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仁人 side
お互い忙しくてストレスが溜まっていたのが1番の原因だと思う。いつもだったら喧嘩にまで発展しなかった。けれど、あの時はお互いに相手の気持ちを汲み取れる程の余裕は無かったんだ。
***
『今からそっち行く』
テーブルの上に置いていたスマホから通知音が鳴り、画面を見てみると勇斗からメッセージが届いていた。
今の時刻は深夜1時。
今日は仕事終わりに勇斗が俺ん家に来るという約束をしていた。けれど、勇斗のドラマ撮影が長引き、予定より2時間くらい終わりが長引いてしまったようだ。
勇斗はM!LKが売れる前からドラマなどに出演していて忙しかったが、今はM!LKの仕事も忙しくなり、M!LKもドラマも全力でやり、本当にいつ寝てるんだという感じだ。
俺も有難いことに前よりバラエティや歌番組などにもたくさん出させていただけるようになって、忙しい日々を送っている。
だから、寝る時間が遅くて寝不足だとか、疲れが溜まっているようなことが多くなった。今も、そうだ。
今日、俺の仕事は早く終わったから本当はもう寝ている時間なのだが、せっかく勇斗が来ると言うので眠い目をこすり待っている。
ガチャ
家に入る音がして、俺は玄関に向かう。
「勇斗、おかえり」
「………ただいま」
勇斗は少し素っ気なくそう言うと、靴を脱いでズカズカと中へ入っていった。
いつもなら笑顔でただいま、と言って抱きついてくるのに。やはり疲れているんだろう。仕方ないよね、と思いながら俺は勇斗の後をついて行った。
「はぁ、つかれた……」
勇斗はソファに座ってため息をつく。ソファは2人掛けなので、俺は空いている勇斗の隣に腰を下ろした。
「ドラマ撮影お疲れ様」
「………うん」
「疲れたよね、なんか飲む?」
「いや、いい」
疲れていることが目に見える勇斗になるべく優しく話しかける。けれど、勇斗から返ってくるのは素っ気ない返事ばかり。
疲れているのは分かるけれど、もう少しちゃんと返事してくれてもいいではないか。
いや、勇斗はドラマ撮影終わりで疲れているんだ、仕方がない。頭の中でそう考えても、少しモヤモヤしてしまう。
その後、話しかけてもずっと素っ気ない返事ばかりだった。
俺は勇斗が家に来るから、寝ないで楽しみに待っていたのに。勇斗ほどではないが、俺も疲れているから勇斗に会って癒されようと思ったのに。こんな状態なら会わない方が良かったのではないか。
てか、仕事終わりに仁人ん家に行くって言ったのはそっちじゃん。俺に会いたいから来たんじゃないの?なのに何その態度。
「勇斗、なんでそんなに素っ気ないの」
素っ気ない態度の勇斗に俺の限界が来て、ついつい言ってしまった。
「ごめん……撮影で疲れてて」
「それは、分かるけど……そんなに素っ気なくされるなら会わない方が良かった」
「なにそれ、俺、仕事遅くまであったのにわざわざ会いに来たんじゃん」
それは分かってる。忙しくて日付超えるくらい仕事終わるの遅かったのに来てくれたのは純粋に嬉しかったよ。だからといって、こんな冷たい、素っ気ない態度とられるのとは話が別だ。
「仕事忙しいからって素っ気ない態度とられても平気なほど、俺、強くないから」
「なんだよ、疲れてるんだよ。仁人は分かってくれてると思ってんだけど」
「疲れてるのは分かってる。なら、俺ん家来なければよかったじゃん」
「恋人が疲れた体でわざわざ家に来たってのにそんなこと言うのかよ」
「……俺は来てなんて頼んでない。冷たくされるなら会わない方が良かった」
止まらない。
お互いたぶん疲れのピークが来ていた。勇斗は言わずもがなだが、俺もここ最近のスケジュールは忙しく寝不足で疲労が溜まっている。
いつもならこんなに言い合わないし、すぐ謝るのに。今回はそれが出来なかった。
お互い自分に悪いところがあると自覚しているのに、言えなかった。
「………めんどくさいよ」
勇斗が呟く。
「なにそれ、めんどくさい恋人で悪かったな」
あーあ、なんでこんな言い返してるんだろう、俺。
すぐ謝ればいいのに。俺が言いすぎた、勇斗も疲れてるのに分かってあげられなくてごめんって。
でも、言えなかった。
「こんな言い合いするなら、付き合わなきゃ良かったんかな」
勇斗がそう言う。その言葉を聞いて俺は固まる。
今までの全てを否定された気がした。
俺の勇斗を好きな気持ちも、今までの2人の時間も。
付き合うまで2人でいろいろ考えて、大変なことも乗り越えてきて、たくさんの思い出があるのに。付き合わなければ良かったなんて、なんで、そんなこと言うの?
「……っ、仁人」
勇斗は先程の自分の発言はまずかったと感じたのか、少し焦った顔で俺のことを見る。
「なんだよ……」
俺は涙が零れないように、目に力を込める。ここで、瞬きしたらどうなるかなんて自分がいちばん分かっている。絶対に、泣かない。1粒でも零れてしまったら、そこから大量に永遠に零れ続けてしまう気がしたから。
「っ………勇斗なんて、嫌い」
自分が発した言葉が、この部屋に響く。
あぁ、言ってしまった。
勇斗と約束したことを思い出す。
もし喧嘩しても嫌なことがあっても嫌いって言わないでって。約束したのに。
あの時は言うわけないって思ってたけど、今日、言ってしまった。
ごめんなさい。約束破って。
「………嫌いって言わないって、約束したよな?」
「……………」
何も言えない。ごめんなさいも言えなかった。
「……………帰るわ」
勇斗はそう言って荷物を持って玄関まで向かう。引き止める気は起きなかった。これ以上一緒にいても状況は悪化するだけだと思ったから。
今の俺たちはいつもみたいに冷静な判断ができない。そう自分でも分かっていたから。
ガチャンと勇斗が家から出て行った音が部屋に響く。
その瞬間、俺の目から大量の涙が溢れて零れた。
こんな泣くのはいつぶりだろう。明日、仕事があるのに。しかも、M!LK全員での仕事。
ねぇ、勇斗。俺、嫌いなんて本心で言ってないよ。本当は大好きだよ。
勇斗が言った、付き合わなければ良かったって、あれは勇斗の本心?本当はずっとそう思ってた?
怖くて、聞けないや。
俺はすぐ目を冷やした。明日の仕事に響かないように。明日、みんなに迷惑かけませんように。そう願いながら俺は眠りについた。