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邪神を倒し、アラン殿下にすべてを打ち明けてから数日後。

エルネストと私は、国王陛下から直々に王宮へと招かれた。


色々とややこしい問題はあるが、聖光神の加護を持ち、邪神を滅ぼしたことには間違いないので、重要人物として扱ってくれるようだ。


この国の一番偉い方にお会いするということで、エルネストも私も失礼のないよう入念に身支度を整えた。


また衣装室から見繕って、なるべく誠実な人間に見えそうな、あまり華美ではない落ち着いた印象のドレスを選んだ。


ちなみにエルネストはあの日以来、聖女の衣装ではなく、普通の男性用の服を着ている。


すらりとした長い手足と均整の取れた体つきは、日に日に男らしさを増していて、エルネストの聖女姿に慣れ切っていた私は妙にドキドキしてしまう。


準備を整えた後、王宮から遣わされた豪華な馬車に乗って、今も護衛騎士として付いてくれているクロードも一緒に王宮へと向かう。


三人揃って馬車の中だが、何となく皆無言のまま、それぞれの思いに耽っていた。


神殿から王宮まではさほど距離がないので、すぐに到着して馬車を降りた。


待ち構えていた兵士に迎えられ、陛下や大臣、有力貴族たちが待つという広間へと案内される。


豪奢な飾り彫があしらわれた分厚い扉が開かれて中に入ると、そこには、奥の立派な椅子に国王陛下、その横にアラン殿下が立ち、入り口から奥へと敷かれた赤絨毯の脇に十数人ほどの大臣や有力貴族たちが並んで私たちを待っていた。


エルネストも私も、こういう場での正しい作法が分からないが、この国で最高峰に偉い人だらけなので、とりあえず深々とお辞儀をしてみる。


すると、国王陛下が顔を上げるようにと仰ったので、おずおずと姿勢を正した。


「エルネスト殿、この度は封印を解かれた邪神を聖力でもって滅し、我が国を救ってもらったこと、心から感謝する」


「勿体ないお言葉、ありがとうございます」


「邪神に唆されたとはいえ、祠を暴き封印を解いた令嬢の罪は重い。彼女は王都から追放し、北の修道院での幽閉処分となった」


どうやらアデル嬢はもう王都にはいないらしい。

北の修道院と言えば、冬の寒さと規律の厳しさで有名な修道院だ。


いくら咄嗟だったとはいえ、邪神の攻撃に向かって突き飛ばされ、死の恐怖を味わった身としては、二度と顔を合わさないで済むことにいくらかホッとした気持ちになった。


エルネストも彼女にはだいぶ腹を立てていて、「邪神に騙されて封印を解いたのはいいとして、レティを突き飛ばすなんて頭がおかしい」と憤慨していたので──私からしたら、邪神の封印を解いたほうがどうかしていると思うのだけど──国王陛下からの説明には満足そうな顔を見せた。


「……して、そなたが聖女と偽っていた件だが……いや、実際に加護を授かっているのだから、偽ってと言うのは適当ではないな……」


国王陛下が言い淀むと、有力貴族たちの一人が口を挟んできた。


「陛下、男が聖力を持つなど、今まで聞いたこともありません。本当に彼の力は聖力なのですか?」


エルネストへ疑いの目を向ける彼に、私が密かに憤慨していると、アラン殿下の声が響いた。


「彼の力が聖力であることは僕が保証しよう。貴方は僕も疑うか?」


「い、いえ、そんな滅相もございません」


アラン殿下の前では途端に腰が低くなった。

きっと、エルネストが平民だからと思って見下しているのだ。


平民を馬鹿にする貴族など情けないと思っていると、他の大臣やら有力貴族たちがどんどん質問や意見を出し始めた。


「しかし、聖女様は王家に嫁がなければならない。この場合は、王女に婿入りとなるでしょうが、現在王家に王女はいらっしゃらない。どうなさるのですか?」


「ならば、王族傍系である我が家の娘の婿としてはどうか?」


「いや、神官として神殿に篭っていただくのがよいのでは?」


「そもそも、国民にはどのように説明するのです?」


なんだか、色々な意見が飛び交って騒がしくなってきた。

というか、エルネストが他の貴族の娘に婿入りだなんて冗談ではない。


思わずぎゅっと拳を握ると、エルネストがその手でそっと触れてくれた。エルネストの手の温かさに少し冷静さを取り戻したところで、国王陛下が声を発した。


「皆の者、静まれ。貴君らの考えは分かった。この件については、アランから提案があるから聞くように。アラン、説明しなさい」


国王陛下に促され、アラン殿下が一歩前に出て話し始めた。


「まず、国民には正直に伝えましょう。間違って聖女とされた妹を庇うために入れ替わって女性を装っていたが、実は男性であった。そして邪神の降臨で正体を明かして戦い、邪神を討ち滅ぼした聖なる勇者であると。国民は英雄譚を好むものです。彼の聖力を実際に見てもらえばすぐに理解してもらえるでしょう」


