婚約
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あの後。お姉ちゃんは2年生の終わりに栄養士を、3年生で調理師を、無事に資格取得して専門学校を首席で卒業した。
卒業式には、成人式で着た真っ青な振袖に、深い緑の袴をレンタルして合わせ、足元は草履ではなく編み上げのショートブーツで出席した。髪はハーフアップにして大きめのリボンを着けて、ハイカラさんみたいな感じで可愛かった。耳には、僕たちがプレゼントした桃色の花の形のピアス。最後の最後までアクアマリンのピアスと迷ったらしいけれど、寒色系の着物と袴に、ピンク色をアクセントに入れることで、両者がいい感じにお互いを引き立て合う形になっていた。
卒業後、お姉ちゃんは実家に帰ってきた。そこから就職先に通っている。
幼少期の自分と似たような境遇の子どもたちに接することで、つらかった時の記憶がフラッシュバックしてしまうんじゃないかと心配したけれど、定期的にカウンセリングに通っているおかげか、今のところ大丈夫みたいだ。
お姉ちゃんが以前いた施設に勤めることが決定して、当時いた先生たちが泣いて喜んでくれたらしい。 小さかった苺歌ちゃんが、今度は子どもたちを守る立場になって戻ってきたとなるとそりゃあ感動するよね。
そして、僕たちは高校生になった。高校受験はなく、そのままエスカレーター式でキメツ学園の高等部に入学。
歴史担当の煉󠄁獄先生は、今でも相変わらず授業中に騎馬戦を始めてしまうくらい熱い漢だ。昼休みに屋上で兄さんも一緒に3人でお弁当を食べながら他愛もない話をするのが僕の楽しみの1つとなっていた。先生は時々お姉ちゃんが持たせてくれる愛妻(まだ妻じゃないけれど)弁当を、「うまい!うまい!」と叫びながら食べる。僕たちもお姉ちゃんが作ってくれるお弁当をいつも残さず食べて、午後の授業やその後の部活の為にエネルギーチャージするのだった。
ある日曜日、お昼過ぎに家のインターフォンが鳴り、煉獄先生がやって来た。
いつの間に着替えたのか、ちょっとよそ行きのワンピース姿で出迎えるお姉ちゃん。
両親に呼ばれ、僕と有一郎もリビングに行く。お姉ちゃんと煉獄さんに向かい合うようにして座る。
「本日は、時透家の皆様にお願いがあってまいりました」
いつも以上にキリッとした顔つきで話す煉獄先生。
「以前からお付き合いさせていただいていた苺歌さんと、この度婚約いたしました」
え!?そうだったの!?
『この前、夜食事に行って、その時にプロポーズしてくださったの』
頬を薔薇色に染めたお姉ちゃん。その左手の薬指には、キラキラ光るダイヤモンドの指輪が。
「どうか、私たちの結婚をお許しいただきたく存じます」
『お願いします』
2人が揃って頭を下げる。
嬉しくて涙が滲んでくる。
「反対することなんて何もありません。苺歌は杏寿郎さんとお付き合いしてから毎日がとても幸せそうで。そんな彼女から事前に今日のお話を聞いて本当に嬉しかった」
「ええ。あなたとも家族になれること、心から嬉しく思います」
目を潤ませながら話す両親。
『お父さん、お母さん、ありがとう』
「ありがとうございます!この先何があっても、この命ある限り全力でお嬢さんを守ります。時透家の皆さんが今日まで苺歌さんを大切にしてきてくださったその何百倍も、今度は私が一生をかけて苺歌さんを幸せにすると誓います!」
力強くて温かい、煉獄さんの言葉。
…ああ、だめだ。目頭が熱くなって、堪える間もなく涙が溢れ出す。嬉しくて涙が止まらなくなったのは生まれて初めてかもしれない。
隣では有一郎も肩を震わせて泣いていた。
両親も涙を流しながらにっこり笑っている。
