テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「あ、透子。熱下がったの?」

登校しようと家を出るとすぐに、雅彦に声を掛けられた。

雅彦の家はうちの斜向かい。同じ高校に同じ時間に行くのだ。大体いつも顔を合わせる事になる。

「あ、おはよう雅彦。うん、お陰様で。プリンが効いたかな?昨日はありがとう」

私は笑顔で答える。そう、昨日謎の液体を飲んで意識を失い、気が付くと風邪の症状が綺麗に無くなっていた。それだけでは無い。日頃から抱えていた肩の痛みや目の疲れ、何となく怠かったりという不快感も無くなっていたのだ。むくみも取れて顔や足もスッキリ。絶好調である。自然と笑みが溢れる。

「雅彦昨日の夜LINEでさ、私がお礼言ったら・・・」

「あー、もう煩い。忘れて」

私が喋ると、途中で遮って、そう言いながら片手で払うような仕草をする。

私はクスクスと笑った。

夜、プリンとプリントのお礼をLINEで送った時に自分の誤変換に気付き、送信を取り消したのだ。

「1週間は笑えそうだよ」

私のその言葉に、雅彦は頭を抱えて項垂れる。見た目に似合わず可愛い奴だ。

「でもよく一晩で下がったな。結構熱高そうだったのに・・・」

雅彦はそう言って、私の胸元を見ながら口元を覆って黙り込む。そして、何故か頬を赤らめた。謎。

「それね、実は・・・」

私は雅彦に、謎の液体の事を伝えた。相手がイケメンな事と、手にチューされた事は省いて。

「は?何それ。知らない人に貰った物口にしたの?あり得ないよ」

「ちょっと熱で頭おかしかったのかも。でもね、飲んで寝ちゃって、起きたら空き容器とか無かったから、夢だったのかも知れない」

「貰った所から?」

「うんそう。インターフォンの履歴も無かったし」

そうなのだ。呼び鈴を押すと押した人の顔が画像として残る筈なのだが、何も無かったのだ。

「・・・夢だな」

「だよね・・・」

「まぁ、元気になって良かったんじゃない?」

「うん。本当。まるで羽が生えたみたいに体が軽いしねー」

言いながら私は走り出した。本当に体が軽いのだ。走りながら軽くジャンプする。楽しい気分が溢れて笑顔になる。

「雅彦、学校まで競争しよー!」

その時、雅彦の目には、透子の背中に鳥の翼のような物がチラッと見えたのだが、何度か瞬きをして見直した時には無くなっていた。


「五限目体育か。しかも持久走」

私は肩を落として呟いた。持久走は苦手だ。

「病み上がりなんだから、透子は休んでも良かったんじゃない?」

横から環がそう言う。

それは一瞬私も脳裏を掠めた。でも元気だし、ずるいな、という罪悪感のようなものを感じたので参加する事にしたのだ。

「私、逃げないわ」

そう言って拳を作り気合を入れる。

「よっ、透子カッコいい」

環の拍手。

そして、走り始めた長距離。校庭を一周してから外に出て、学校外周を3周して、再び校庭を一周してゴール。計3km。終わった人から帰って良いという地獄のようなシステムだ。

