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2 - EGGMAN 第2話・保温②

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2024年08月05日

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【第2話・保温②】

「これ、何の卵だと思う?」


「どこで拾ってきたの。野鳥の卵だとしたら僕の知識の範囲外だ。調べれば分かるだろうけど」

「拾ったんじゃなくて貰ったの。知らないお爺さんから」

「ふーん。そのお爺さんは何の卵だって?」

「内緒だって。育ててみなさいって」

莉乃は咄嗟に少しの嘘を織り交ぜた。

正直に言う気がしなかった。

「英人お願い!一緒に育ててくれる?絶対に私一人じゃ失敗しちゃうから!」

「面倒臭いよ、成功して産まれたらどうするの?お母さんが動物嫌いなの知っているでしょ?うちは犬も猫もダメなの!ましてや鳥なんて……」

卵を育てるための最大の難関は動物嫌いである母の綾乃だ。

「鳥じゃないかも。爬虫類かもよ!」

「お姉ちゃん馬鹿なの?爬虫類ならなおさらお母さんが嫌がるよ」

「産まれて家で育てられない生き物だったら、ちゃんとそういう動物保護施設?みたいな所に持って行くから!協力して!」

英人はしばらく考えていた。

「いいよ、分かった。協力するよ。ただし」

「ただし?」

「飽きて途中で僕だけに飼育を押し付けないこと!約束できる?」

英人はまるで小学生に言い聞かせるような口ぶりだった。

「ありがとう!大好き英人!」

「や、やめてよお姉ちゃん!」

英人は抱きつく莉乃を両手で押しのけ距離をとった。

莉乃は久しぶりに自分の鼓動を感じることができた。

◆◇◆

「ダメだ。同じ種類の卵が見つからない」

英人は頭の後ろで腕を組んだ。

「似たような見た目の卵はあったけど確証はない」

パソコンに向かって調べた後、英人はそうぼやいた。

海外も含め様々なサイトにアクセスして卵の情報を集めていたが確固たる結論は出なかった。

「私だけのペット」そう言って手渡された卵は正体不明の卵だった。

「何の卵か分からない?」

「そう。形からすると鳥類の卵に近い気がする」

「このサイズの爬虫類の卵だったら結構大きくなるかもね」

英人は卵を持って凝視している。

「お姉ちゃんはどっちだと思う?」英人は卵を私に無造作に渡した。

「どっちって?」

「爬虫類の卵か鳥類の卵かさ、この二種類は育て方が違うんだ」

「お姉ちゃんが持ってきたからそれくらいお姉ちゃんが判断してよ」

「私が?そんなの決められないよ」

莉乃は決断を迫られあからさまに動揺した。

「でも決めなきゃ。間違ったら育たないかもしれないから真剣に考えて」

「決めたら僕が育て方をキッチリ勉強して、僕が何とかする」

卵と一言で括っても様々な種類がある。

育て方が違うのも理解できる。

だがそれを外見から判断しなければならない。

莉乃の選択一つでこの卵に宿る命の運命が決まる。

彼女は意を決して答えを出した。

「鳥。鳥類だと思う」

「どうしてそう思ったの?」

「なんとなく……鳥の卵以外ちゃんと見たことないし」

莉乃は卵の育て方を「鳥類」と選択した。

(きっと鳥だ。可愛い色の羽根を持った鳥なら嬉しいな)

莉乃はわずかに口角が上がる。

「実は僕もそうかもって思っていたんだ」

「爬虫類の卵と比べて殻は硬いし。さっきも言ったように形も鳥類っぽい」

「わかってるなら、そう言いなよ!いじわるだよ」

「姉ちゃんに自分で決めて欲しかったんだ。その方が愛着が湧くでしょ?」

英人の悪い癖だ。

すぐに人を試すような真似をする。

だが、英人の思惑通りだった。

すでに莉乃は産まれたらどんな名前にしよう?なんて少しワクワクしていた。

「鳥類の卵だとしたら、やらなきゃいけないことがある。それが問題なんだ」

「温めるんでしょ?それくらい知ってる!」

「だからこうしてタオルで包んで学校へ持っていったんだから」

莉乃は卵を優しく両手で包んだ。

(この卵を持っているだけで癒される気がする)

(中にある命と私の心音を同調させてみたい)

