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目が覚めれば鎖で手と足が繋がれて、服を着ていない状態だった。


首だけを使ってあたりを見回してみると、手前の窓からは月明かりが見えた。月の高さからおそらく深夜より少し前、とかだろか。

横を見ればヒモがある。先にはベルがあって、少し肘を使えばならせそうだ。

とりあえず鎖を引きちぎろう、と思って身体強化を使うけれど、鎖は全く千切れることはなかった。


これからされることは想像がつく。

それはもう、ひどいことをされるのだろう。

処女喪失とか、とてつもなく嫌だ。今まで考えたこともなかったが、純潔はあんな豚よりももっと知的で理性のある男性に捧げたい。

しかし、何もしない、という選択をしてあの豚の顰蹙を買ってさらに酷い事をされるのも嫌だ。

私はとりあえず体をよじり、ベルをちりん、と鳴らした。その瞬間、部屋の前方からがた、音がした。

首を上げてみてみると、ドアがあったので、多分メイドが豚を呼びに行ったとかなんだろう。


その数分後、実際に豚は来た。鼻息が荒く、私は発情期の豚です、と自己紹介しているかのように目を私の胸元へ向ける。

月明りではよく見えない、とメイドに蝋燭を持ってこさせ、私の体を美術品でも見るかのようにじろじろと眺める。


そういえば私は美少女のくくりなんだ、と思い出すと、豚はろうそくをベッド横の台に置いて、

辛抱たまらない、といった様子で服を脱ぎ、ベッドの上に乗ってくる。


「スキルを使っても、満足に動けんだろう」と下卑た笑みを浮かべながら、こちらの腋を舐めだした。

ゾク、という快感ではない不快感を体が駆け巡る。

キスをした時と同じで、まったくもって気持ちいいとかではない。けれど嫌な顔をすると厭うだろうから、一応は笑みを張り付けたまま。

べど、ぺど、と汚い唾液の音が鳴る。蠟燭の熱で汗が出てきたのに興がわいてきたのか、ちらっと見えた陰茎はそそり立たっていた。

汚物としか思えなかった。まったく見たくなかったので、顔を逸らしつつ、もう眠ってしまえたらいいのに、と目を閉じる。

突然脇をなめるのが止んだか、と思うと激しい異物感と下腹部の痛みで嗚咽を吐きながら目を開けた。挿入されていた。

あが、と声を出すことしかできない。無理やりされて気持ちいいとは全く思えない。

気の狂うような痛みと、処女喪失の悲しみと、「こんな奴に」という不快感だけが体を支配していた。そんな反応も楽しむエッセンスのようで、体を動かす速度を速める。

涙が目からとめどなくあふれ出る。もしこいつを殺してもいいなら、絶対に殺している。

突如思い付きのように膨らみ切っていない胸を強引に掴まれ、バシ、バシと叩かれるように触られる。

どんなに体を強化しても鎖で縛られた体では何もできない。体内に体の一部が入っているのでこいつの心臓を破裂させることもできるかもしれないが、そんなことして自分の立場がどう変わるかもわからない。

頭を使うのが苦手なことをこんなにも後悔したことは今までになかった。

体をよじらせせめて少しでも逃げようとしても、もう捩らせ切っている。

そしていつしか腹に針を打ち付けられる感触がして、行為は終わった。


――


その後は、豚は私に興味をなくしたのか、そのままドアから出て行った。

涙は止まらず、これからへの絶望、豚への怒りとか、そういうので心が埋め尽くされている。白濁した汚物が流れ出したままで泣き続けている。


「……その、なんというか…… お疲れ様です」


よく見えない、とかそんな感じの理由で蠟燭を持ってこさせられたメイドが憐憫の情で背中を撫でながらこちらに話しかけてきた。見たところは私と同程度の年齢の小柄な少女だ。髪色は茶色。

「早く服を着たほうがいいですよ」、とタオルと服を渡してくれる。


「…………………………ありがとう」


優しく感謝を彼女に返すが、このままでいるのは生まれてきてからこれまで積み重ね挙げられてきた貴族としてのプライドが許さなかった。鼻を啜り、体を拭いて着替えた後にできるだけ平静を装って聞く。


「……ところで、誰よ、あなたは。ついていかなくていいの?」


「はい。私はこの屋敷についての説明、その後はお世話係などをさせていただくあなた様専属のメイドです。

この部屋は旦那様の先ほどのような事のための寝室でして、掃除をした後に早急に出るようにと言われています」


「そんなこと言われてもね。こういうのの後始末なんて知らないわよ」


一人で床掃除すらできるか怪しい。実家ではメイドの仕事だったから、機会がなかった。しょうがないと言い訳はできるけれど、できないのは事実。もし雑巾を絞れと言われても勝手がわからない、と伝えると、

「大丈夫です。あ、でもちょっとだけ手伝ってくださらないでしょうか」と返してきたので、指示に従ってシーツを剝がしたり、きれいな物に付け替えたり、とある程度後始末を終わらせた。最終工程の洗濯は後で彼女がやってくれるらしい。


「手慣れてるわね」


「この屋敷で働いていると、嫌でもやることになるんです。旦那様は数えきれないほど妻や妾がいらっしゃいますので。

あなた様もそのうちの一人ですね」


なるほど。どうやら私の旦那は相当の女好きらしい。なんというか、顔の通りというか、本当に発情期の豚なんじゃないだろうか。

とりあえず二重の意味でやる事は終わったので部屋を出て、自室に案内してもらう。

まず部屋を出て、階段を下り、屋敷の外に出る。この時点でおかしいのだが、

さらに恐れるべきことはここです、と案内された場所が素人でも一週間かければ完成しそうな、簡素で小さな木造りの小屋だったのだ。人用の犬小屋と言えば分かりやすいような気がする。

しばらく自室に唖然としていると、メイドの方も「…お気持ちはお察します」とは言ってくれた。


「こちらが、これからあなたが暮らすことになる小屋となっております。

家具などは旦那様が用意してくださったそうなので、できるだけゆっくりしてください」


「あー……、うん。ありがとう」


もうなんか嫌だった。何が嫌かって、もう全部嫌だ。

ドアを開けて小屋の中を見て、用意された家具を見てみると、木箱に薄い布が乗っているベッドらしきものだけであった。

メイドも部屋を覗き込み、「これは、使用人室のほうが良いまで……」と絶句している。

使用人室の環境を聞いてみると、一般的庶民レベルのベッドはあるらしい。少なくとも、薄い布一枚で寝るなんてことはないそうだ。

しかし贅沢は言えない。贅沢言ったらどうなるかわかったもんじゃない。あんなに私の体を乱暴に使う豚に、ベッドをいいものにしてくれるような思いやりがあるとは到底思えない。

深夜の上、行為後なので眠気も限界を迎えていた。寝巻きもないのでそのまましょうがないのでそのままベッドもどきに寝転がり、メイドに聞こえるか聞こえないか程度の声で「おやすみ」とだけ伝えて眠ることにした。

昨日とは違って、すごく寒くて辛かった。

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