下校する時、いつも彼は1人川沿いを歩いている。
真横に少しズレたら落ちてしまうような危ない道を、1人ゆっくり上を見ながら歩く彼。
学校では髪が長くて見えない顔も、この時ばかりはちらりと覗く。
白い肌に、パッチリとした目
ぷっくりとした唇に、サラサラの髪
風に吹かれて少し瞬くその瞳は、綺麗な茶色。
バチッと目線が交われば、吸い込まれてしまいそうな。
川の流れと匂いと一緒に、どこかへ吹かれ消えてしまいそうな。
そんな淡いものだ。
私「流星くん、好きだよ」
小さな橋の上から自転車を押し歩く私は、いつも橋の下の彼へそう声をかける。
流「なぁ、顔見せてや」
そう言ってこちらを見上げる彼は、私の顔をじっと見る。
私はマスクとメガネで顔が隠れて、彼のように風に吹かれても簡単には見えない。
いつも下校時間の一瞬だけ交わる私達の視線は、それ以上でも以下でも無い関係だ。
私「いつかね」
いつものようにそう告げて、また自転車に足をかける。
見えなくなるまで私を目で追う流星くんを、また私も目で追う。
私は自転車を漕ぎながら後ろを見るので、危ないと分かっている。
だけど、不思議で淡い彼をできるだけ見ていたいと思ってしまうから。
私「好きだな…」
また明日も会えますようにと願って、帰路に着く。
流「今日は俺の方が先やったね」
私「…待っててくれたの?」
委員会で遅くなって、帰路に着いた頃には外は夕暮れで。
今は夏だと言うのに夕暮れになるほど遅くなるなんて。
今日は彼に会えないと、そう思って自転車を漕ぐ。
橋の前に来たところで、下から声がして見下ろす。
彼は私が来るまで待ってくれていて、自転車の音で私に気付いた様子だった。
流「今日は言いたいことあって。」
私「言いたいことって?」
流「…もっと近くがええなって」
私「…え?」
流「…橋の上と下じゃ無くて、一緒に上で話したい。」
私「で、でも流星くんはそっちが帰り道なんでしょ、?」
流「向こうの階段降りればええし。」
私「でも遠回りじゃ…」
流「ええの。ちょっとあっちの階段まで来れる?」
私「う、うん…」
橋の下から上がるための階段がある所まで、自転車を押して歩く。
その間、彼は下から話しかけてくる。
流「俺らって同級生やんな?」
私「私は高2」
流「俺も高2」
私「流星くんって苗字は?」
流「大西」
私「大西 流星くんかぁ…」
流「なんで俺に話しかけたきたん?ずっと前」
私「…」
綺麗だったから。
とは、素直に言えなかった。
私「なんか、、喋って見たくて。」
流「ふぅん」
そんな事を話しているうちに着いて、そこから流星くんが階段を上がってくる音がする。
私「ま、まって…」
流「え、なに?」
私「き…緊張するって言うか、近くで見られるの…やだ…かも、」
流「…」
無言の無音が少し続いた後、また足音がする。
私「ッ…」
流「マスクとメガネ、外してや」
私「…やだよ、」
流「お願い、俺も前髪分けるから。」
そう言って前髪を分けた彼の顔を初めて目の前で見た。
少し私より背が高くて、ちゃんと男の子だなっていう手と、肩幅。
でも顔は…
私「綺麗…」
流「…なんそれ」
素直に出た言葉を聞いた彼は、少し照れくさそうに髪を元に戻してそっぽを向く。
私「鼻、高いね」
横を向いた時の顔は格別に綺麗で、顎のラインも喉仏も全部がお手本みたいで。
流「ッ…ジロジロ見て無いで自分のも取りや」
私「あ…えっと、引かないでね?」
流「引かんよ。突然話しかけられた地点で変わった子やなって思ってるし。」
私「そ、そっか…」
昔初めて声をかけた時から既に引かれていた。
まぁドン引きだよね、普通に。
私「…じゃ、じゃあその…行きますッ」
流「なんそれ、ふふ」
私「わ、笑わないでよ…」
流「はいはい、取って?」
私「…は、はぃ、」
なんだか無性に恥ずかしくて、じっと見てくる彼の方を見上げる。
私「へ…変…でしょ、?」
流「どこが…めっちゃ綺麗やん」
私は産まれた時から、頬に星の形をした小さなホクロのようなマークがある。
