テラーノベル
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目黒の腕の中で、康二は久しぶりに穏やかな眠りから覚めた。目を開けると、すぐ目の前に、心配そうに自分を覗き込む愛しい顔がある。
「…めめ」
「ん、起きた?よく眠れた?」
その優しい声に、もう何のわだかまりもない。康二は「おん」と頷き、ゆっくりと体を起こした。まだ少し気怠さは残るが、心は羽のように軽い。
「なんか、腹減ったなぁ」
「ふふ、良かった」
目黒が心底嬉しそうに笑う。そして、リビングの方を指差した。
「みんな、待ってるよ」
「え、ほんまに!?」
その言葉に、康二の目がキラキラと輝いた。さっき気まずそうに出て行ったメンバーたちが、まだいてくれる。その事実が、たまらなく嬉しかった。康二はベッドから飛び出すと、スリッパも履かずにリビングへと駆け出した。
「翔太ー!」
リビングでソファに座ってスマホをいじっていた渡辺を見つけるなり、康二は勢いよくその背中に抱きついた。
「うおっ!…おい、急にくっつくなよ」
渡辺は「おいおい…」と口では文句を言いながらも、その体を振り払うことはせず、されるがままになっている。そのツンデレな優しさが、康二には嬉しかった。
「おい康二!俺もいたのになんで翔太が先なんだよ!」
その様子を、隣で見ていた佐久間が頬を膨らませて嫉妬の声を上げる。
「ごめんってさっくん!」
康二は渡辺からぱっと離れると、今度は佐久間にぎゅーっと抱きついた。佐久間は「よーしよしよし!」と満足げに康二の頭をわしゃわしゃと撫でる。
そんな三人のやり取りを、阿部が穏やかな笑みで見守っていた。
「元気になったんだな。よかったよ、康二」
「阿部ちゃん、心配かけてごめんな」
キッチンからは、食欲をそそるいい匂いが漂ってくる。振り返ると、宮舘が慣れた手つきで次々と大皿を食卓に並べていた。
「はーいできたよー! 冷めないうちに食べな〜!」
その隣では、シャツの件で和解(?)したらしい岩本と深澤が、箸や取り皿を並べる手伝いをしている。
「照にぃも、ふっかさんも、ありがとうな」
康二が言うと、岩本は「おう」と短く答え、深澤は「まー、兄貴に任せろって!」と得意げに胸を張った。
食卓に並べられたのは、宮舘特製の生姜焼きに、出汁の効いた卵焼き、野菜たっぷりの豚汁。弱った体に染み渡るような、優しくて温かい料理ばかりだった。
「「「いただきます!」」」
九つの声が、部屋に重なる。みんなで囲む食卓は、どんな高級レストランよりも賑やかで、心地よかった。
「康二、ちゃんと食えよ」
隣に座った目黒が、そっと康二の皿に一番大きな生姜焼きを乗せる。康二は「サンキュ」と照れくさそうに笑い返し、大きな口でそれを頬張った。
ぶつかって、すれ違って、それでも最後はこうして笑い合える。この温かい光が灯る場所があるから、彼らは何度でも立ち上がれる。
アンファインダーの向こう側で輝く笑顔の、本当の源は、間違いなくこの何気ない日常の中にあった。
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