「杏寿郎さん、ありがとう。娘を…苺歌をどうかよろしくお願いします」
「はい!」
父さんと煉獄さんが固い握手を交わす。 その様子をお姉ちゃんが嬉しそうに見ていた。
「お姉ちゃん、おめでとう」
「おめでとう!」
『ありがとう。むいくん、ゆうくん』
煉獄さんが僕たちに向き直る。
「有一郎くん、無一郎くん。これからは義理の兄弟としてよろしく頼む」
「はい!よろしくお願いします!」
「煉獄先生と兄弟なんて嬉しすぎる!」
『籍を入れるまでは周りのお友達にも内緒でお願いね』
「うん!」
「もちろんだよ!」
嬉しいな。お姉ちゃんと煉獄さん、このまま結婚すればいいのにと願っていた2人が、本当に結ばれたなんて。
お嫁に行くってことは、お姉ちゃんは“時透苺歌”から“煉獄苺歌”になるってことだよね。
レンゴクマイカって格好いいなあ。
煉獄先生は家族みんなから引き止められて、夕ごはんを時透家で食べて行くことになった。お姉ちゃんが料理している間、煉獄さんは父さんや母さんと楽しそうに話している。そこに僕たちも同座する。
「入籍はいつにするの?」
「11月22日にします」
「“いい夫婦の日”だ!」
「ベタだとは思うのですが、ちょうどその日が大安と一粒万倍日と天赦日の3つが重なる最強運日らしくて。せっかくならその縁起のいい日に籍を入れることになりました」
「そうなんだね!いいと思うよ」
入籍日まで、まだ半年近くあるなあ。でもこの間に、色々と準備を進めていくんだろうなあ。
「結婚式はしないんですか?」
有一郎の問いかけに、煉獄さんがその質問を待ってましたとばかりにニッと笑った。
「実は、結婚式場での無料の結婚式が当たりまして」
「「「ええっ!?」」」
「苺歌さんは写真だけ撮れたらいいと言っていたのですが、ご家族にも彼女の美しいウエディングドレス姿を見せてあげたかったし、私自身もそれを見たいと強く願いまして。ダメ元で応募したらまさかの当選で。まあそのキャンペーンに当たらなくても式は挙げるつもりでいましたが」
「すごい!煉獄先生が応募したんですか?」
「いや、2人で応募して、苺歌さんが引き当てたんだ」
お姉ちゃん引き強すぎる。
「そういえば、福引だとかクジだとか、すごい賞を当てるのはいつも苺歌だったわね」
「結局、無欲の善人にいちばん運が巡ってくるんだよね」
母さんと有一郎が笑う。
「…というわけで、この話の流れのついでになってしまって申し訳ないのですが、その当選した結婚式が12月24日で固定されていまして。…改めて招待状を送りますので、ぜひ皆さんに出席いただきたいです」
「もちろん、喜んで出席しますよ!」
「クリスマスイブに結婚式なんてロマンチックね!」
お姉ちゃんのウエディングドレス姿、綺麗だろうなあ……。
『お待たせ〜。ごはんできたよ』
「ありがとう!苺歌さん、運ぶの手伝うよ」
『ありがとう。じゃあこれお願い』
「うむ!」
煉獄さんとお姉ちゃんができあがった料理を食卓に運ぶ。
みんなで食卓を囲む。
煉獄さんは学校でお弁当を食べる時のように終始「うまい!わっしょい!」と叫びながら食べて、両親を笑わせていた。
「お邪魔しました。ごはんもごちそうになって。入籍や結婚式に関する話のあれこれはまた都度連絡いたします」
「両家の顔合わせとかあるものね」
「はい」
『きょうちゃん、気をつけて帰ってね』
「うむ!ありがとう!」
「先生、また学校で 」
「プライベートでもまた遊びに来てください!」
「そうだな!ありがとう!」
煉獄さんはにこっと笑って、僕ら家族に見送られながら車に乗り込み帰っていった。
つづく
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