逃げないと意気込んで参加したは良いものの、私の息は直ぐに上がった。

「はぁ、はぁ、環、私の事は置いていって、いいよ?」

「ダメだよ。一緒に、ゴールしよ!」

環は勉強も出来るが運動もまあまあ出来る、バランスの良い子だ。私とは違って。そしてとても優しい。今も私の為に、決して速くはないスピードに合わせてくれている。

「もう、私無理。環、お願い、行って」

「透子、もうちょっと頑張ろう、行く時は、一緒よ」

そう言いながら頑張る私達の横を、何周か多く走る男子の集団が追い越して行く。

「お前ら息切らせながらヤバすぎ」

1人の男子が余裕そうにからかいながら通り過ぎる。他の男子も笑いながらそれに続く。いいな、みんな余裕そうだ。

突然誰かに頭を撫でられた。その集団の最後にいた雅彦だった。

「無理せず頑張れよ」

そう声を掛けてくれる。

「うん、ありがとう」

後ろ手で手を振って行ってしまった。それを見て環が舌打ちをする。

「チッ、カッコ付けちゃって」

「環・・・」

あはは、負けて悔しいのはわかるけど。

その後、何とか校庭に戻って来た。半分以上の生徒がもう走り終わって校庭を後にしている。

ああ、あと最後校庭一周・・・。

最後の力を振り絞って頑張っていた時の事だった。

校庭の内側では三年生が授業をやっている。男女半面ずつに分かれて球技を。女子はバレーボール、男子はサッカー。そのサッカーのボールが一つ、コントロールを失って、なんと運の悪い事か私に向かって飛んできたのだ。

「透子、危ない!」

環のその声と同時に、私の頭に強い衝撃が。

一瞬意識が飛んだ。体も飛んだのかも知れない。パッと気が付くと、校庭から校舎に上がるコンクリートの踏段が迫っていた。

ひぃぃ!

慌てて手を付いたものの、間に合わず、私は太ももから関節を経てふくらはぎの真ん中辺り迄をスライドさせながら強打。そのまま倒れてしまった。痛くて声も出ない。

「透子!」

叫んで駆け寄ってくれる環。そして遠くから先生と三年生の男子が掛けてくる。

「大丈夫か?」

「ゴメン!コントロール外した」

短パンの生徒が多い中、私はジャージを履いていたので派手に擦り剥くことは無かったが、それでも凄く痛い。目に涙が滲む。

「痛くて、喋れません」

そう言う私に

「いや喋ってるから」

とツッコミを入れる環。三年生の男子がプッと吹き出した。

笑わないでよ、あんたのせいよ。

1人では上手く歩けない為、先生とその三年生の男子に肩を借りて保健室に行った。環もついて来てくれた。

ジャージを脱いで短パンになると、広範囲の内出血で、私の足の右側面は見事青紫色に変わっていた。ジャージも所々黒く光りながら穴が開き(擦れて化繊が溶けたのかも)太ももとふくらはぎの一番出っ張っている所は少し擦り剥けて血が滲んでいた。

見ると余計に痛くなる。涙が出そうだ。

「うわ、マジゴメン!」

三年生の男子は、私の前に屈んで内出血にそっと触った。いや触ったら痛いんだけど。

そう思った時、環がその手をはたき落としてくれた。

「ちょっと触んないでよ!」

私の代わりに怒ってくれる。ありがとう。でも相手は先輩・・・。

「あぁ、ゴメンナサイ・・・。こんなに酷くしちゃって・・・」

先輩は、しゅん、となって謝ってくれた。元々私と同じ位の身長で大きくはないその先輩は、身を縮めて更に小さくなる。なんだか可哀想に見えて来た・・・。

「良いですよ、わざとじゃ無いでしょうし。血も殆ど出て無いから直ぐに治ります」

私はそう言った。

すると、先輩はビックリして目を見開いて私を見た。

「許してくれんの・・・?天使じゃん・・・。付き合う?」

ん?

「あんた何言ってんの?」

環がキレた。

「俺、優しくするよ?歩けないでしょ?チャリで送るし。ああ、俺3-Bの宮本、宮本礼央。ヨロシク」

そう言って右手を出して来る。軽い。

その手を環が叩く。環、それ先輩だよ・・・。

「そんなの透子も許さないし私も許さない。透子は私が自転車で送るので結構です!」

私と宮本先輩の間に割って入る環。それを生暖かい目で見守る先生。

「青春だな」

・・・変にまとめないで下さいよ・・・。

この作品はいかがでしたか?

11

コメント

2

ユーザー

あららぁ...//透子ちゃんもてもてですね🤭怪我をするシーンがあたかも自分が倒れたかのように感じてしまいました。また、そこからのやり取りがほのぼのしていてほっこりしました😇

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