【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
醜く歪んだ感情を自覚すればするほど、自分自身に嫌気が差す。
それはいつしか、リスナーへの思いだけでは留まらなくなった。
「いいクッション発見〜」
ある日、夕方からメンバー全員が俺の家に集まったことがあった。
皆に夕飯をふるまってくれるというあにきを手伝ってキッチンに立っていた俺の耳に、リビングからそんな声が聞こえてくる。
キッチンカウンター越しにそちらを見やると、ソファに座ったまろにほとけがそう言いながら全力でもたれかかっていた。
「誰がクッションやねん」
抗議しながらも振り払うことなく、されるがままのまろの声が聞こえる。
モヤッと心に翳りが落ちた気がする。
できるだけそちらを意識したくなくて、俺はあにきに指示された野菜洗いに集中しようとした。
「僕ちょっと寝るから、ご飯できる頃に起こして〜」
「ふざけんなよ、お前何様や」
「いふくんこのまま膝貸して〜」
「貸してほしかったらそれなりの頼み方があるやろ」
「おい膝貸せよ」
「より偉そうな方に振り切ってどうすんねん!『お願いします』くらい言えや」
聞きたくないのに声のでかい2人のやり取りはどうしても耳に入ってくる。
漫才みたいなやり取りに、ゲームをしながらのしょうちゃんの笑い声も聞こえてきた。
じゃがいもを持つ手に、ぐっと力がこもる。
皮についていた泥が、今の自分の気持ちを表すかのように手に汚れを広げていった。
ほとけっちのことはもちろん好きだ。
大事なメンバーだし、家族みたいなものだし。
でも不仲を装いながらの青組2人のやり取りを見ていると気分が落ちるのも事実で…。
口喧嘩をしながらも、本当は仲が良いということを見せつけられる思いだった。
「重い」と文句を言うまろを無視して、ほとけは有言実行でその膝に頭を乗せた。
真っ白い紙にぽたんと黒い墨を落とした時のように。
少しずつ浸潤していく「それ」が、周囲を蝕んでいく。
今まで、誰かにこんな感情を抱いたことなんてなかった。
人並みに女の子と付き合ったこともあるのに。
自分以外の誰かが相手に触れるだけで、こんなにも気が狂いそうになる。
くだらない嫉妬だと分かってる。
それでも誰にもまろに触れてほしくなかった。
今多分、この世で一番俺のことが嫌いなのは俺自身だと思う。
まろがリスナーに甘い言葉を吐くたびにどす黒い感情で胸がいっぱいになる。
メンバーやスタッフと仲良さそうに話しているだけで、羨ましい気持ちと独占欲が渦を巻く。
そんな感情は日々肥大していき、もうこの頃では笑い方も忘れてしまった気がする。
「……雨?」
ある日の夜、都内に急に雨が降り出した。
それもかなり強い雨。
朝見た天気予報ではそんなこと一言も言っていなかったのに。
外出しているときじゃなくて良かった。
その日は一日家に引きこもって作業していたから、雨に降られるという不運からは逃れられた。
PCの前、コーヒーを一口啜りながら窓を叩く雨音に耳を傾ける。
どんどんと強く速くなるその音が、ここ最近の自分の苛立ちを表しているようでもあった。
その時、不意に部屋のインターホンが鳴った。
…宅配でも頼んでたっけ?
首を捻りながらモニターを見てから、俺は思わず硬直する。
「まろ…?」
予期せぬ来訪者に驚いたが、ハッと我に返り通話ボタンを押した。
まろが何かを言ったようだったけれど、声が小さかったのと後ろの雨音がうるさくて聞き取れない。
「と、とりあえず中入って」
言いながら俺は、慌ててエントランスの解錠ボタンを押した。
モニター越しでも分かるくらい、まろの髪から雫が滴り落ちていた。
慌てて大きめのタオルを取りに洗面所へ向かう。
それから俺が玄関に向かうのと、ロックを解除した玄関ドアをまろが開けるのとがほぼ同時だった。
「めっちゃ濡れてんじゃん!」
「…急に降ってきて」
ボソリと呟くように答えるまろの頭に、タオルをかける。
そのままワシワシと拭いてやると、大人しくしている大型犬みたいだった。
「ごめん、玄関濡らした」
「え、別にそんなん…」
後で拭けばいいし、と続けかけた俺は、次の瞬間思わず言葉を飲み込んだ。
タオルの隙間から覗いたまろの瞳が、まっすぐ俺を見ていたから。
いつもの雰囲気とは違うその眼差しに、思わず息を飲む。
「とにかく、すぐ風呂沸かすから上がって。そのままだと風邪ひくし」
「……」
促すようにまろの手を引っ張ろうとして、その冷たさに驚いた。
氷みたいに冷たい感触は、雨に打たれて全身が冷えたせいだろうか?
