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ラズールが僕の耳元で、僕にだけ聞こえる声でささやく。

「何もしてはなりません。あなたは俺の腕の中で、大人しくしていてください」

「わかっ…たから、下ろして」

「ダメです」

こそこそとしたやり取りに、リアムが苛立ちをあらわにする。

「ラズール、いつまでそうやってフィーを抱いてるんだ。早く離せ」

「ですから、この方はフェリ様だと何度言えばわかるのですか」

ラズールが、いい加減あきれたと言わんばかりに息を吐く。

リアムは更にこちらへと近寄り膝を折ると、僕のドレスの裾を手に取って唇をつけた。

「隣国の王子、失礼です」

「フィーは嫌がってないようだが?」

「この方はフェリ様です」

「なあ、この人がフィーだと確かめる方法があるんだが。フィーの身体には蔦のような痣がある。知ってるか?」

「…当然です。俺があの方のことで知らないことなどありません。しかしどうやって確認するのですか?侮辱するような行為は許しません」

「侮辱などするものか。おいで、フィー」

リアムが僕に向かって両手を広げる。

ラズールから下りようと僕の身体が無意識に動いた。しかしラズールが僕を離すわけがなく、僕は困ってラズールの肩に顔を伏せる。

「…私はフィルではありません」

「わかった。おまえがそう言うならフィーじゃなくていい。だが少しだけ、俺の言うことを聞いて欲しい。一旦、その男から離れてくれないか」

僕はラズールを見上げた。

ラズールは、リアムを睨んで僕を抱く腕に力を込める。

右腕の痛めた箇所を押された僕は、思わず声を上げた。

「痛いっ、ラズール離して」

「あ、申し訳ございませんっ」

ラズールが慌てて腕の力を緩める。

僕はラズールの胸を押しながら床に足を下ろした。だけど足首にも痛みが走りその場に座り込んでしまった。

すぐさまリアムが傍に来て、僕の肩を抱く。

遅れてラズールが伸ばした手を跳ね除けて「れるなっ」とリアムが怒鳴った。

「あなたこそ女王に触れないでいただきたい。断りなく女王の身体に触れるなど失礼ではありませんか!」

「黙れ!フェリ様だ女王だとうるさい!おまえ達はフィーが幼い頃からそうやって無理やり王女の役目を押しつけてきたんだろう!この国にいてもフィーは辛いだけだ!俺の国に連れて帰り、俺が幸せにするっ」

「勝手なことをされては困ります!我が国は女王がいなければ滅んでしまう!」

「ならば本物のフェリ様とやらを女王にすればいいだろうが。なぜフィーに再びその役目をやらせようとする?…もしや、王女も亡くなられたのか?」

言い返していたラズールの言葉が詰まる。

ダメだよ。正直に話せばリアムは僕をバイロン国に連れ帰るだろう。僕はリアムの妻となって、幸せに…なれるの?いや、夢にまで見たリアムとの幸せな生活だけど、国と民を捨てて幸せになんかなれない。

だから僕は、嘘をつく。胸が押しつぶされそうに苦しいけど、嘘を吐く。

「リアム王子…あなたは弟のフィルのことを、とても大切に思ってくれているのですね…ありがとうございます」

「フィー?」

「そのように愛しそうに呼んでくれて…あの子は不幸だけではなかったのですね」

「なにを言ってる…」

リアムに抱かれた肩が痛い。リアムの手に力が入り、肩に指がくい込んで痛い。

僕はリアムの胸に手を触れて、紫の瞳を見上げて話し続ける。

「私は病弱で伏せってばかりでしたので、フィルと遊んだ記憶がありません。私の身代わりをしているせいで、危険な目や寂しい思いをしていたフィルに、ずっと申し訳なく思っていました。母上はフィルに冷たかったけど、私はフィルに幸せになって欲しかった…」

「フィー…なぜそのような言い方をする」

リアムが悲しそうな顔で僕を見る。

リアムの紫の瞳に映る僕は、どんな顔をしているだろうか。愛しい目で見つめてはいないだろうか。リアムに触れていると、そこから熱が拡がって身体が熱くなって困る。

だから僕は、リアムに触れていた左手を離そうとした。

しかしその手をリアムに握られてしまう。

「はなして…ください」

「嫌だ」

「私は、フィルではありません」

「ではフィーはどこにいる」

「…死んだのは、私ではなくフィーです。あの子は…死にました」

「はっ!」

リアムが僕の腕を強く引いたために、僕はリアムの胸へと倒れた。

「隣国の王子っ、すぐに女王から離れてくっ…」

「ラズールいいから。静かにしてて」

「…かしこまりました」

ラズールがリアムの肩を掴もうと伸ばした手を止めた。

臣下が王族に失礼なことをしては罰せられてしまう。特に他国の王族にそんなことをしては、争いの元になってしまう。

それに僕は今、フェリのフリをしてるのに、こうやって触れられていることが嬉しいんだ。ダメだけどすごく嬉しいんだ。

リアムが僕の髪に触れながら聞く。

「わかった。そこまで言うならこの茶番につき合ってやる。では女王様、フィーが死んだと言うなら、なぜ死んだのだ?理由を教えてくれないか」

「フィルは…病で死にかけていた私のために、自らの命を私にくれたのです」

「どうやって?」

「自分の心臓を剣で貫いて…血を私に飲ませたのです…」

僕はリアムの反応を見るのが怖くて、顔を伏せたまま嘘をついた。

頭の上で、リアムが大きな溜息をつく。

ああ、とうとう愛想をつかしたのかな。僕を捜しに来てくれたのに、リアムを騙そうとしている僕のこと、もう面倒臭くなったのかな。悲しいけど、それでいい。リアムは僕のことは忘れて、国に戻って優しい人を選んで欲しい。周りから愛されて育った優しい人を。

自分で考えたことに悲しくなって、泣きそうになる。

その時、いきなりリアムが僕の左腕を持ち上げて袖をめくった。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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