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富来 えび
302
富来 えび
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ーーーーーー
梶原景時は兵の補充や訓練を終え、再び砦を出発した。
しかし――
「……やっぱり、すごい荒れてる」
「前より酷くねえか……?」
「雨まで降ってきたし……」
北条兵たちは荒れ狂う海を見て、不安そうに顔を見合わせる。
すると景時が怒鳴りつけた。
「雨が降ってるからなんだ!!!
そんな心持ちでは勝てんぞ💢」
「ひえっ……」
「ひぃ……あわわわ……」
大きく揺れる船の上で、兵の一人がよろめいて転びそうになる。
景時はそれを見て舌打ちした。
「ちっ……あれでも足りなかったか。
俺はなんともないのに、どういうことだ……」
そう呟くと、体を温めるために槍を振り回し始める。
「もっと体を動かせ!!」
「ひええ……」
ーーーーーー
一方、里見勢。
雨が降り始め、海はさらに荒れ始めていた。
「雨が降り始めやしたね……」
「うむ。
それに海の荒れ具合が酷くなっておる。
訓練していなかったら、ひとたまりもなかった……」
義堯は荒波を見つめる。
「こう言ってはなんだが、海に慣れておらぬ佐竹殿より、先に里見が来て正解だったわ」
兵たちは濡れた身体を見ながら話す。
「体がなるべく冷えねえようにしねえとな。
戦の前だから、酒は控えた方がいいし……」
「うむ。
雨が体にかからぬよう、事前に用意しておいた羽織ものを身につけておけ」
そう言いながら、義堯は苦笑する。
「……体を温めたいから酒を飲みたいのお」
「勝ってからの楽しみにしましょうや、殿」
「はっはっは、そうするか」
ーーーーーー
そして――
北条兵たちの間に、緊張が走った。
「か、梶原様……!」
「どうした?」
「里見の船です……!!!」
景時が前方を睨む。
「……待ち伏せされていたか」
「船が近づいてきます!」
「やばい!
乗り込んでくるぞ!」
里見兵たちが船を寄せながら叫ぶ。
「おりゃー!
北条のやつら、来たぜ~!
俺たちと遊ぼうや!!」
「おい、軽くしすぎだ!
乗り込む時は流石に警戒心を持て!」
別の兵が槍を構える。
「……恨みはないが、覚悟していただこう。
北条水軍!!!」
北条船へ乗り込んできた里見兵たち。
景時は槍を構える。
「乗り込んできたからなんだ!
生かして返さねば良いだけだ!
押し込めーーー!!!💢」
その瞬間――
船が大きく揺れた。
「ぎゃーーー!!!😭」
北条兵の一人が足を滑らせる。
「おいおい、お前なに転んでるんだよ……」
里見兵が槍を構える。
「ごめんなー。
弱いものいじめは好きじゃねえけど……」
「これが戦だからな」
槍が突き出される。
「ぐふっ……氏康様……もう、しわ……」
景時がそれを見て激昂する。
「よくも仲間を殺したな……!!!💢」
景時は一気に踏み込み、里見兵の一人を海へ突き落とした。
「なんとか…槍で直撃は防いだが…やば……い……」
「ジャバーン!!」
「…ふう…大丈夫だ!
縄落としてくれー!」
海から声が響く。
「あと戻ったら、ひとまず酒をくれ!
流石に凍える……!」
義堯は安堵する。
「ふう……。
落ちた時のことも想定して、訓練しておいて良かった……。
佐竹では残念だが、こうはいかぬ……」
ーーーーーー
景時は大声で叫んだ。
「おう……大将さんよ!!
そこで、高みの見物かい???」
里見義堯へ向けて槍を掲げる。
「俺は梶原景時!
一騎打ちしてもらおうか???
あんたの首を取れば、連合の士気が下がるだろうからな!!!」
すると義堯は大声で返した。
「断る♪」
「はあ!?」
「そっちにしか理がないからな!
臆病と捉えてもらって構わぬー!」
そして笑いながら続ける。
「それに、怪物とは戦いたくない♪」
「はあ!? 酷くねえか!?💢」
景時は思わず叫ぶ。
「乗れよ普通! 乗るだろ!!泣」
北条兵が小声で呟いた。
「……よく乗ってもらえると思いましたね」
「大将が一騎打ちなんてするわけないでしょ……」
「しかも相手は大名ですよ……」
「…………」
景時は黙った。
「……貴様ら、あとで覚えておけよ💢💢」
「ひえっ泣」
ーーーーーー
その時だった。
「アワワワワ!!!」
大きな波で船が傾き、北条兵と里見兵がまとめて海へ落ちる。
「ドバシャーン!!!」
「ごぼぼぼぼ……!」
「た……す……」
一緒に落ちた里見兵が北条兵を見る。
「おめえ、大丈夫かよ」
そして腰の刀を抜く。
「今、楽にしてやるからな」
「ぐふっ……」
北条兵の動きが止まる。
「俺にも酒くれー!
