「じゃあ、前回の授業の続きから進めていこうか。みんな覚えてる? 三十七ページの十七行目ね」
透き通った爽やかな声が教室に響き渡る。そして、その声によく似合った爽やかな笑みで、チョークを片手に楽しそうに授業を進めていく。
葛西優一。一年A組の言語文化の担当教師である。葛西は新任の割に生徒から大変人気であり、また教師間でも評判の良いと言われている。それもそのはず。葛西の授業は大変わかりやすく、またおもしろい。しかも顔も整っており、声もいい。そしてスタイルも俳優並みに良かったものだから、人気になっていてもおかしくない。今では、葛西のファンクラブまでできてしまっているそうだ。
篠田福はため息を吐く。なぜなら、葛西優一こそが福が長年惚れている初恋の人だからだ。いつからかと問えば、それは物心がついた時からと答える。福と葛西の年は九つも離れており、あまりにも現実味のない片思いであり、犯罪臭が香りつつある片思いであるため、いまだに思いは伝えられていない。
だからこそ、もどかしくて、もどかしくて仕方がない。こんなにも恋心に翻弄されている福のことも知らず、葛西は笑顔で授業を進めていくのだから。……気になる人がいるだなんて恥ずかしそうに簡単に言ってしまうのだから。福の気持ちなんて知らないで……。
「はい、じゃあ今日はここまでね。みんな、わからなかったところとかある? あったら授業後、個別で聞いてね!」
そう葛西が言った直後、キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴り始める。タイミングがいいと笑い始めるクラスメイトに、葛西は恥ずかしそうに肩をすくめる。ああ、好きだなあ……。
葛西が教室から出ていく。それと同時に福も教室を出る。そして、腕を掴んだ。葛西は驚いたように肩をびくつかせた。
「あれ、篠田くん。どうしたの?」
「わからない、ところが、あったので、教えてほしくて……」
ダメだダメだと自制していながらも、心は葛西の方へと向かっていってしまう。矛盾だらけだ。
だが、どうしてもその腕に抱かれてしまいたくて。どうしても特別、熱のこもった声で名前を呼んでもらいたくて。身を焦がすほど熱いキスをしてほしくて。恋人ヅラをしていたくて。永遠の幸せを誓っていたくて。
「うん、いいよ。でも、篠田くん、国語得意じゃない?」
だから今は得意な国語が苦手であるようなふりをして、恋心ばかり優先してしまうのだ。
「僕、国語、あまり得意じゃないです」
「そっか。……じゃあ、どこがわからなかった?」
「ここの、この文なんですけど……」
それだけで、福は幸せだった。
コメント
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あ〜〜!!待って好きぃ!!!!! 富士山の山頂で好きと叫びたい…! うぅ…語彙力が無いのが悔しい😭😭これ1,000円くらい払った方が良くないか? 私的には羊右様が存在している事に感謝しているので存在にお金払いたい… まずオリジナルストーリーの2話でここまでキャラの性格が分かるの凄すぎません?いや実質これ1話だな… 待ってこれどうなんの〜?? なんとなくハピエンには行かなそう…!