テラーノベル
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一緒に暮らし始めて、数週間が経った。
少しずつ。
本当に少しずつだけど。
二人の生活は形になってきていた。
朝起きれば、
『おはよう。』
「おはよう。」
そんな当たり前の会話。
それだけで、愁斗には不思議だった。
誰かと同じ家で朝を迎える。
誰かが帰ってくる場所になる。
そんな日が来るなんて思っていなかった。
⸻
でも。
季節の変わり目。
体は正直だった。
その日は朝から雨だった。
ひで が目を覚ました時。
いつもなら聞こえるはずの音がなかった。
キッチンの音。
愁斗が起きる気配。
静かすぎた。
『……愁斗?』
返事がない。
嫌な予感がした。
急いで部屋の前へ行く。
ノックする。
『入るぞ。』
扉を開ける。
部屋の奥。
ベッドに横になっている愁斗。
でも。
いつもの寝方じゃなかった。
壁の方を向いていた。
入ってきたひでから顔が見えないように。
布団をかぶったまま。
小さく体を丸めていた。
『……愁斗。』
近づく。
返事はない。
肩が少し震えている。
そして。
「……っ。」
苦しそうに咳き込む声。
『愁斗。』
名前を呼ぶと。
ゆっくり振り返った。
顔色が悪い。
目も少し潤んでいる。
「……にぃに。」
声が弱い。
『いつから?』
「……さっき。」
嘘だ。
ひでには分かった。
『本当は?』
愁斗は黙る。
「……夜中。」
『夜中から?』
小さく頷く。
胸が痛んだ。
『なんで言わなかった。』
責める声にはならなかった。
ただ。
悲しかった。
「……起こしたくなかった。」
その言葉。
ひでは一番聞きたくなかった。
『愁斗。』
「……。」
『俺は起こされて嫌だと思う?』
返事がない。
『辛い時に頼られるのが迷惑だと思う?』
愁斗の目が揺れる。
「……。」
『思わない。』
『一回も思ったことない。』
静かな声。
『むしろ。』
『一人で我慢してる方が辛い。』
「……ごめんなさい。」
部屋は
静かだった。
⸻
先生へ連絡を取り、今日は休むことになった。
熱。
咳。
疲労。
まだ体が完全に戻りきっていない中で、無理が重なったのだろう。
薬を飲み、 布団に横になる。
ひでは椅子を持ってきた。
「兄ちゃん。」
『ん?』
「仕事……。」
『休んだ。』
「え?」
『今日は愁斗の日。』
その言葉に 愁斗は少し目を見開く。
「俺のために?」
『当たり前。』
当たり前。
その言葉が 愁斗にはまだ慣れなかった。
⸻
夜。
熱は少し下がった。
でも咳 はまだ残っていた。
眠れずに目を開ける。
暗い部屋。
昔なら。
この時間は一人だった。
苦しくても。
寂しくても。
朝まで我慢した。
でも。
「……。」
隣を見る。
椅子に座ったひでがいた。
眠そうにしながらも。
ちゃんとそこにいる。
「兄ちゃん。」
『起きた?』
「……なんで。」
『ん?』
「ずっといるの。」
ひでは少し笑った。
『心配だから。』
「眠いでしょ。」
『眠い。』
「なら寝て。」
『でもいる。』
愁斗は黙った。
胸の奥が熱くなる。
「……変なの。」
『何が?』
「夜中に。」
「誰かがいる。」
ひでは少し目を細める。
「……幸せ。」
小さな声。
聞き逃しそうなほど。
ひでは何も言わなかった。
ただ 優しく笑った。
『そっか。』
『じゃあ、もっと慣れろ。』
「……。」
『一人で耐えるのは禁止。』
愁斗は少し笑った。
「にぃに。」
『ん?』
「ありがとう。」
今度のありがとうは。
謝罪じゃない。
我慢の言葉でもない。
ただ。
安心した人の言葉だった。
⸻
夜が明ける頃。
愁斗は久しぶりに安心して眠っていた。
ひではその寝顔を見る。
まだ少し弱々しい。
でも。
昔とは違う。
この子はもう 一人で苦しむ必要はない。
そう思った。
コメント
2件
にこにこさん天才すぎませんか😭 流石に泣きましたよぉ😭😭 伏線回収とか色々エグくて一気読みしちゃいました😊
愁斗くんが「起こしたくなかった」って言った時の、ひでさんの「悲しかった」って気持ち、すごく伝わってきました。一人で抱え込むのが当たり前だった子が「誰かがいる」って気づいて「幸せ」って言えるようになるまで、すごく丁寧に描かれていて、胸がじんわり温かくなりました。「今日は愁斗の日」って仕事休むひでさん、かっこよすぎます…。
𝓞𝓵𝓵𝓲𝓮💛🍅
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