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第52話「エルフの血の秘密が漏れた場合」
午前七時十二分。
森野リリカのスマートフォン。
通知。
一件。
二件。
五件。
十二件。
森野。
ベッドの中で。
目を開ける。
「……」
隣。
相沢直人。
「どうした?」
「通知が」
画面。
SNS。
『エルフの血を飲むと長生きするって本当?』
森野。
完全に。
目が覚める。
「……相沢さん」
「何?」
「漏れました」
「何が?」
スマートフォンを。
見せる。
相沢。
起き上がる。
投稿。
『昔からエルフの血には不老効果があるらしい』
『海外では昔から伝説がある』
『研究機関が実験中との情報』
『エルフと暮らした人間が125歳まで生きている』
森野。
「修一さんの年齢まで」
「……」
「出てる」
相沢。
「まず高橋先生に連絡」
「はい」
森野。
電話。
高橋。
すぐ出る。
『森野さん』
「見ました?」
『はい』
「どこから?」
『調べています』
「先生」
『はい』
「修一さんの情報まで出ています」
『承知しています』
高橋の声。
いつもより。
硬い。
『研究チームには今朝』
『全データへのアクセス停止を指示しました』
森野。
「研究も?」
『一時停止します』
森野。
「……」
『原因が分かるまで』
『新しい検体もデータも扱いません』
「分かりました」
電話。
切る。
森野。
耳。
下がる。
相沢。
「会社」
「行きます」
「休んでも」
「行きます」
「でも」
森野。
「こういうときに」
髪。
整える。
「隠れたくありません」
そして。
少し止まる。
「……怖いですけど」
相沢。
「一緒に行こう」
「いつも一緒でしょう」
「そうだった」
午前八時四十分。
会社。
入口。
人。
多い。
普段より。
明らかに。
多い。
スマートフォンを持つ人。
カメラ。
記者らしき人。
警備員。
森野。
足。
止まる。
相沢。
「裏口行く?」
森野。
考える。
「……はい」
以前なら。
逃げることが。
負けのように思えた。
でも。
今は。
違う。
危険を避けることと。
自分を隠すことは。
同じではない。
裏口。
会社。
営業企画部。
田中。
「森野さん!」
走ってくる。
「大丈夫ですか?」
「はい」
「ネット」
「見ました」
月島。
自分の耳。
触れる。
「私にも」
「何か?」
「知らないアカウントから」
スマートフォン。
『血液を少量提供していただけませんか。謝礼100万円』
森野。
顔。
変わる。
田中。
「百万円?」
月島。
「別の人は三百万円」
部長。
「全部保存」
「はい」
「返信するな」
「はい」
「脅迫や待ち伏せがあればすぐ警察」
森野。
「部長」
「会社としても対応する」
「……ありがとうございます」
部長。
「社員を守るのは普通だ」
田中。
「エルフでも?」
部長。
「社員なら」
森野。
耳。
少し上がる。
午前十時。
神崎から。
メッセージ。
『香織さんの会社にも問い合わせが来ました』
森野。
『大丈夫?』
『はい。ただ、同棲の件はしばらく外に出さないことにします』
森野。
『それがいい』
さらに。
アリア。
『家の前に知らない人いる』
森野。
すぐ。
電話。
「警察呼んで!」
『もうユウが呼んだ』
「修一さんは?」
『家の中』
「絶対出さないで」
『分かってる』
森野。
手。
震える。
相沢。
隣。
「大丈夫?」
「私」
「うん」
「甘かった」
「何が?」
「公表したとき」
「……」
「耳を見られるくらいなら」
「うん」
「慣れればいいと思ってた」
相沢。
黙る。
森野。
「でも」
「人間が欲しがるものを」
「私たちが持っているかもしれないとなったら」
「……」
「話が違う」
昼。
緊急エルフ会議。