「な、なるほど……。では、婚姻についてはどうお考えか。魔力の強化や権威づけに欠かせないことであるし、他国にでも行かれたら厄介です」


「仰るとおり。でも、それも問題ありません。確かに現在、王家に王女はいませんが、彼を王家に養子として迎え、妻を娶ればよいのです」


「では、その妻には我が家の……」


また娘をアピールする貴族が口を挟んだところで、アラン殿下がぴしゃりと言った。


「妻君となる令嬢にはもう適任がいます。我が国の建国時から忠誠を誓っている由緒正しい貴族のご令嬢です」


アラン殿下の言葉に、思わず顔が引きつる。


殿下は、私たちに悪いようにはしないと仰っていたけど、どういうこと?

もうエルネストの妻が決まっていると言うの?


不安で胸が苦しくて、寒くもないのに体が震えてくる。

エルネストは青ざめて震える私を見ると、アラン殿下を睨みつけて言った。


「俺の妻となるのはレティだ。彼女以外、認めない」


はっきりと言い切ったエルネストの言葉を聞いて、私は涙が溢れそうになった。


そして、アラン殿下はそんな私を見てなぜか柔らかく笑った。


「その通り。我が国の古くからの忠臣のご令嬢、そして聖女専属侍女として常にエルネスト殿を支えてきたレティシア・オルトン嬢こそ、エルネスト殿の妻君に相応しい。オルトン家は、自分たちよりも領民の暮らしを優先する、素晴らしい貴族だ」


えっ!? 忠臣って、実家のオルトン家のこと!?


由緒だけはある貧乏な家だと思っていたら、そんな風に評価してもらえてただなんて、なんだか感動だ。そして疑ったりしてすみませんでした……。


「し、しかし、英雄であり勇者であるエルネスト殿の妻となるならば、もっと華やかで美しい──ヒッ!」


娘アピール貴族が、また懲りずにそこまで言ったところで、エルネストに射殺さんばかりに睨まれて情けない悲鳴をあげた。


「レティシア嬢は慎ましい女性だから着飾り方を知らないだけだ。これからもっと美しくなるだろう。それに、彼女は王都の民から絶大な支持を得られるから大丈夫さ」


殿下が褒めちぎってくれてありがたいけれど、王都の民から絶大な支持を得られるとはちょっと言い過ぎではないだろうか……?


そんな不安はありつつも、アラン殿下はこの場に集まった人たちを見事に言いくるめてくれて、エルネストは救国の英雄であり聖なる勇者、私はその婚約者として国民にお披露目される運びとなった。


中にはまだ不満そうな人もいたが、次第にアラン殿下の婚約者選びの話題になると目の色を変え始め、娘アピール貴族が再びしゃしゃり出てきたところで、殿下が「早急にお披露目の準備が必要」と主張し、謁見はお開きとなった。



◇◇◇



「アラン殿下、何から何まで本当にありがとうございます」


広間から退出した後、私たちはお披露目用の衣装の採寸があるとか何とかで別室に通された。


アラン殿下も付いてきてくれたので、エルネストと私は揃って感謝の気持ちを伝えた。


「いや、いいんだよ。僕は君たちが気に入ってるんだ。エレーヌ嬢との結婚が叶わなかったのは残念だけど、君が僕の弟になるならそれも悪くないかな」


「お、弟……?」


「そうだろう? 僕の弟になるのは嫌かな?」


「いえ……、俺が王族になるというのは、さすがにまだ抵抗がありますが、レティと一緒にいるためなら覚悟を決めます。それに、あなたの弟になるのは……そんなに悪くないと思います」


「はは、それはよかった。下の弟たちはまだ小さいから、歳の近い弟ができて嬉しいよ。遠慮なく兄上と呼んでくれ」


アラン殿下はとても機嫌がよさそうだ。

エルネストは突然「兄上」呼びを求められて狼狽えている。


「あ、あに、兄上……?」


「うーん、なんだか抱きしめてやりたい衝動に駆られるな……」


「は!? 止めてください!」


「僕の弟になるんだからいいだろう?」


仲良くじゃれあって、本当に兄弟のようだ。

私はニマニマと微笑みながら、二人を見守るのだった。

聖女専属侍女になったら、聖女様がまさかの美少年だったんですが

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