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授業と授業の間の小休憩中。
雪乃は飲み物を買いに自販機へと向かっていた。
まばらに生徒が談笑する廊下を、エーフィと共に歩いていく。
「おー草凪、どこ行くんだ」
すると廊下の途中である男子生徒に声を掛けられる。
「自販機」
「じゃあ俺のも買ってきて」
「やだ」
「はぁ〜?ケチかよ」
「うるさい自分で買え五十嵐」
話しかけてきたのは同じクラスの五十嵐。サッカー部で陽キャ、フレンドリーでムードメーカー。
相棒のマーイーカを連れて他のクラスの友人たちと談笑中だったらしい。
「相変わらず仲良いなー五十嵐ぃ」
「ほんとお前草凪のこと好きだな〜」
五十嵐の周りの友人たちがニヤニヤしながら五十嵐をつつく。
「いや、ちげーから」と冷静に返す五十嵐。
「こいつとは永遠のライバルだ、な?草凪」
「は?」
「ごめん、違ったみたいだわ」
雪乃の圧に負ける五十嵐。
もちろんライバルだと思ったことなど一度もない。
「はいはい照れ隠し照れ隠し」
「だーかーらー、違うっつの!おい、草凪もなんか言え…って、いねーし!」
そんなどうでもいい会話を聞き流し、雪乃はスタスタ歩いていく。
「マーイッカ!」
後ろでマーイーカが鳴くのが聞こえた。
しばらく歩いていると、隣を歩いていたエーフィの額にある赤い水晶がキラリと光った。
「フィ」
エーフィの短い鳴き声に、雪乃はハッと気付き、身を躱す。
すると後方から廊下の真ん中を男子生徒が全力疾走で駆け抜けていった。
すれ違いざまに見たその表情は険しく、必死の形相だった。
まるで何かに追われているかのような。
雪乃は少し立ち止まり、後ろに視線をやる。
しかし何もいない。
でも何故だろう。
誰かに見られているような視線を感じる。
…まぁいいか、と雪乃とエーフィは再び廊下を歩き出した。
放課後。
「じゃあやろっか、勉強」
美希の一言に、思わず逃げたくなった。
「…はい」
「何そのやる気のない返事。嫌なら別にいいのよ?」
「いや、やります。頑張ります。見捨てないで」
雪乃の言葉に満足したのか、教材を取り出して机に広げる美希。
〜タララタララタラタラン♪
しかしそこへ、雪乃のスマホに着信が入った。
画面を見ると『チーノ』と表示されている。
「ごめん美希、ちょっと電話してくる」
美希に断りを入れてから席を立つ。
廊下に出るとピッと応答ボタンを押す。
「南無南無?」
『南無南無〜、じゃないねん!ふざけとる場合か!』
何故かキレられた。
「え、何ですか?イタズラ電話?切りますよ」
『いやちゃうわ、普通に緊急事態や』
「え?」
何やら切羽詰まった様子。
とりあえず風紀室に来てくれ、だけ言われ電話を切られた。
「…なんだあいつ」
ボソリと零しながら教室に入り、美希にごめんと手を合わせる。
「なんか呼び出しくらっちゃって。すぐ戻るからちょっと待ってて」
「…あんた、逃げるつもりじゃないでしょうね」
「ち、違うって!委員会でなんかあったらしいから来いって言われて…いやほんとだからね!?」
「はいはい、じゃあ待ってるから」
いってらっしゃい、と言われもう一度「ごめん」と言い、少し急ぎながら教室を出た。