莉乃は高鳴る鼓動を抑えるため深く呼吸をした。

「一応、正解。小学生でも分かる答えだけどね」

「うるさい」

人を馬鹿にするときの英人の表情は分かりやすい、唇の右側が上がる。

「どうやって温める?布団とか掛ければいい?」

「そんなのだったら苦労しないよ」

「僕は問題があるって言ったんだ、温めるには条件があってそれをクリアしないといけない」

「もったいつけずに教えてよっ!」

英人はワザと回りくどい言い方をしているように聞こえた。

「今から話すのは鶏の卵の場合の条件」

「もちろん他の鳥類でも共通する部分はあるけど、卵は38度で温度をキープしなければいけない。それにある程度の湿度も必要」

「さらに卵の尖っている方を下にして斜めに傾ける。そしてその状態を保って数時間毎に傾いている方向を変えてやるらしい」

英人は小さくため息を吐いた。

「えっ……そんなに大変なの?」

イメージと全く違った。

莉乃はただ単にゆっくりと温めて孵化を待てばいいと思っていた。

「うん、それを二週間から三週間続けるんだ」

「それ本当?そんなの無理じゃない?」

英人が莉乃の前で手のひらを見せた。

「でも安心と安全を担保する方法もある……らしい」

「どうするの?」

「『孵卵器』っていう機械があって、それを購入していろいろ設定すれば自動でやってくれるらしいけど……」

「どうする、買う?買うならもちろん、姉ちゃん持ちだけど」

『孵卵器』。

聞いたことがない言葉だった。

その機械に入れて温める。

莉乃はなぜかその行為が味気ないように思えた。

「孵卵器の値段っていくらくらい?」

「大体一万円前後。今ネットで注文すれば明後日には届くと思うけど」

買えない値段ではない。

母とは口をきいていないし世話にもなりたくないので、莉乃は自分の小遣いもバイトで稼いでいる。

バイトの給料は理由があって結構多く貰っていた。

今の彼女にとって一万円はすぐに出せる金額だった。

「買う?」

英人はすでにパソコンの前に座り【購入する】のボタンをチェックし、決定をクリックしようとしていた。

莉乃は慌てて英人の手を止めた。

「買えるけど買わない。どうにかして自分でやってみたい」

「他にも孵化させる方法はあるでしょ?」

「僕もそれが良いと思う」

「孵卵器を買えば家に機械を置くことになる、母さんに見つかる可能性も高くなるし、別の方法を考えた方がいい」

確かにそうだった。

今日だって学校に卵を持っていった一番の理由は母に見つからない為だ。

「何か方法あるの?」

「ある。お姉ちゃんが温めたらいいんだ」

それは答えの様で答えになっていない。

それができないから悩んでいる。

「どうやって?ずっと両手で持ってろって言うの?」

「英人と比べたら全然だけど、私もちゃんと学校行っているんだから!」

英人は私の言葉を聞き流した。

「約38度の温度を保ち、なおかつ湿度がある程度ある環境、そして時々卵を回転させることができる場所の候補は二つ……」

英人は莉乃をじっと見つめる。

「お姉ちゃんの股の間に挟むか、胸の間に挟む。それしかない」

「はぁっ!?」

思わず声を張り上げた。

「幸いこれから梅雨が始まるし気温も暖かくなる」

「通常人間の体温は36.5度前後、この二ヶ所はさらに温度が高いと考えられる」

「もちろん湿度もバッチリだよね?」

英人は悪戯な笑みを浮かべた。

「英人!あんた真面目な顔で何を言っているのよ!」

「そんなの絶対に無理!バッカじゃないの!?」

「じゃ他に方法は?お姉ちゃんが代案を出して」

英人はまたパソコンに向かった。

画面を無数の卵の画像が流れていった。

「そ、それは急に言われたらすぐに出てこないけど……」

「ふぅ。二ヶ所とは言ったけど本当は一ヶ所だ」

「股の間になんて挟んでたら歩けない」

「第一候補はやっぱり胸の間だと思う、そこなら学校に行った時もバレにくい。

「唯一危ないのは体育の授業の時と彼氏と一緒の時ぐらいかな?」

「英人っ!私に彼氏なんかいない!」

ニヤリと笑った英人の唇はやはり右側が上がっていた。

◆◇◆
夜になった。

莉乃は家から少し離れた場所にある24時間営業のディスカウントストアに来ていた。

店内には暇つぶしに来ているような客が多い。

ただ何となく商品を手に取りまた棚に戻す。

金は無いが時間は有るのだろう。

莉乃は深くニット帽をかぶり「ある物」が売っている場所へ足を早めた。

そのある物とは下着。

探しているのは卵を胸で隠す時に不自然にならないようなブラジャー。

二週間から三週間、胸に卵を隠すとなると、一枚では足りない。

莉乃は数枚購入することにした。

本当はいつも買っているオシャレな店に行って選びたかったが、明日にでも実行する必要があった。

さらに言えば卵が無事に孵化すれば、必要無くなるので適当な物で我慢しようと考えた。

売っていたのは、色気を勘違いしたケバいおばさんが着けてそうなブラジャーと、シンプルなブラジャーだけだった。

莉乃はシンプルな方を選んだ。

卵を挟んで行動する時のことを考えて、自分の胸より2サイズ上のカップの物を三枚買い物カゴへ入れた。

レジで会計後、知っている顔が店内に入って来たのを莉乃は見た。

「あれって、松下……?」

隣りのクラスの同級生、松下マツシタツクル

莉乃が思いを寄せる優斗とは中学の同級生。

地味な見た目でもちろん学校での影も薄い。

こんな遅くに買い物に来るようなタイプではないように思えた。

家族と一緒かと思ったがどうやら一人のようだった。

松下はニット帽で顔を隠した莉乃に気付かなった。

下着を購入しているところを誰にも見つかりたくなくて被ってきたニット帽が、効力を発揮した。

(こんな時間に何しに来たんだろう?)

松下の行動が少し気になった莉乃は、松下の後を尾けてみたくなり、再入店した。

松下は店内を真っ直ぐに歩いていた。

莉乃と同様に何か目的がある人間の行動だった。

彼が辿り着いた場所はアクセサリー売り場だった。

盗難防止用にショーケースに入れられた、いくつかのアクセサリーを店員に頼んで見せてもらっていた。

松下は何個か手に取ったが、気に入らなかったのか元に戻した。

また違うアクセサリーを手に取った。

莉乃でも知っているブランド物のブレスレットだった。

そのとき、莉乃は目撃してしまった。

「うそ……」

店員が数秒の間だけ店内用の無線で話し、商品から目を話したその隙に、松下はブレスレットをすり替えたのだ。

松下は自分のポケットから見た目が全く同じブレスレットを取り出し、それを何事もなかったように店員に返した。

店員は無線でやり取りをしながら、取り替えられたブレスレットを受け取り、そのまま気付かずにショーケースの中に戻した。

遠目から見たので不確かだが、すり替えられた商品には防犯用のタグも付いているように見えた。

(松下が、あんな大胆な万引きするんだ……)

(しかも女性用のブレスレットなんて、彼女にあげるため?)

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