突然だが、みんなに聞きたい。『冒険者』と聞いてどんなものを想像した?きっと大半は輝かしい活躍をして、特別な力を持ってる。そんなまるでお伽話や童話の主人公のような冒険者を想像しただろう。だが、現実はそんなに都合良いことは無い。
というのも俺も冒険者で、みなが想像してたような冒険者に俺もなれると思いなってみたが、残念なことにそんなことはなく、普通の人間のため薬草集めやスライム狩り。少し背伸びしてゴブリン退治とまぁ地味なクエストをこなしてる。そんな簡単なクエストばかりのためお察しの通り収入も良くなくて常に金欠という限界冒険者が出来上がったわけなんだが、実は現状危機的状況でもあったりする。というのも、今俺のいるこの街「ファスト」は通称始まりの街と言われているのだが、ここに来るのに田舎の実家から出ていくとき「俺偉業成し遂げて帰ってくるわ」なんて豪語してきたから帰るに帰れないのだ。正確に言えば帰りずらいということになる。さらに、先にも伝えた通り限界冒険者なので貯金なんてもっての外。俺の思い描いていた冒険者は程遠い存在になっているのだ。
そんなある日、今日も今日とて簡単な依頼をこなしてギルドに報告しに行くその帰り道、偶然ボロボロになっている少女を発見し見て見ぬふりはさすがに寝覚めが悪いから彼女を背負ってギルドに戻る。ギルドに戻り受付の方にこの子のことを頼むが、そんな余裕はないと断られてしまい、当てがなくなった俺は致し方なくいつも使っている宿に彼女を運ぶこととなる。そこの管理人さんからはだいぶ白い目で見られたが俺だってこんなこと望んでないし、可能なら今すぐにでも親御さんとかもっと安全な場所に預けたいが、いかんせん俺は限界冒険者のためそんな金はないしそんな人望もない。なので諦めて彼女が元気になるまでは俺が面倒を見るしかないのだ。
普段取っている部屋は一人部屋なのだが、今回は少女がいるので奮発して二人部屋を借りて彼女をベッドに寝かす。ここに来るまであまり気にしてなかったが、よく見るとこの少女は衣類がボロボロで髪もボサボサ。身体中に傷も見られて裸足……。いわゆる奴隷少女みたいだ。自分のことで頭いっぱいだったが、仮にこの子が本当に奴隷少女だったら親御さんはいるかも怪しい。いたとしても売りに出された可能性だってある。自分らが生きるためにはお金が必要でそのお金を作るために子供を売り飛ばすなんて珍しい話じゃない。だから、親御さんが居たとしてもそういう事情があるなら返すのは絶対だめだろう。かと言って俺が彼女とともに生活するのもいかがものかと思う。
俺は今年で22歳、少女の年齢は分からないが推定8歳くらいの子供だ。そんなミスマッチな二人が外を歩けば白い目で見られるのはまぁ言うまでもない。さらに言えば彼女は奴隷少女だったのだ、衣類も恐らく着てる分しかないと考えると第三者視点では俺がそういう悪趣味な人間と思われる可能性しかない。俺は一体どうするべきなのか……。頼れる人もいなくてお金もない。なのに人助けをしてしまった。後のことを考えて無さすぎる気がするが冷静に考えて、森の中で傷付いて倒れてる少女を見て助けないという選択ができる人間なんて極々少数のはずだ。お金の有無よりも人としての尊厳を取るのが当たり前だ。その結果こうなってしまってるが、助けた以上最低でも彼女の身なり等を整えてあげて新しい家族が見つかるまでは俺が責任もって育てるのが大人と言うやつだ。ただでさえ金がないが最悪俺の飯も抜きで彼女を育てあげればいい。もうその覚悟を決めた。今はとりあえず彼女が目を覚ますまで時間があるから少し風呂でも行って来よう。
さて、事件が起きた。これはかなりの大事件だ。俺が風呂から上がり部屋に戻ると少女は目を覚ましていた。これは想定内の出来事。その後怯える彼女を何とか諭して落ち着かせることに成功したのだが、何故か俺はこの子に好かれてしまったのだ。別に特別なにかもので釣ったとか、そんなことはなく怯える彼女に対して在り来りな言葉をなげかけただけなのだ。例えば『大丈夫。俺は君に何もしない。』とか『落ち着いたらでいいから、君の事を教えてくれる?』とか、本当によくある諭し方をしただけ。だが、どうやら彼女にとってはそんな優しさが初めてのものだったらしく、好かれたということだ。人に好かれること自体は嬉しいことなのに、幼い少女というワードが着くだけで何故か犯罪臭が半端なくなり、嬉しくなくなるのは何なのだろう。
で、問題はここからで彼女にお風呂に入るよう提案するが一人は嫌だといい俺も同行しろと言ってきたのだ。これは由々しき事態である。これを承諾したら確実に俺はロリコンお兄さんという不名誉を獲得してしまう。しかもこれの何がタチ悪いと言うと、先も話した通り年齢の差がリアリティ高く、さらに相手は純新無垢な子だということ。もちろん俺にはそんな気は一切ないが、歳を重ねたことでこれが倫理的問題ということは馬鹿でもわかる。これを承諾して果たしていいのか?しかし、承諾しないと彼女はお風呂に入らない。………あれ?選択肢は一つしかないんじゃないか?俺は人としての尊厳や倫理を投げ捨ててたった一人の少女をお風呂に入れないといけないのでないか?これが家族とかならまぁ一緒に入るのは分かるのだが、家族でもなんでもない赤の他人が一緒に入るのは秒読みでアウトだよな?でも、そうしないと彼女はお風呂に入らない。俺の人生はここで詰むのか?御歳22歳助けた少女をお風呂に入れるという行動で人生を終わらせないといけないのか?俺は…俺はどうすれば…………。
全てを投げ捨てて俺は彼女と共にお風呂に入り身体や頭を綺麗にしてあげた。あぁ……。俺はきっと地獄に落ちるんだ。父さん母さん俺立派な大人になれなかったよ。偉業成し遂げることは出来なかったよ。いや、ある意味成し遂げたのかもしれないけど、代償で全てを失ったよ。
「お兄ちゃんなんで泣いてるの?」
あぁ……。少女の無垢な一言が俺を殺しにくる。罪悪感で今すぐここから消え去りたい。
「な、なんでもないよ。」
「?」
わかった。もう俺は全てを投げ捨てた。つまり失うものは何も無いということだ。やましい気持ちがあった訳では無いにしろやった事は地獄行き確定なんだ。なら、もう落ちる所まで落ちよう。この子が元気に育って新しい家族を見つけるまでのその期間。俺は一体どのくらいの業を背負うことになるのだろうか。どうなろうとももう俺は幸せな人生は送れないだろうからせめて、彼女が元気に過ごせるように俺も尽力しよう。
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少女戦姫の傍らでちょこちょこ書いてきます