オンライン。
榊原。
エリアス。
森野。
月島。
神崎。
アリア。
その他。
多数。
榊原。
『まず』
『血液に長寿効果があるという事実は』
『確認されていません』
全員。
頷く。
『この点を』
『統一して発信します』
エリアス。
『そして』
『血液提供の依頼には』
『一切応じない』
森野。
「はい」
若いエルフ。
『でも』
『本当に効果があったら?』
沈黙。
榊原。
『それでも』
『他者がエルフの身体を』
『当然のように利用してよい理由にはなりません』
森野。
強く。
頷く。
別のエルフ。
『研究は?』
森野。
「一時停止です」
『再開するの?』
森野。
答えられない。
高橋の娘。
結衣。
あの顔。
未来の患者。
研究の可能性。
一方。
月島に届いた。
百万円。
三百万円。
血を売ってほしいという。
メッセージ。
森野。
「……今は」
少し考える。
「決められません」
エリアス。
『それでいい』
森野。
「でも」
『何です?』
「怖いから全部やめる」
「それも」
「今すぐ決めたくありません」
エリアス。
少し笑う。
『あなたは』
『逃げなくなりましたね』
森野。
「最近よく言われます」
午後三時。
高橋。
会社へ。
会議室。
部長。
森野。
相沢。
高橋。
「現時点で」
資料。
「漏洩元は特定できていません」
森野。
「研究チーム?」
「可能性はあります」
「外部?」
「それもあります」
「修一さんの年齢まで出た理由は?」
「修一さんが百二十五歳であること自体は」
「すでに複数の人が知っています」
森野。
「そうですね」
「ただ」
高橋。
「問題があります」
「何ですか?」
「SNSに出た内容の一部」
資料。
指す。
『七十代後半から老化速度が変化』
森野。
「……」
高橋。
「これは」
「はい」
「研究チームと」
「……」
「ご家族」
「……」
「この検討委員会しか知りません」
森野。
「じゃあ」
「内部情報です」
部長。
腕組み。
「かなり絞れる?」
高橋。
「はい」
相沢。
「何人?」
「十四人」
森野。
「十四人」
高橋。
「研究者九人」
「事務担当二人」
「私」
「森野さん」
「そして」
「……」
「研究倫理担当者一人」
相沢。
「誰かが漏らした」
高橋。
「その可能性が高いです」
森野。
「目的は?」
「分かりません」
そのとき。
高橋のスマートフォン。
鳴る。
メール。
高橋。
読む。
表情。
変わる。
森野。
「先生?」
高橋。
「……」
「何ですか?」
高橋。
画面を。
森野へ。
見せる。
差出人。
匿名。
本文。
短い。
『エルフの血液サンプルを譲ってください』
その下。
金額。
五千万円。
森野。
「……」
相沢。
「五千万?」
高橋。
さらに。
下へ。
スクロール。
『特に森野リリカ氏の検体を希望します』
部屋。
静か。
森野。
自分の腕を見る。
高橋。
「もちろん」
「はい」
「渡しません」
「分かっています」
「保存されている検体も」
「……」
「今すぐ確認します」
大学病院。
保管庫。
一時間後。
高橋から。
電話。
森野。
出る。
「先生」
『森野さん』
声。
震えている。
「どうしました?」
沈黙。
『血液サンプルの本数が』
森野。
立ち上がる。
「はい」
『合いません』
「……」
『一本』
「先生」
『一本だけ』
森野。
耳。
完全に。
下がる。
高橋。
『あなたの血液が』
『なくなっています』
その夜。
森野。
家。
ソファ。
座る。
動かない。
相沢。
隣。
「森野さん」
「……」
「警察には?」
「病院が届けました」
「うん」
「研究は?」
「全面停止」
「うん」
森野。
自分の腕。
見る。
「私の血」
「……」
「今」
「誰かが持ってる」
相沢。
「そうだね」
「何に使うんでしょう」
「分からない」
「売る?」