「まろ?」
呼びかけた俺に、まろは小さく頭を横に振った。
掴んだ俺の手から、自分の手首をするりと引き抜く。
「これだけ貸して。すぐ帰るから、ここでいい」
頭にかけたタオルを指して、まろはそう言う。
たったそれだけのことなのに何とも言えない嫌な予感がした。
「ないこ」
低い、大好きな声が俺の名前を呼んだはずなのに。
ちっとも嬉しくないのは何でなんだろう。
不特定多数の「誰か」に向けた声じゃない、俺だけに向けられた声。
今はそれがただ「怖い」。
続く言葉を聞きたくなくて俺は息を呑んだ。
「もう、終わりにしよ」
やがてもたらされたそんなセリフは、きっとどこかで予想はしていた。
「グループを」とか「活動を」とかじゃない。
まろが示ししているのは個人的な俺たちの関係を、だ。
「なんで…?」
そう聞く意味なんて、本当はきっとなかった。
恋だの愛だの、そんな感情からの関係じゃなかったんだから。
一時の快楽に身を任せて、甘え合うだけの関係なんて脆くて当然なのに。
「…最初に、約束したやん」
言われた瞬間に、初めてのあの時のことを思い出す。
『どちらかに好きな人ができたら、この関係を終わりにする』
俺が言い出した、そんな「約束」。
「まろ…好きな人できたの?」
声が震えなかったことがせめてもの救いだと思った。
尋ねた俺に、まろは目を伏せた。
それから絞り出すような声で言う。「ごめん」と。
「…そ…っか、分かった。そういう約束だったし」
「ごめん」
「何で謝るんだよ」
まろが、俺の手を離すときが来ることは分かっていた。
その時はきちんと笑って背中を押してやろうとも決めてたはずだった。
今の俺は、きちんと笑えているだろうか?
引きつりそうな口元を上げた俺に、まろはもう一度謝りそうになる言葉を飲み込んだようだった。
そのまま踵を返して、部屋から出て行く。
パタンと閉じられるドアが、完全に俺たちを遮断した。
好きな人って…誰?
前からあにきっずだと豪語してるからまさかあにき?
それとも最近前より仲良くなったように見えるりうら?
いつも優しい初兎ちゃん?
…それかやっぱり……一番可能性がありそうなほとけ?
いや、実は会社の女の子とか…。
俺の全く知り得ない誰かを想っているのかもしれないと思うと、それが一番辛い気もした。
今更、「俺だってお前のこと好きなんだけど」なんて言えるわけがない。
これは、あいつの優しさにつけこんで体だけの関係を先に進めて甘えた俺への罰だ。
「……っ」
閉じられたドアに縋るように腕をついて、俺は声を押し殺して泣いた。
コメント
2件
新しいお話.ᐟ.ᐟ✨今回のお話も凄すぎます👍 青さぁぁんッ.ᐟ.ᐟ😭誰だよぉぉッ 心情読めなすぎる、...、桃さんがまっすぐと向いた眼差し、みたいなこと言ってた?から これまでは真っ直ぐ向いてなかったんかな...、🤔💭 個人的に今まではあんまりだったけど桃さんのことを本気になったから関係を終わりにして、そこから自分から気持ちを伝えてもっかいみたいなのを推したい 長文失でした.ᐟ
これを見ている私まで泣けてきそうなお話でした…っ!😭 今回のお話今のところ青さんの心情が読めなくて怖い…っ。 好きな人って誰なんだろ?? 桃さんだったらいいな~、でも桃さんだったらこの関係やめよって言うのかな??想像つかない……😑💭 今回も最高でした😭👏✨ 更新ありがとうございます🙇♀️😊 この作品もブクマ失礼します……(忘れてた☆)