テラーノベル
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若井が起きた時には外はもう暗くなっていた。
「寝すぎたぁ!···ごめん、暇だったんじゃない?」
申し訳なさそうな顔をする若井を見て謝らないといけないのは俺だと思う。
だって若井を見て、ヘンな気持ちになって服の上からその身体を撫でて···。
思い返すとまたおかしくなりそうだ。
「全然、宿題してたし···疲れてるのに来てもらってごめんね」
宿題なんて嘘、本当は寝顔をずっと眺めていた。
「俺は元貴と久しぶりに会いたかったから来たの···って、なんか恥ずかしいな」
「何いってんの」
そんな事言われたら俺の方が恥ずかしい。思わず照れて顔を背けると若井が肩を組んでくる。
「もしかして照れた?元貴って可愛いところあるな」
若井の体温を感じでドキリとした。今の俺にはちょっと刺激的すぎるから慌てて離れようとするのにぐいぐいと強く抱きついてきて本当に困って、逆に今なら···と抱きつき返す。
若井の汗の匂い、けど全然嫌じゃなくて強く強く抱きしめる。
友達としてなら、これくらい許してもらえるだろうか。
ふと若井の耳が赤くなっているのが目に入った。
「···若井こそ照れてない?」
「ない、照れてないから!」
その後はやめて、やめない、暑いから!だめ!と攻防を繰り広げてバタバタと部屋で格闘していると1階からうるさい!と怒られる声が飛んできて、2人で顔を見合せて笑った。
「···もう、怒られちゃったよ」
「だね、そろそろ花火しよっか?」
若井と俺は外に出ると花火に火を付けた。パチパチと光って若井の顔を照らす。
「夏って感じする!」
火をわけながらしばらく2人で花火を楽しんでいたけど、あっという間に残りは線香花火だけになってしまい、
2人で静かに火を付けてパチパチと小さくなるそれを見ていた。
「···来年も、元貴と花火出来るかな」
「出来るに決まってるじゃん···またプールだってお祭りだって···」
なんでそんなこといきなり言うんだろう?若井はただじっと花火を見つめてる。
「元貴に彼女が出来たら俺となんて一緒に居てくれないんだろうなって」
「···はぁ?」
「元貴ってモテるのに気づいてないだろ」
「嫌味か?若井に言われたくないよ」
こんな陰キャな俺にモテる若井がそれを言うなんてなんの冗談だろうか。
「違うよ···ほんとに」
「それが本当でも俺は彼女なんかいらない」
そう、彼女なんてものはいらない。
欲しいのは目の前にいる、若井だけ。
「じゃあさ、好きな人もいないの?」
普段恋愛の話なんかしない若井が今日はやけに食い下がってくる。
いるよ、目の前に。
けどそんな事は言えない。
「···いない、かな」
「そっか···」
もうとっくに落ちた線香花火を弄んでいた若井が新しいのにようやく火を付ける。
「···俺はね、ナイショ」
「えっ?」
「いつか言うよ」
いつか教えてくれるってこと?
うん、ともいやだ、とも言えずに俺は静かに若井を見つめる。
なぜか花火に照らされるその横顔はどこか満足そうで、俺は不思議な気持ちだった。
いつか俺も若井に言える日が来るんだろうか。
ほんとはずっと好きだったって。
今はまだわからないけど、いつか若井からその時が来たら···その話を聞く前に俺は気持ちを伝えようと思った。
「楽しかったね。来年 は俺が用意しておくから···一緒に花火しよう。約束して?」
「じゃあその次の年は俺が用意する。約束ね」
笑って頷いて、さぁ部屋に戻ろうと立ち上がった若井を追いかける。
来年の約束。
俺が欲しかったものを若井はいつだって持ってる。
風鈴が遠くで鳴って夏のニオイする。忙しくて感じられなかった夏をようやく若井と迎えられた気がした。
コメント
7件
大森さんに好きな人がいないって聞いて、安心する若井さんが可愛くて好き🩷