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「神崎……お前…もしかしてアホなの……?」
軽蔑の目でこっちを見てくるこいつは、俺の同僚の三枝陽太。
「何が?」
「何がじゃねぇよ…お前、死刑宣告受けただろ…。」
「あぁそれか。」
ここ最近、「未解決事件を解決しろ」と上から指示が来た。
俺は、その中からひとつの殺人事件に目を向けた。
過去に証拠が集まらなかった事件は、ほぼ解決できない。
そのうえ、殺人事件は、人を殺したやつと対峙する可能性──即ち、自らが殺される可能性──があるので、未解決の殺人事件は、「死刑宣告」と呼ばれている。
「いや…なに、ちょっと気になることがあってな。」
「ふーん……何?」
「多分お前はあんまり知らないと思うが…5年前の連続殺人事件と似てると思って。」
「あ〜……もしかして、動機がよくわかんなかったやつ?」
「……多分、それ?」
「へー。」
こいつは自分で聞いといて興味ないのかよ。
ふと、時計に目を向けると、いつの間にか定時。
「じゃ、俺定時なんで。」
ヒラヒラと手を振りながら、三枝は……多分、仕事に取り掛かった。
今この瞬間にも、例の殺人犯は、誰かを殺しているかもしれない。
そんな空想をしながら家路をたどっていると、一人の声があたりの人をざわつかせた。
──ひったくり。
人々の隙間を上手く抜けて、声がする方へ全速力で駆けていく。
目には止まったものの、足が速くて追いつけない。
息を切らして来た頃、フッと裏路地に入られた。
このままでは見逃す……!
倒れ込みそうな体を無理矢理走らせて、自身もすぐに曲がった。
「え」
と、目の前にはさっき逃げていたはずの男。
いきなり体を抑えられ、口に布を当てらた。
空気を求めていた体は、急に止まったことで思いっきり息を吸った。
しまった、と思ったがもう遅い。
周りに助けてくれそうな人はおらず、声も上げられぬまま意識を手放した。
最後に見た男の手には…何も持たれていなかった。
意識を取り戻すと、目の前には灰色の天井。
起き上がって周囲を確認しよう……としたところで、自身の左右でジャラ、と金属の音がした。
反射的に音源を探ると、手首に嵌められた枷が目に入る。
ゾッとして脳裏に浮かんだのは、「監禁」の2文字。
死刑宣告なんて受けるんじゃなかった─。
今になって後悔し、それと同時に恐怖がどっと押し寄せる。
──こういう時こそ、落ち着いていなければ…!
荒くなった息を整え、頭を冷やす。
冷静になった頭で、改めて周囲を確認する。
周りには小さなソファ、ベッドなど…生活に最低限必要なものが揃っている。
逆に言えば、それだけだ。
あとは、なんの面白みもない殺風景な部屋。
唯一の出口である扉から、少しの光が漏れ出ている。
出られるかも、と思ったところで、ガチャとドアが開いた。
「あぁ、刑事さん。おはよう。」
さっきの…!
男は薄気味悪くニコニコと笑って、こちらをじっと見つめている。
隅から隅まで視線が移動して、気持ち悪さを覚えた。
「良くまとまってる、これ。」
ハッと顔を上げて男の手元を見ると、小さなノートが持たれていた。
あれは、俺が今調査している殺人事件についてまとめたものだ。
……目的が読めない。
何のために俺を監禁したんだろうか。
そもそも、誰なんだ。
多分、俺のそんな疑いの目が伝わってしまったのだと思う。
「…そういえば、自己紹介してないね?」
「俺は……うーん、そうだな……」
「殺人鬼…でいいかな?」
「刑事さん、俺の事探してたんでしょ?」
……殺人…え…?
いきなり言われたことに頭が追いつかない。
とてつもなく長い時間が空いた──俺の体感ではあるが──後に、ようやく理解し、直後に嫌な予感が頭をよぎった。
もし、目の前にいるのが本当に殺人鬼であるならば…
もしかして俺、殺される……?