ジリ…っと近づいてくる響。
「そ、それは…眠れないから」
「…は?」
「響と会えなくて、眠れないから」
「…俺は昨日、何度も連絡したぞ?無視したのは琴音だろ?」
…ハッとした…!
実は昨日、事務所に携帯を忘れて…今朝取り戻したところ。
一晩ほっといたので充電がなくて、昨日の着信を確かめてない。
そんな事情を、私はたったひとことで表現した。
「知らなかった…」
「…無視したってことだな?」
「ちがっ…!」
しどろもどろで携帯を忘れた件を説明しながら…目の前にいる響に、本音が溢れた。
「…お見合い相手の女の人に、乗り換えちゃったと思って、不安だった」
自分でも焦るほど、速攻で泣きそうになった。
涙が浮かぶ目で、響を見上げた途端、ポロリと頬を伝う。
「は?…んなわけないだろ?」
心底呆れたように言う響に、確かに妄想全開になっていたと、心のどこかで思う。
それでも勝手に出てくる言葉を止められない。
「わかんないじゃん。響は何でも持ってるし、その気になれば世界イチの美女とも付き合えるもん」
「…あのな…」
「バーで、お見合い相手の女の人とお酒飲んでたじゃん。私を置いて帰ったし…それに、真莉ちゃんが見たって言ってたもん」
「琴音を置いて帰ったのは…」
「うるさい…私の話を聞けぇ…」
しゃくりあげながら、涙がいっぱいたまった目で睨むと…響、ちゃんと黙った。
「お見合いの女の人とタクシーに乗ったとこ、真莉ちゃんが見たって…プチ同窓会に行くってメッセージしたのに返事ないし…それに、それに外泊したっておじさんから聞いて…」
溢れる涙が止まらなくて、一生懸命手の甲で拭う。
「響はやっぱり、私みたいなガキじゃ、つまらなくなったのかもしれないって…お、大人の女の人の方が…」
不安だった…
あまりにも私たちが、釣り合わないから…
本当に私でいいの?
こんなカッコいい人の隣にいるのは、本当に私でいいの…
「それに、外で…お見合いの人に会うなんて…デートじゃん。しばらく会えないって言われて…不安で…」
「それと引っ越し屋のバイトがどう繋がるのか謎だけどな…?」
瞬間…ふんわりと、抱きしめられた。
「帰ろっか…」
涙の止まらない私を抱きしめながら、聞いたことないほど優しい声で…当たり前みたいに言う響。
「一緒に、帰ろう。俺のマンションに」
今言った私の疑いに、ひとことも弁解しない響。
それどころか余裕の表情で、それこそが響の答えだとわかる。
「…お見合いの人がもう一緒に住んでるとか、怖いドッキリしない?」
「…しないだろ」
「引っ越し屋のバイトしてたお仕置きは…?大人しく大学とマンションの往復してなかったから…」
「…それは、あるかもな」
「…え」
なんだか楽しそうに言う響。
お仕置き楽しみみたい…ドSだしな…。
「…俺も眠れなかった。琴音に会えなくて寂しくて」
涙でグシャグシャの顔で見上げてみれば、キリリとした二重の瞳は優しく蕩けて、唇は弧を描いてる。
気づいてしまった…
響は、私と顔を合わせる時は、だいたいこんな表情をしているなぁって。
私を抱き上げるように強く抱きしめた響が、意外な事を言い始めた。
「…今度新しい事業を展開する。その準備で忙しくて会えなかった」
「…新しい…事業?」
「そう。やっと、その事業を開始する目処がたった。だから昨日、お前に連絡したんだよ、何回も」
「そう…だったんだ。ごめん」
うつむく私をもう一度抱きしめて、響が見たことない優しい笑顔で言った。
「今度始める事業って、カフェの運営なんだけどさ…」
「…カフェって…」
思い浮かぶのは、FUWARI のカフェ。
響の会社でそんな運営を始めるなんて…意外。
でも響なら、どんな事業も成功させちゃいそう…
なんて思っていたら、もっと信じられないことを言い出した。
「カフェの名前、もう決めたんだけど」
「名前…?」
「koto.cafe。kotoは、琴音の琴って意味」
「えっ…私の名前…?」
「FUWARIの内定を取り消した時、あのカフェでの思い出がたくさんあるって言ってただろ?だから…FUWARIでやりたかったことを、koto.cafeで…」
「ちょっと待って…もしかして、私のために…?」
「まぁ…FUWARIも経営危ないし、実際…カフェ事業に参入したら、勝算があるって判断したからだけど…な」
ガラにもなく、響の顔が赤い気がする。
それにしても…私の名前が入ったカフェなんて…そんなのまさかだ…!
何より、響が内定取り消しをした時に話したことを忘れないでいてくれたなんて…
嬉しい!
「私の名前を取って、koto.cafeって…嬉しい…!嬉しいよぅ…っ!」
ぴょんっと飛び上がって、首元に腕を絡ませて抱きついた。
響はそんな私をぎゅっと抱きしめて、クルッと一回転してくれた。
「…好き!響…大好きっ!」
首元にグリグリ頭を寄せて、ぴょんぴょんはねながら抱きつく。
「…なんか、子犬にジャレつかれてる気分…!」
「ちょっと!犬と一緒にするってどういうこと?!」
「うそうそ…!犬は犬でもめちゃくちゃ可愛い雌犬だから…大歓迎!」
まさか…こんな幸せが待っているなんて。
今朝は重だるい体を引きずってバイトに来たのに…人生本当に、何が起きるかわからない…!
コメント
7件
もうほんとにもう!もう!もう!もうよ〜😭😭😭 『一緒に、帰ろう。俺のマンションに』『…俺も眠れなかった。琴音に会えなくて寂しくて』言えるじゃん!!! 琴音ちゃんも言えたね〜🥹 ラブラブしてください🌈♥️✨
あー良かった😮💨言葉足らずの行動が誤解招くんだよ‼️お2人さん仲直り出来て良かったね。
琴音ちゃんの「私の話聞けぇ」は良く言ったと琴音ちゃんに👏👏👏響くんも琴音ちゃんにサプライズのプレゼントしたかった気持ち解るけどやはり黙ってたら誤解を招くから秘密もほどほどにね。