あと縄落としてくれー!」
ーーーーーー
景時は飛び込んできた槍を弾く。
「ちっ!」
そして槍を振るい、敵兵を倒していく。
その中で、一人の里見兵が景時へ向かって突っ込んできた。
「殿……!」
「ぐふっ……」
その兵は景時の腕へ傷を与えた。
「殿、かならず…勝って…くれ……」
「ちっ……!」
景時は腕を押さえる。
「片腕をやられた……!」
義堯がその光景を見て叫ぶ。
「あのバカ……!
命を無駄にしにおって……!」
そして兵たちへ向かって声を張り上げる。
「奮起せよ!!!
あいつの死を!
あいつが怪物に与えた傷を!
決して無駄にするなーーー!!!」
「おおおおお!!!」
里見兵たちが一斉に吠える。
「おめえら、ぜってえに勝つぞ!!!」
「勝って酒を飲むんだーーーー!!!」
「うおおおおおおおおおおお!!!」
一気に勢いが増す。
「なっ……!」
北条兵が次々と押し込まれていく。
「うわっ! 囲まれ――――」
「ぐふっ!」
景時は槍を振り回し、必死に敵を近づかせない。
「ちっ……!」
ーーーーーー
義堯が大声で叫ぶ。
「降伏しろーーー!
梶原景時!!!
お前のような怪物は、ここで死なせるには惜しい!!!」
景時は槍を構えたまま叫び返した。
「大将が俺と一騎打ちして勝ったら、従ってやろう!
どうだ……今度こそ乗らねえか?!」
景時は笑う。
「前の海戦から、戦いたいと思っていたのだ!
乗ってくれーーー!!!」
義堯はしばし景時を見つめる。
そして――
「……いいだろう その覚悟で乗った!!!」
ーーーーーー
二人が互いに槍を構える。
そして――
「うおおおおおおおおおおお!!!」
槍と槍が激しくぶつかり合う。
「ぐぬぬぬぬ……!」
景時が義堯の攻撃を片手で槍を受け止める。
それを見た義堯は思わず
「片手でこの力とは……。
バカにできぬな、やはり……!」
景時も歯を食いしばる。
「ぐぬぬぬぬぬ……!」
そして心の中で呟く。
(やはり一騎打ちを仕掛けて正解だった。
しなかったら、死んでも後悔しきれぬわ……!)
「カキンッ!」
「キンッ!」
互いの槍がぶつかる。
景時がギリギリで攻撃をかわし、そのまま反撃する。
しかし義堯は船の揺れを利用して回避する。
「……ぐぬぬぬぬ」
その瞬間――
船が大きく揺れた。
「ぎゃーーー!!!
落ちるーーー!!!」
北条兵が海へ落ちそうになる。
「くっ……!」
里見兵も必死に船へしがみつく。
景時が義堯を見て笑う。
「……今のは少し揺れましたな、大将殿?」
「うむ」
義堯は槍を構え直す。
「梶原殿名乗るのを忘れておりましたな。
某は里見義堯と申す」
そして、静かに槍を構える。
「……申し訳ないが、勝たせていただくぞ」
「望むところだ……!!!!」
二人が同時に踏み込む。
「うおおおおおおおおおおお!!!」
「ザシュッ――!」
一瞬の交錯。
景時の身体が止まる。
「ぐっ……!」
そして利き腕を押さえる。
「いかん……利き腕までが……」
義堯は槍を向ける。
「片手であるにもかかわらずの武勇……見事であった」
そして兵へ命じる。
「……縄で縛り上げよ!!!」
ーーーーーー
景時は抵抗することなく、ゆっくりと武器を置いた。
「里見殿……約束だ。 素直に縄につこう」
そして義堯を真っ直ぐ見つめる。
「戦えたこと、光栄に思う」
「……うむ」
里見兵たちが歓声を上げる。
「俺たちの勝利だーーーー!!!」
「やったぜーーーー!!!」
「あの怪物を、遂に捕らえたぞ!!」
しかし北条兵の一人が叫ぶ。
「いや、俺たちはまだ……戦え……!」
景時が振り返る。
「お前たちも武器をおろせ……」
「ですが……!」
「命は無駄にするなーーー!!!💢」
その一喝に、北条兵たちは黙り込む。
「……はっ」
そして次々と武器を置いた。
「縄につきまする……」
里見兵たちは捕虜となった北条兵を見ながら声をかける。
「動けないだろうけど、苦しくないようになるべく緩くするから許してくれー」
北条兵たちは複雑そうな顔をしながらも、抵抗することなく縄についた。
ーーーーーー
こうして――
相模湾の死戦は、里見勢が勝利を収めた。
だが、里見勢にも少ないながら被害が出た。
そして――
片腕を負傷させた、あの勇敢な兵。
彼が命を懸けて怪物へ与えた一撃は、後々まで物語として語られることとなる。
それを、この時の誰もまだ知らなかった。
コメント
1件
ああ、もう相模湾の戦い、すごく熱かったですね……! 景時が「乗れよ普通! 乗るだろ!!泣」って叫ぶところ、笑っちゃいながらも必死さが伝わってきて。でも義堯が「断る♪」って涼しい顔で流すのも、余裕あってカッコよかったです。最後に一騎打ちに乗ったときの「望むところだ!!!!」の掛け合い、震えました。勇敢な兵の一撃が後々語り継がれる伏線も、じんわり来ますね……。