この日の帰り道、ミドリと私は手を繋いで歩いた。
「フウカの手って温かいねー」
「そう?ミドリの手は冷たいね」
「でしょ?フウカいなかったら私凍え死ぬかも」
私がミドリの言葉に返事をしなかったのは、今は何も話さなくていいと思ったからだ。
ミドリと歩くこの冬の静かな道も、大好きだった。ミドリの冷たい手も、ミドリの存在も。ずっと一緒に居たいって思った。
その瞬間、自分の気持ちに気づいてしまったんだ。
___あれ?これって、友達以上の気持ちを抱いている気がする。
気づくと私は、ミドリの手を離してその場に立ち尽くしていた。
「フウカ?」
「ミドリ、私たちって友達だよね?」
「なに、お金でも借りたいの!?」
ミドリらしい反応にいつもは笑う私が、この時だけは笑えなかった。
「ごめん」
声が震えて次の言葉が上手く出せずにいると、ミドリが優しく微笑んでくれた。
その笑顔が、私をもっと苦しめた。
「泣くなんて珍しいじゃん」
そう言いながらミドリは私を抱きしめてくれた。なのに、私はミドリを突き飛ばした。
「あ、ごめん…」
自分でもやっていることが、今の状況が頭の中で整理されなくて今にも爆発しそうだった。
私はとにかくその場から逃げた。雨が降っていることにも気づかずに。
「私、最低だ」
瞬く間に勢いを増していく雨は、私に冷静な思考をする暇を与えてくれなかった。
次の日、ちょうど休日だったから私はミドリに謝ろうと家を尋ねた。
緊張で震える指で、チャイムを押す。
「はーい」
ミドリの声ではない幼い男の子の声が聞こえた。
「ミドリの友達のフウカです、ミドリはいますか?」
数秒後、返事が無いと思ったら家のドアが開き、そこに居たのはミドリの弟、カケルくんだった。
「フウカちゃん?入っていいよー」
「あ、ありがとう…」
指定された椅子に座るとカケルくんがお茶を出してくれた。小学一年生なのにしっかりしてるなと困惑する。
「あの、お母さんたちは?」
「買い物に行ってるよー」
家の中を見回すと、ミドリとカケルくんの写真が数枚貼ってあるボードが目に止まった。
幼い頃のミドリや、赤ちゃんの頃のカケルくんの写真がたくさん貼ってあって、二人とも両親に大切にされているんだなと感じた。
「ミドリ呼ぶ?」
ボードをじっと見ているとカケルくんに話しかけられ、はっとする。
「大丈夫、ミドリの部屋行ってもいいかな?」
「うん」
カケルくんの笑顔が、ミドリの笑顔によく似ていた。
階段をあがり、ミドリの部屋の前に立つ。
「…ミドリ、入ってもいい?」
「いいよ」
一階から私の声が聞こえていたのだろう。ミドリが驚く様子はなかった。
昨日、ミドリに冷たい態度を取ってしまったこと、突き飛ばしてしまったことを謝ろう、そしてこの気持ちをちゃんとミドリに伝えよう 。
そう自分に言い聞かせて、コンビニで買った肉まんを片手にドアノブに手をかけた。
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