テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ち び
65

61
遠ざかっていくはやちゃんの背中を見送ったあと、僕たちの間には冷たい沈黙が続いていた。
僕はたまらなくなって、隣に立つ彼に声をかけた。
「しゅん、本当にごめん」
「いや、ええけど……」
「色々と連絡がすれ違っちゃって、はやちゃん、良かれと思ってここまで迎えに来てくれちゃったみたいで……」
「もう、その話はええって」
「あ……うん、ごめん……」
「はよ帰ろ」
「……、うん」
完全に怒らせてしまった。
冷たく突き放すような彼の声に、胸の奥がキュッと引き締められるように痛む。
全部僕のせい。
せっかくの楽しい旅行だったのに、最後にこんな最悪な空気にしてしまうなんて。
彼は自分のキャリーバッグと僕の重いカバンを当たり前のように両手に持って、スタスタと前を歩いていく。
でも僕を置いていかないように、時折チラチラと後ろを振り返りながら歩調を合わせてくれる。
本当に、どこまでも優しい人。
そんな人を、僕は怒らせて悲しませてしまったのだ。
駐車場に着き、彼の車に乗り込む。
彼はトランクに荷物を詰め込むと、運転席に乗り込むなり、助手席で黙って俯いている僕の身体にそっと手を伸ばし、シートベルトを優しくカチリと締めてくれた。
衣服越しに伝わる、彼の大きな手のぬくもり。
あ……やばい、泣きそう、、。
自分の情けなさと、彼の変わらない過保護な優しさが胸に一気に込み上げてきて、視界が急激にうるんでいく。
僕は大慌てで窓の外の景色を見つめ、彼に涙を見られないよう、奥歯を噛み締めて静かに涙を堪えた。
ブォン、と静かにエンジンが始動し、車が空港の駐車場を走り出す。
「……。」
車内を支配する、重苦しい沈黙。
「なぁ、じゅう……」
しばらくの沈黙のあと、助手席の僕を呼ぶ彼の少し掠れた声に、僕はびくりと肩を揺らし彼を振り返った。
だが、勢いよく顔を動かしてしまったその反動で、限界まで堪えていた大粒の涙が僕の瞳からポロポロと零れ落ちてしまった。
「、え……、……?」
僕の顔を見た彼が、焦ったように驚いた声を上げる。
「あ、いや…、今、なんか大きなあくびしちゃって!」
涙を拭いながら必死に笑ってみせるが、 あまりにも無理のあるバレバレの嘘。
「……じゅう。俺、ほんまに嫌な態度やったよなぁ?……ごめんな?」
「あ、いや、、そんなこと……」
僕は恥ずかしさと申し訳なさから、顔を隠すように下を向いて身を縮こまらせた。
そんな僕の様子を見て、彼は運転していた車を一旦左の路肩に寄せ静かに停車させた。
カチコチと、オレンジ色のハザードランプの音が静かな車内に規則正しく響き始める。
「じゅう……怖かったな? ごめんなぁ?」
彼はシートベルトを外して僕の方へと身体を向けると、とてつもなく優しい声で僕の名前を呼んだ。
その声の温もりに心臓が痛いくらいに締め付けられ、余計に涙が止まらなくなる。
僕はぶんぶんと首を大きく横に振って、彼の言葉を全力で否定した。
……怖いわけない。
この人が僕のことをどれだけ大切に思ってくれているか、知っているから。
こんなふうに、すぐに泣いて自分の殻に閉じこもるめんどくさい奴、普通なら絶対に嫌になるはずなのに。
「……本当に、大丈夫だから……っ!」
涙を袖口で乱暴に拭って、僕は無理矢理にクシャッと笑顔を作ってみせた。
彼はそんな僕の強がりを全部見透かしたように、困ったように優しく笑って僕の頭の上に大きな手をポンと乗せた。
「あんなぁ、じゅう。これは完全に、俺の問題やから。じゅうはなーんも悪くないんやで?」
「……でも、俺がちゃんとはやちゃんに言っておけば……」
「違うんよ、じゅうは悪ない。……俺な、勇斗くんにめちゃくちゃヤキモチ焼いてたんよ」
「え……?」
「じゅうが俺のおらん数年の間に、あんなに格好良い男に守られて、お兄ちゃんみたいとかヒーローみたいに慕っとるんが……正直、めちゃくちゃ悔しくて、羨ましかったんさ。だから、急に本物が目の前に現れて、余裕なくなって嫉妬してもうただけ。…困らせて、ほんまにごめんな? だから、もう気にせんで?」
「…うん。ごめんね、ありがと……」
昨日だって、彼ははやちゃんに対して分かりやすく嫉妬していた。
そんな相手が、東京に戻ってきた瞬間に急に空港のロビーに現れたのだ。
当たり前に戸惑うし、男としてのプライドだって傷ついたはずだ。
彼があんな態度になってしまうのも、今なら痛いほど納得がいった。
色々と思うことはあったけれど、これ以上僕が謝ったら、彼をさらに困らせてしまう。
僕は彼の言葉を信じて、これ以上は何も言わずに、ただその優しいぬくもりを受け入れることを選んだ。
「よしっ!!」
彼は自分の両頬を、パンッパンッと大きな音を立てて引っ叩くと、いつものひまわりみたいな眩しい笑顔で僕に向き直った。
「ほな、気を取り直しておうち帰るまでドライブや!!」
暗い空気を一瞬で吹き飛ばしてしまう彼の太陽みたいな笑顔につられて、僕も自然と笑みが零れる。
「よーしっ! しゅん、運転お願いします!」
「おう! 帰るまでが旅行やからな! 安全運転で送るわ!」
そう言って、彼はハザードランプを消しウインカーを点けて車を再びゆっくりと発進させた。
窓の外には北海道とは違う、見慣れた東京のビル群と夕暮れの景色が広がり始めている。
to be continued…
コメント
1件
一日で2話も投稿してくださりありがとうございます!!続きが楽しみで仕方がなかったので嬉しいです!!🍼❤が嫉妬するの分かりやすすぎて本当に尊いです🥰涙脆い🤍も可愛すぎて愛おしいです!!無理をなさらず主様のペースでこれからも頑張ってください♪明日も楽しみにしています😊