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遅刻厳禁の朝
目が覚めた瞬間、体の重さに気づいた。
頭がズキズキと痛み、吐き気が込み上げてくる。涼は布団から這い出すこともできず、床の上で小さく丸くなった。
「まずい……どうしよう……」
スマホが無機質な音を立てて震えている。画面には”元貴”の名前。もうそんな時間―――かろうじて指先で応答ボタンを押した。
「もしもし、元貴……?」
何とか普段通り、明るい声を装う。でも、それは自分でも空々しいと思うほどだった。
『涼ちゃん今何時かわかってる?今日なんの日か知ってる?』
電話越しの元貴の声は、いつもより少し強く、そして緊張感が滲んでいた。
慌てて近くのカレンダーを見る。そこには大きく「遅刻厳禁」「レコーディング」の文字。
「ごめん、本当にごめん💦」
咄嗟に謝る。けれど、その瞬間、もう我慢できずに吐いてしまう。
静寂の中、嘔吐の音が受話器越しに伝わる。
『……え?涼ちゃん、体調悪いの?』
動揺と心配が入り混じった元貴の声。
呼吸もままならなくなり、涼は「ごめん、ごめんなさい」と涙混じりに繰り返す。
『……涼ちゃん、落ち着いて。大丈夫、すぐ家に行くから、電話、そのままにしておいてね。絶対にひとりにしないから』
元貴の声は、今までにないほど優しかった。
涼はその声に、少しだけ救われた気がして、泣きながら電話を握りしめた。