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水曜日になり、私は弁護士事務所へ相談に訪れた。
ケガをした左手はスリングで吊った状態で、やはりインパクトがあったのか、弁護士の山崎先生は親身になって聞いてくれた。
先ずは、夫である健治との離婚の相談。
これに関して、いろいろやらかしている私としては、慰謝料などは無しで、弁護士費用を負担してもらえれば良いと考えていた。けれども、健治が有責であるという事実を残すためにも僅かでも良いから、慰謝料を請求した方が良いというアドバイスをもらい、新居に移るための費用分ぐらいの請求をすることになった。
それから、野々宮果歩の件だ。
夫・健治の不倫をした果歩。その経緯を説明した。そして、ケガを負わされた時の状況を説明したのち、果歩の夫である野々宮成明先生から提供された数々の証拠を元に刑事告訴をしたい旨を伝えた。
実際に大ケガをしているのだから、果歩には罪を償わせたい。
そして、これ以上、自分勝手な振る舞いで、むやみに人を攻撃するは止めて欲しかったのだ。
ただ、弁護士の山崎先生の説明では、刑事事件の66%が不起訴となっており、うち87%が起訴猶予による不起訴になるので、示談という選択も視野に入れてはどうかと言われてしまい、かなりショックだった。
示談なんてしたら、果歩のことだ、「お金を払って済むなら」と反省もしないだろう。
その挙句「お金が欲しかったから、大げさに騒ぎ立てた」とも言いかねないのだ。
相談が終わり、私は憂鬱な気持ちで、弁護士事務所のドアを閉めた。
事務所が入っているビルのエントランスホールを抜けると、外は暗くなり始めていた。
ひんやりとした空気に触れ、芯から冷える気がする。
「はぁー、なんでこんな思いをしないといけないんだろう」
ため息と一緒に吐き出した息が、宵闇に溶けていく。
私の体を気遣って「迎えに行くよ」と三崎君は言ってくれたけれど、丁重にお断りをした。
仕事を早退してまで、送迎をしてもらうのは気が引けるし、何しろ、まだ自分は既婚者で、離婚の相談をしている最中のなに、二人きりで会うのは、良くないと思ったからだ。
弁護士事務所が入っているビルの最寄り駅となる|栢浜《かやはま》駅まで行けば、タクシー乗り場がある。
5分も歩けば着く距離だし、地下街を使えば、寒さに当たらずに済む。
弁護士事務所で相談した資料が入っているA4サイズの封筒を抱えながら、
地下街に入った。
この地下街は、駅周辺のビルと直結になっていて、利便性としては最高だ。有名ホテルやデパート、それに家電量販店などが繋がっている。
ずっと入院していた私としては、久しぶりにデパ地下を覗くのも楽しみのひとつだ。
手のケガで、思う様に料理が出ないから、美味しいお弁当を買って帰るの目的だったりする。
「わー、どれも美味しそう」
華やかなお弁当に目移りしてしまう。
どのお弁当を買おうかと、私は夢中になってショーケースを覗き込んでいた。
だから、その私を見つめる瞳に気がつかなかった。