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現世の桜と隠り世の狐

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現世の桜と隠り世の狐

3 - 第2章 隠湯堂と甘夏

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2025年07月07日

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第2章 隠湯堂と甘夏

隠り世と現世との名は使い分けるべきだと、

玉雨に名付けられた「ハル」。

今は、2人で夜の橋を渡っている。

「あの…。これからどこに行くんでしょうか」

「ん?」

ズカズカと進んで行ってしまう玉雨に対し、

戸惑いつつもハルは問う。

「ずっとあの中にいても落ち着かんだろう。近くに湯屋がある。隠湯堂という。そこであれば金にもなるし、時間も埋まる。」

この男は私を儲けにしようとしているのか…

ただあの場所にいて欲しくないのか…

もしや、助けたが邪魔ということ…?

「己れは仕事もあり、いつもあそこに居れるわけではない。そんな時に出会したら、おぬしだっていやだろう?」


先ほど、玉雨の説明を受けた。

術は、人々と守るために使うもの。隠り世には現世からの慰霊がでる。それを祓うためのものなのだと。それは、術でしか祓うことも、それを傷つけることもできやしない。

(玉雨様は、そんなものと戦う時、怖くないのかな)ハルは話を聞いただけでも、恐ろしく思えて手が震えてしまった。

「嫌というより、なす術がありません。」

「ふ、だろうな。」

相変わらず面の中から発せられる声は、優しく芯があり、緊張の糸を解いてくれる。

「さあ、ついたぞ。」

目の前には、立派な大きな建物が、ずっしりと構えていた。壁のあちこちに提灯がずらり。小窓からは忙しそうに行き来する人々の姿。夜の暗闇に火が灯されたように、煌々としている。ハルが硬直していると、おーい女将はいるか?と凛とした響きのいい声で、そそくさと行ってしまう。「あっ…待って…」比べてハルの小さな声は、響くはずも、玉雨に届くはずもない。

「やぁ、玉雨さん。久しいねぇ、何年ぶりかい?元気にしとる?」

ひらりと着物を揺らせて出てきたのは、ふっくらとした血色のいい女性だった。

「あぁ、お陰様で。赤葉サン。お元気なのは、相変わらずですね。」

随分とにこやかに、青年らしい言葉を並べている玉雨だが、その瞳には、目の前の人は映っていない。何をみている?

「ッ、……。はっ、………」

手が震える。冷たい。背筋が冷たい。

息が荒い。苦しい。体が震える。(玉雨様…!)

助けを求めたいのに、名を呼びたいのに、震えて声が出せない。相変わらずなのは、声を出さない私もだ。益山夫婦と、何故か、玉雨には、こんなことにはならないのに。ふいに、その女性の視線がこちらに向いた。

「おや、噂になってた子かい?うちで働いてもらうには、少し細いようだが…大丈夫かい?そこの子さん。」

「ひっ……ぁ………」

自分はなんて弱いんだろう。これからお世話になろう人とも、こんなに話せないなんて。

「すみませんね、赤葉サン。ハルと云います。ちっと事情がありまして、人と、うまく話せないようで。………ハル。」

そっと、震えている肩に手を添える。

「大丈夫。何かあったら、己れの部屋に飛び込め。守ってやれる。」

耳元で、そう囁かれた。免疫がないハルにとっては、ドギマギするだけだった。今度は、違う意味で震えていた。

(__//無理だよ。これは)

カァっと顔を赤くしたハルを、玉雨と赤葉という人は、可笑しそうに笑った。


「あたいはこの宿の女将、赤葉だよ。わからないことだらけだろうから、なんでも聞きな。」

「はい…。」

なんでもと言われても…。

ああああぁぁ〜‼︎ハルちゃんだ!」「え⁉︎⁈」

大きな三つ編みを揺らしながら、大きな声で叫んで走ってくる女の子に、ハルはただただ驚いた。その顔には、向日葵のような笑み。

「ちょいとアマネ!ハルを驚かすんじゃないよ!ただでさえ声が響くんだから!」

「アマネ?」ハルがその名を呼ぶと、うんっ!と可愛らしい声で頷く。

「甘い夏って書いて、甘夏!ハルちゃんのことは、私の部屋の、襖から聞いてたんだ。同い年だと思うから、よろしくね⭐︎」

(なんだか、私が知っている世界にいそうな、キラキラ女子……。) 「アハハ…」

と、ハルは強張った笑顔しかできなかった。

「そうだ!この宿の案内は、甘夏にお願いしようかね!あたいはそろそろ戻らないといけん。甘夏、頼んだよ⁈」

「うぇ⁉︎ちょ、女将さん⁉︎」

ピューッと、赤葉さんは廊下を駆けていってしまった。ホントは新人なんて来て欲しくなかったのだろうか。案内なんて、面倒だと思われたのだろうか。 (……………)ネガティブな思考ばかり思いつく。失礼だと思うのに。

「ふう……そうだな、えっと、女将さんも行っちゃったし…。ここからは、私が案内してあげるね!えと、ハ、ル……は、はっちゃん!」

「は、はっちゃん⁇」

切り替えがはやい。

うん!と、お星様でも降りそうな勢いで、嬉しそうに頷いた。

「ハルちゃん、って、私、舌回らないから、噛んじゃいそうで…。だから、はっちゃん。ダメだったかな?」「は、はあ」

なんて、きらきらうるうるの目で下から目線で頼まれると、断れる人なんて、きっといない…。

うん分かったと言うと、ホントに⁉︎ありがとう!とさらにキラキラな目に見つめられてしまった。おかげで、いつの間には震えは治っていき、彼女の社交的な性格のおかげもあって、無理なく宿案内を楽しんだ。


「ねえはっちゃん!こっち来てきてきて〜!」

「どうしたの甘夏?今のところ、もうこの宿の部屋は全部まわっちゃったと思うんだけど…」

ハルと甘夏は、相当仲良くなっていた。下の名で、ハルも呼び合えるくらいに。

スパンッと、甘夏が奥の襖を開けると……

「じっじゃじゃ〜ん‼︎はっちゃんが宿で着る、浴衣&着物で〜す!」

「わぁああ……。綺麗……。」

思わず感嘆の声が出る。

「ふふ、でしょでしょ?はっちゃんがまだ寝てる間に、玉雨様が選んだんだよ?」

「えっ、玉雨様が?」

「うん、玉雨様が!」

目の前の着物には、紺の中に、小さな花の紫陽花が、赤、黄色、緑、瑠璃色、桃花色と、様々に散りばめられていた。

「これを、あの人が……」

しばらくハルは、甘夏と共に見入り、立ち尽くしてしまっていた。

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