それはコンプレックスでしかなくて、触れるとピリっと何か電気が走るような感覚もある。
痛い訳では無いけれど、病院に行っても何か分からず終わった。
私だけにある、変な模様。
流「…いつから?」
私「産まれた時からずっと…」
流「可愛い」
私「…なんかさ」
流「?」
私「…流星くんが付いてるみたい」
流「…星やから?」
私「うん。そう思ったらこの星も好きかも」
流「…そう」
一言呟いて、私の頬に触れる彼。
私「ッ…」
流「痛い?」
星に触れられてピクッと頬が動いて、彼が私の顔を柔らかい声をかけながら覗く。
私「ん…痛くないよ」
流「…こっち向いて」
そう言われて ふっ と見上げたら、彼が私の頬にキスを落とす。
ピリッとして、それがとても幸せな気がして。
私「も…1回、」
流「ええよ、」
また優しい声で呟いて、もう一度頬にキスをしてくれる。
私「なんかさ、変…だね」
流「…変な気分ってこと?」
私「ち、ちがっ…くない…けど、違う!」
流「ふふ、やらしい」
私「ッ違います!!」
流「顔真っ赤、ふふ」
そう言ってふくふくと笑う彼は、とても綺麗で。
私なんかと大違いで、離れて行く彼の腕を見てなんだか凄く悲しくて。
私「…好き」
蚊の鳴くような声で言った言葉は彼には届かず。
流「帰ろか、あっちまで送るで。」
そう言われ、ゆっくりと歩く。
歩いていたらツツジが咲いていて、ひとつ取って吸う。
私「甘い…」
流「確かに甘いな、久しぶりに吸ったわ。」
私「私も。こんな甘かったっけ?」
流「俺はもっと甘かった気すんねんけど。」
私「えぇ?ほんと?」
そんな他愛の無い話をして、橋の上へ着く。
流「…また明日やな」
私「うん…また帰り道?」
流「…そうやね、明日も話そうな?」
私「!…うん!」
流「一緒に帰ろうな」
私「うん…!」
そうして私達は別れて、翌日を待った。
今日は少し橋の手前から合流して、道を歩く。
私「今日さ、ちょっと寒いね」
流「ホンマやね。」
私達はその日の帰り道も、昨日と同じように他愛の無い会話をして。
私「ここまでだね」
流「そうやな」
いつもの橋に着いて。
私「…明日は?」
流「休みやから来週やね。」
私「…」
流「…どうしたん?」
私「…寂し、ぃ…かも、」
きっとまた引かれたり、ヤバいやつと思われる。
そう思うのに、昨日からなんだか変で。
流星くんと一緒に居たい、離れていくと無性に寂しい気持ちになる。
流「…また会えるよ」
私の頬を滑る彼の手と、星に落とされた唇は熱い。
私「いや、ぃゃ…ッ」
迷惑だろうと分かっているけど、そう思うほど止まらない涙を必死に拭う。
私「ごめん…ごめ、流星くんとバイバイするの…変に辛くて、グスッ…ふ、」
流「そっか…じゃあもうちょっと一緒に居ろうか。」
私のわがままに付き合って、橋の下で一緒に座って。
私「流星くんの事好きだよ。ずっと前から」
流「なんで好きやったん。いつからなん?」
出会った頃、初めて流星くんを見た時の話をして、恥ずかしくなって。
彼もまた私を初めて見た時の話をしてくれて。
ほんとに何気ない時間だった。
だからこそきっと終わるのが辛い。
私「流星くんは好きな人居ないの?」
流「俺は…」
そう言って草や蔦だらけの場所を眺めながら、何かハッとした彼は下を向いた。
流「…もう居なくなっちゃった。ほんまに突然居なくなって…でも3ヶ月ぶりに会えたよ。」
そう言って彼は私を見て、とても切なそうな顔をしていた。
───4月9日未明、市立◯◯高等学校の女子生徒が川で転落死していた事が判明しました。
流「俺の星やなくて、君が星になっちゃったんやね。」
《お星様》
コメント
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リクエストいいですか? 高橋恭平と幼馴染で高橋恭平は、◯◯に片思い中でアピールしまくるけど◯◯が気づかない的なシュチュエーションでお願いしたいです(._.) もしよかったらお願いします🙇