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「痛みはもうないけど、あの痛みを思い出すときはあるんだ」
肌に無数のおうとつがある。細く長い傷が残っている。
私はきゅっと唇を結んだ。
きっと彼のずっと抱えていたものは、すぐに受け入れられるほど優しいものではない。ずっと彼自身に刻まれている過去という痛み。
「多分すぐには無理だけど……でも、今のせんぱいの話を聞いて痛みを受け入れるってことをちょっと考えてみる」
実里くんの真剣な瞳と視線が交わる。
「初めてだよ。触らせたの。今まで触れられないようにしてきたから。 きっとこれからも、せんぱいだけ」
「なに言って……」
「俺の全てを曝け出せる女の子は、この世に一人しかいなくていいの」
こんなに熱烈な言葉を受けたのは初めてだ。栗色の緩やかなパーマのかかった髪が私のおでこにくっつけられる。
「誰のものになっても、せんぱいだけは俺の特別」
僅か数センチの距離で見つめられて、戸惑いながらも体が動かない。切なげな綺麗な瞳に私が映っているのが見える。
「それくらい許してよ」
背中に抱えた痛みは彼にしかわからない。
それを癒すことができるのが潤なのか、他の誰かなのかは誰にもわからない。
ただ言えるのは、今の私は彼の想いに答えられない。それを実里くんも気づいている。
「実里くん、私」
「まだ答えはだしちゃダメ」
開いた唇を実里くんの手に塞がれる。
「焦って決めさせたくない。…………本当は無理矢理にでも奪っちゃいたいけど」
その言葉に身の危険を感じ、一歩後ろに下がる。すると、実里くんは大げさにため息を吐いた。
「今更警戒されたってねぇ。遅すぎ。馬鹿じゃないの、せんぱい」
実里くんは意地悪く微笑むと、私の頭を優しく撫でた。
今の仕草……潤みたい。
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