「……」
「飲む?」
「分からない」
「調べる?」
「……」
森野。
声。
小さくなる。
「怖い」
相沢。
何も。
言わず。
手を握る。
森野。
「耳を隠してた頃」
「うん」
「面倒だったけど」
「うん」
「安全でした」
「……」
「誰も」
「私がエルフだって」
「知らなかったから」
相沢。
「隠したい?」
森野。
長く。
黙る。
「……少し」
「じゃあ隠していいよ」
森野。
相沢を見る。
「いいんですか?」
「俺に許可取ることじゃない」
「……」
「出したい日は出す」
「隠したい日は隠す」
「それでいいんじゃない?」
森野。
目。
少し。
潤む。
「明日」
「うん」
「久しぶりに」
「うん」
「髪」
「巻こうかな」
翌朝。
営業企画部。
午前九時。
森野。
出社。
田中。
見る。
一瞬。
驚く。
森野の髪。
巻かれている。
耳。
見えない。
以前と。
同じ。
田中。
何も言わない。
ただ。
「おはようございます」
森野。
「おはようございます」
月島。
耳。
出したまま。
森野を見る。
「今日は」
「はい」
「隠します」
月島。
「いいと思います」
「月島さんは?」
「私は今日は出します」
「そうですか」
「はい」
二人。
笑う。
同じエルフでも。
選択は。
違っていい。
午前十一時。
警察から。
高橋へ。
連絡。
そして。
高橋から。
森野へ。
電話。
『防犯カメラに』
「はい」
『映っていました』
森野。
「誰が?」
高橋。
少し。
間を置く。
『研究室の人間ではありません』
森野。
「では?」
『保管庫に入った人物は』
「……」
高橋。
『病院の清掃業者の制服を着ています』
森野。
「外部の人?」
『ただ』
「はい」
『顔を確認したところ』
高橋。
言う。
『その清掃会社には』
『在籍していません』
森野。
「変装?」
『可能性があります』
「顔は?」
『警察が照合しています』
その日の午後。
さらに。
連絡。
森野。
会議室。
高橋。
警察から伝えられた内容を。
説明する。
「人物の身元」
「分かりました?」
「まだです」
「ただ」
「はい」
「奇妙なことがあります」
「何です?」
高橋。
写真。
机。
置く。
防犯カメラ。
男。
帽子。
マスク。
その横顔。
森野。
見る。
そして。
固まる。
「……」
相沢。
「知ってる?」
森野。
写真を。
持つ。
手。
震える。
「この人」
「誰?」
森野。
「人間じゃない」
高橋。
「え?」
森野。
写真。
男の。
髪の隙間。
ほんの少し。
見える。
耳。
人間より。
長い。
森野。
「エルフです」
相沢。
「エルフが」
「……」
「森野さんの血を盗んだ?」
森野。
答えない。
写真を。
見つめる。
その顔に。
どこか。
見覚えがあった。
ずっと。
昔。
まだ。
森野が。
人間社会へ出る前。
エルフだけの集落で。
暮らしていた頃。
百年以上。
前。
森野。
小さく。
名前を呼ぶ。
「……アルト?」
相沢。
「誰?」
森野。
顔色が。
変わる。
「私の」
「……」
「兄です」
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美月ゆめかだよ🌸 第52話読了〜!! もうね、最初から最後まで息継ぎするの忘れてたレベル…!!「エルフの血液サンプルが一本消えた」で心臓止まるかと思ったんだけど😭💦 しかも犯人がまさかのエルフで、森野さんの兄・アルトって…え、え、え?!ってなったよ!? 相沢さんの「出したい日は出す、隠したい日は隠す」、めっちゃ沁みたなあ…隠すことを選んだ森野さんの気持ちも分かるし、月島さんが自分の意思で耳出してて、二人で笑い合うシーンに涙腺きた😢✨ 研究の行方も気になるし、アルト兄がなぜ…ってのもめっちゃ気になる!!続き待ってます!!🔥🔥