──────椎名視点──────
「ありゃ、やる気なくなっちゃいました?」
そういいながら再度彼女は声をかけてくる。やる気ながなくなるも何も。先程の話を私なりに解釈するならば私は他の世界の人の娯楽に過ぎないということだ。私の頑張りはめめ村のみんなの為なんかじゃなくて、全部『あなた』のためだったのか。
もう、なんのために頑張ってるか分からなくなる。───その為だけに私は何人殺したのか。記憶が無いだけで私の想像を遥かに超える人達を───。
そう考えた途端、手に血がべったりとつく。生温かくて、ドロドロとした液体。それが私の罪だとでも言うかのように突きつけられる事実。再び瞬きをすればそれは消える。だが、その衝撃と後悔は私の心臓を簡単に砕いた。
「あ、あぁ…ぁぁあ…!!」
言葉にならない呻き声を上げ、何かから身を守るように両手で頭を抑える。視界は暗転し、前は何も見えない。まるで、今の私みたいだ、なんて皮肉めいた幻聴が隣から聞こえる。嫌だ。ごめんなさい。仕方がなかったんだ。言い訳がつらつらと出てくる自分に吐き気がするが、謝らずにはいられないし、言い訳せずにはいられない。謝っても許されないのに、言い訳すらできない立場なのに。その事実を知ってなお止まらない。再び吐き気がして、思わず吐きかける。だが、それは何にもなれずに空気に溶け込んでいった。
「…あの、このままだと絵面的にまずいんですけど。いや、あなたの絶望が見たいって人も多いので大丈夫といえば大丈夫なんですが。あまりにも動かなすぎるのでカットすることに」
「大…丈夫だから…次の世界、行く。」
この世界に留まり続ければきっと私は正気ではいられなくなる。なら、違うことに意識を向けたい。この罪の意識から逃れたい。この現実という足枷をここに置いていってしまいたい。
そんな願いを察したのかどうか分からないが彼女は即座に本を開く。
本の題名は『───』
「予習はしなくてもいいですかね?まあ、今回はサクって終わると思いまよ。この話に面白みは求めないので。」
私が何かを言い返す前に私は本に吸い込まれる。
震える声で私は叫ぼうとする。ただ、結局その声はかき消され、誰にも聞こえない。だから、私は見てるかもしれない『あなた』にいう。
───「なら今回は救われないじゃん」
──────Hれいまり視点──────
つんざくような鉄の匂いに反射的に鼻をつまむ。その原因は明らかであった。
目の前に死体があるからだ。それも、見ていられないほど痛々しい。
腕や足があらぬ方向に曲がり、胸から腰にかけるまでの肉はガブリといったのだろう。歯型模様が残り、その真ん中は骨しか残っていない。眼球はほじくり出されたらしくなく、代わりにあるのはどこまでも暗い空洞だった。服は粘液によって溶かされていたが、特徴的なものがあった。
───緑色のフード。
これはつまり、この死体はこの世界における私だということを表していた。既に、私が死んだ状態からスタート、ということらしい。こんな酷い死体を見たというのに私は安堵してしまう。
───私の手で、殺すことにならなくてよかった。
そう無意識のうちに感じ、口に出してしまいかけ、慌てて口を塞ぐ。何を思っているのだ、私は。人の死を見て真っ先に思うことはそれか。こんな考え方まるで悪魔ではないか。自身の考えを侮辱しながら私はその死体に手をかざす。
そうすれば私の姿はたちまちその姿になる。そう、これが成り代わりの手段である。この世界の私を殺したあと手をかざせば私はその人そっくりになり、記憶を引き継ぐことが出来る。
自身の記憶を確認する。とある村娘の1人で、森でさまよっていたところに魔獣に食われて…ということらしい。特筆することがない、平凡な少年だ。…あ、私今回男の子なんだ。と忘れかけていた情報を思い出す。何回か男になっことはあるが、そのルートはだいたい即死だったため、ある意味初めてかもしれない。
そんなことを考えながら自身の家に戻ろうと、元来た道らしきものを歩いていく。
私は思わず横に転がる。その瞬間、私が先程いた位置は押しつぶされ、強風が立ちこめる。咄嗟の判断で避けなければ確実に押しつぶされていたことだけは明らかになる。
私は後ろから獣の声が聞こえていることに気づき、避けるために横に転がったのだ。少年の体は使い慣れておらず避けるのが困難であったため、苦肉の策だった。
どうやら正しい判断ができたらしい。結果、即死ルートは回避できた。───いや、もしかしたら何回かしんでやり直してるのかもしれないが。
私は咄嗟にこの子がなにか武器持っていないかを探す。が、それらしきものは持っておらずなけなしの銅貨が数枚とパン一つだけだった。次に探したのは魔法か能力。どちらかが使えていれば確かに武器は不要だからだ。しかし、どちらもないことは記憶を見れば明らかだった。
逃げるしかない。ただし、見れば分かる。相手は魔獣。おそらく元々の世界の私を食ったやつだ。赤くギラギラと輝く瞳が私を捉える。私のことを食料としかみなしていないらしい。───魔獣ならばやつの方が足が早いし、鼻も聞く。ただの人間である私が逃げ切れる確率は相当低い。ましてや、隠れたりも不可能だ。こんなに近くに入れば匂いはもうバレている。自己防衛の術がないのに何故わざわざ森なんて入ってきるんだ。もはや逃げ道を絶たれた私にできることは自分を恨むことだけだった。
魔獣はヨダレをダラダラと垂らし、今、この瞬間私に襲いかかってきた。
この即死はおもしろいのだろうか。もし、面白くなければ───また記憶を消されてやり直すのだろうか。そんな疑問とともに私は目を強く瞑った。
ここで切ります!椎名ちゃん絶望回でした!徐々に壊れていく様子を書くつもりですが、加減が難しいなーって思いながら書いてます。言葉の表現の仕方をもっと知っていきたいです!
戦闘しない戦闘シーンの書き方めっちゃ難しいですねー。頭の中にイメージはあるんですが、それを他者に伝えるためにはどう書けばいいのかを試行錯誤しながら書いてます。結果何回か同じことを言っちゃったりするんですけどねぇ…
それでは!おつはる!
コメント
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本編のあとがきに仲春さんじゃなくてれいまりさんが出てきたことがあったけど、あれはれいまりさんが私達をはっきり認識してるっていう伏線だったってことだよね…。他のメンバーがでてこないの不思議に思ってたけど、唯一れいまりさんだけが私達に気づいてたからで、他メンはほとんど気づいていなかったのか…
そりゃむずいわな