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【sk】
「いだっ…!!」
騒々しい声で目が覚める。
目の前には寝ぼけた顔のふっか。
声の主もふっか。
そのふっかの首筋を噛んでいる俺。
その俺の頭の下にはふっかの腕。
ふっかに腕枕されている、俺。
「…は?」
一気に覚醒して飛び起きた。
呑気にまた眠りの世界に入ろうとしてるふっかの頭を思いきり叩く。
「なにもう…いったあい」
首筋をがしがしと掻きながらのそりと起き上がったふっかの姿を見て血の気が引いた。
「おい、ふかざわ…」
「んあ、なによ」
状況を理解できていないふっかの腕を指差す。
そこには、無数の噛み跡。
「えっ、なにこれ怖っ!!」
「怖いよね、俺も怖い」
そっと布団をめくって下半身を確認する。
パンツ、ない。
もう一度布団をかけて、深く深呼吸する。
「ふかざわ、分かる?やばいことになった」
衝撃で声も出せないふっかが何度も縦に首を振る。
やばいこと、それは俺の恋人の岩本照。
自他共に認める嫉妬の鬼。
「とりあえず、体のチェック!」
お尻、腰、念のため胸、布団の中でもぞもぞと体の違和感を探る。
どこをチェックしているのかは知らないけど、ふっかも隣でもぞもぞ動いている。
お互いに全裸ではあるが、違和感はない。
一呼吸置いて顔を見合わせる。
「「よかったーーーー!!!」」
安堵のあまり抱き締め合う。
昨日は俺の家で酒を飲みながら、ふっかとゲームをしていたはずだった。
それがどうしてこんな状況になったのかは全く全然分からないけど、俺等の友情が壊れる事態にならなかったことにまずは一安心。
しかし、ゆっくり休んでいる暇はない。
今日は俺も照もオフ。
当たり前のように一緒に過ごすことになっている。
約束の時間は決めてあるけど、照が約束を守ったことはほとんどない。
俺の準備が終わっていなくても…どころか、明らかに寝ている時間でも、会いたくなったら会いに来る。
それが、俺の彼氏の岩本照。
ふっかと目を合わせて、こくりと頷く。
それを合図に同時にベッドから飛び降りる。
「とりあえずパンツ!」
所構わず散らばっている服の中から探し出し、裏表を確認する余裕もないまま、転びそうになる足を叱咤してパンツを履く。
「パンツない!パンツ!パンツ!」
這いつくばりながら尻丸出しでパンツを探す深澤。
そんな最高に面白い姿を見ても、今は笑う余裕はない。
パンツは後で探すことにして、とりあえずまずはふっかを追い出さないと。
クローゼットから俺のパンツを取り出して投げ付ける。
「とりあえずこれ履いて、俺はスマホ確認するからお前は自分の服と荷物だけかき集めてさっさと着替えて!」
頭に俺のパンツを乗っけたまま涙目になってるふっかは一旦無視。
幸いにも枕元にあったスマホを急いで確認する。
時刻は朝の5時半、早朝も早朝。
夜中でも突然来訪する照に対して、この時間なら安心…とはなるはずもない。
着信は2件、時間は23時と0時。
昨日はふっかとゲームすることを伝えてあったから、邪魔をしないように気を遣ってくれたんだな。
この時間なら、ギリ寝てて気付かなかったことにできる。
メッセージは2件、どちらも電話をかけた後に送っている。
『もうふっか帰った?ゲーム楽しかった?』
『もう寝てるよね?俺も明日に備えてもう寝るね』
備えるな!と理不尽に叫びそうになる。
睡眠時間のことだけ考えればまだ大丈夫な気もするけど、俺が一度も連絡しなかったとことを加味すると今の時間はもう危ないかもしれない。
「佐久間!着替えた!」
褒めて!と言わんばかりにふっかが駆け寄ってくる。
ロンTを来ているから腕の跡は隠れているけど、1番新しい跡がある首は丸出し。
見てくれ!と主張するように艶めかしく存在感を放つ歯形。
照に見つからなかったとしても、アイドルとしてこれはアウト。
クローゼットから今度はネックウォーマーを取り出してふっかに被せる。
「この季節にこれは、違和感じゃない?」
「違和感かもしれんけど我慢して、お前見てないから分かんないだろうけどくっきり歯形ついてる」
ついでにぼさぼさの頭も軽く整える。
「どんな力で噛んだんだよ…」
「それでも二度寝しようとしたお前に言われたくないね」
なかなか直らない寝癖を諦めてぺしんと頭を叩く。
「てかそもそもなんで噛むのよ、今になって痛くなってきた…」
腕をさするふっかを見て、さすがに申し訳なくなる。
噛んだ俺から見ても痛そうな痕だった。
あれで起きないふっかもすごいけど。
「まあ、それは…ごめん!癖だからどうしようもなくてさ」
「その癖絶対直した方がいい」
着替えを済ませて安心したのか、ふっかの焦りが薄れているのを感じる。
まあ普通に考えてこんな時間に連絡もなしに訪ねてくるなんて思わないよな。
「とにかく!多分もうすぐあいつがここに来る!いつも今じゃないって時に来るから…ふっか、お前はその前に逃げろ」
「ねえ、彼氏の話してるんだよね?お前の彼氏ゲームの中ボスかなんかなの?」
中ボス程度ならどれだけよかったか…
嫉妬に狂った照には、攻略法なんてない。
余裕を見せるふっかを無理矢理家から追い出す。
1番の危険因子を取り除いたとはいえ、まだ安心はできない。
次は急いで部屋のチェック。
ふっかのパンツは…とりあえず後にして、危ないのは枕元の髪の毛かな。
俺の髪は色ですぐ分かるし、照とふっかでは髪質が違うからあいつならきっとすぐ気付く。
同じベッドに居たことがバレるのが1番やばい。
齧り付くように枕周りを探る。
見つけた髪の毛をつまみ上げて観察してみるが、全く分からない。
これ、照ほんとに分かるかな…?
埒があかないので、コロコロを持ってきて全部綺麗にしちゃう作戦に変更する。
枕の下まで念入りにコロコロしていると、いきなり寝室の扉が開いた。
「ちょっとなにふっか、忘れ物…なら…」
振り返ると、そこに立っていたのは首根っこを掴まれたふっかと、俺のネックウォーマーを手に不適に微笑む彼氏様。
パンイチでベッドに跨がったまま固まって動けない俺を、上から下までじっくり眺めた後、ひとつ息をつく。
嫉妬の鬼が、地を裂くような低い声で地獄の始まりを告げた。
「…どういうことか説明してもらおうか?」
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タイトルに「ᖴ」がつくものは
ふっか巻き込まれ案件のお話です