テラーノベル
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_桜滝。見てごらん、、。
これは、御先祖様から大切に保管してきた、
途切れさせてはいけないものなんだよ。」
とぎれさせない?
_いつもように、女性と子供が会話をしている
「ふふ、無くしてはいけない、ということよ。
いいこと?桜滝。これだけは、母様と約束してくださいね?何があっても、これを手放さないこと。それは自分が自分であるための、最後の手段なのですよ。
玉響家の継承者としての、あなたの__、、。」
ーー…ーあぁ、また夢を見てしまった。
春菜の夢はいつ見ても、どの夢でも、胸がズキズキと痛むから好きじゃない。
、、この夢を、見なくなる時は来るのだろうか。
その時は、命が尽きる刻だろうか__
静かな暗黒の中で、春菜は横たわっている。
それだけは感覚でわかる。
いや、目を閉じているから、暗いのか。
サァーーー、、、、柔らかい雨音がする。
ポチャン、ピチョン、、
なんとも涼しげな、気持ちの良くなる音。
ーん、、。
声を漏らすと、冷たいもので額を拭われる。
熱がこもったままの脳は、それだけで霞が晴れるように冴えてくる。すると、まるで木のなかにいるような感覚に出会った。どうやらここは、木に空洞を掘って作られたように見える。そんな薄暗い場所に、人影が浮かび上がった。
(あ、、。狐の、面。先程の、、。)
白い肌に瑠璃色の目をし、頬に赤色の模様。
微かに持ち上がった口角。
狐の顔を持つ、人があった。
「お目覚めか。」
咄嗟に体を持ち上げようとする。が、だるさが残る身体は言うことを聞いてくれない。
目に見えるのは、無地の紺色の着物に七宝模様の羽織を身につけた白髪の男だ。
うごめいていると、男は両の腕で制した。
「休んでいるといい。
先ほどのこともある。まだきつかろう。
おぬしからは己れにたんと話があるだろうが、
まずはもう一眠りしてからだ。」
そう言うや否や、トン、っと
男が人差し指を額に乗せる。途端、ふわっと
春菜の意識が浮いた_。
しばらく時が経ちー
(、、、、、、。
せっかく涼しい思いで目覚められたのに。)
春菜は少し苛立っていた。
雨音のするなか、気持ちよう目覚められたと思いきや、不思議なものですぐにまた意識を手放した。そして、横たわる春菜のそばに平然と座るのが、この男である。
狐面のおかげで面影はみえぬが、
物腰といい振る舞いといい、おそらく十の位の者だろう。
「二度目のお目覚めだな。気分はどうか?」
雨音にまぎれるように、静かに、さらりと男が問う。
「悪い気はしません。助けていただき、ありがとうございます。あのままでは私は、…本当に危ないところでした。」
思い出しただけでも、背中が冷たい。
息が震える。手が震える。
冷たい心をなぎはらうように、ふぅぅ、と息を吐く。
春菜はこんなにも、呼吸を深く繰り返したことはない。
「助けた、とは少し違うな。
偶然通り掛からなければ、あの場で術を使う事もなかった。」
_術?術とは、呪術のことだろうか?
興味深く思考を巡らせていると、男が
「おぬし、名は」
と、話を逸させるように短く問いてくる。
春菜は少しまごついて、それでも答えられることは答えようと努力する。
「春菜です。益山春菜。」
「それは、真の名か。」
「いえ、益山は私の保護者の名です。」
この男は、、、なぜわかったのだろう。
「左様か。己れは玉雨の者だ。先程口に出した通り、術を使う。」
___術。己や他人を敵衆から守り抜くため与えられた、ごく一部の力である。わずかな家紋でしか継承され続けていないため、それを使う者は年々減少してゆく。
「呪術のことは詳しく存じ上げませんが、
似たことならやってみたことはあります。」
は?
すっとんきょうな声を上げたのは他でもない
玉雨だ。とにかく話を変えたくて、この空気から逃げたくて、春菜は口を開いた。
「あ、いえ。というより、ここは一体何処なのですか?窓もありませんから、私は木の空洞の他見ることができないのです。」
「……。まぁ、よかろう。ここは現世とは全く逆の世界『隠り世』だ。」
「かくりよ、ですか」
「あぁ。己れが連れてきてしまったから、面倒は見るつもりだったが。それと、隠り世と現世では、名は使い分けたほうがよい。」
(と言われても、私にはあの名前しか、、)
益山春菜は、現世の呼び名。そして、
玉響桜滝は___
本来の名を明かすとなると、とても心苦しい。
春菜は、『春菜』とはまた違う、もう一方の名を持つ。それはいまは使えない。ここで名乗って仕舞えば、屋敷のような被害が広がる。
(そんなことは絶対にあってはならない。玉雨様を守るためにも。)
ほんの少しの時間がたったのち、
玉雨は告げる。春菜の3つ目の呼び名を。
「今宵からおぬしの名は__
ハルだ。」
コメント
3件
おぷち ゃ から 来ますた 🫡✨ のべる 書けるのすごいし うまいし すごい 😖😖 あと ち ゃ んと おもしろい 😭
え、好き。玉雨だって、…失礼かもしれんけど、ド性癖です。 神、尊い。あだ名つけるとかもう好きやん。尊い。 続き楽しみにしとるねっ! 頑張れっ!!