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デッキの柵に背中をもたせかけて、風に弄ばれる髪を片手で掻き上げる、
「……私は、その時の旅行がずっと忘れられなくて……それでこの船には、もう一度乗ってみたかったんです」
彼のそれだけの仕草が、まるで映画のモノローグの一場面のようにも映る。
「お父様との思い出の場所なんですね、ここは……」
「ええ、いつかまた、ここには父と来たいと思っていました。けれど、私も忙しさに追われている内に、その機会を逃してしまって……」
なびく私の髪を、緩やかに梳いた彼の手が、
「だから、せめてあなたと、ここへ来たいと思って……」
腰あたりまで滑り降りると、身体がぎゅっとそばへ抱き寄せられた。
「だけど、そんなに大事な場所に来るのが、私とでよかったんですか?」
抱かれた腰が熱を孕んで、頬までが仄かに火照るのを感じる。
「……あなただから、一緒に来たかったんです」
彼がふっと顔を崩して答えると、赤らむ私の頬に柔らかく唇を押し当てた。