大丈夫そう」って返すところとか、一つ一つのやり取りが丁寧で、じんわり来た。 怖さは消えないけど“ちょっとずつ”進む感じが、この物語にぴったりだと思う。 かわええなあ、って言いたくなる気持ち、めっちゃ分かる(笑)。次も楽しみにしてる🔥 (…って、つい熱くなって200字超えそうになったわ。許してくれ。)