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自由のきかない体で何とか逃げ出そうと身をよじったが、ジャラジャラと枷が音を立てるだけだった。
絶えずニコニコと薄気味悪い笑みを浮かべている男は、自身のことを、殺人鬼だ、と、確かにそう言った。
それならば、こんな監禁じみたことをする必要はないはずだった。
「そんなに睨まないでよ。」
「別に殺そうだとか、拷問しようだとか…そんな物騒なことは考えてないからさ。」
ならなんで俺をここに連れてきたんだ、とは言わないことにした。
目の前の殺人鬼は、ぐるりと部屋全体を見渡して、こちらに向き直り、無垢な笑顔を見せた。
「とりあえず必要最低限の生活はできるしご飯は用意してあげるから!」
「それで本題なんだけど───」
トントン。
殺人鬼が何かを言いかけたところで、弱々しいノックの音がした。
…多分、玄関から。
「刑事さん、ちょっと待っててね。すぐ行ってくるから。」
一瞬だけ見えた横顔は、殺人鬼だと思えないほど真剣に見えた。
しばらくして、話しているような声が聞こえてきた。
会話なら、集中すれば聞こえるかもしれないと思い、自分の呼吸も最低限に抑え、感覚を研ぎ澄ませた。
「じゃ……………みこ…で…」
「あ……とう…ざ………やっと…ね……」
やはり壁越しだからか、途切れ途切れにしか聞こえなかった。
内容もよく分からない…が、誰か女性と話している事はわかった。
「おやすみ」
──────。
───ゾッとした。
今のは本当に、「殺人鬼」の声か?
気持ち悪いほど慈悲を含んだ声だった。
それでいて、どこか自信のある…そんな声。
なんだ、なんだ、なんだ。
いつか聞いたことがある。
この声を。
分からない、この声を聞いたのは、いつだ。
どこで聞いたんだ。
思い出せ、思い出せ…!!
ガチャ。
殺人鬼が扉を開けた音にハッとなった。
反射的に顔を上げると、閉じられそうなドアの向こうに、赤色が見えた。
空気が張り詰めたような気がした。
「…あんた、まさか人を………」
仕事柄、こういう事はよくある。
だがしかし、言葉が出てこなかった。
……本当は、期待していた。
殺人鬼などではなくて、人も殺せないやつだと言うことを。
それも虚しい願いだった。
こいつは本当に人殺しで、そしてそれを今やってのけた。
苛立ちと恐怖が身体中を駆け巡る。
「あぁ、もしかして見えちゃった?」
こちらの重苦しい雰囲気と裏腹、へらっと笑い、悪びれもなく言った。
脳内で何かがバチッと弾けた。
「ふざけるな!」
「人を殺しておいて反省もしないなど!あんたは最低なクソ野郎だ!!」
自分で思っているより大きな声が出て驚いた。
殺人鬼も目を丸くし固まって、驚いているようだった。
「あんたのせいで悲しむ人が、苦しむ人が、どれだけいると────!」
そこまで言ったところで、ぐらっとした。
これは、連れてこられた時と同じ……。
「落ち着いてよ、刑事さん。」
「いいよ、ゆくゆく話すつもりだったし、全部教えてあげる。」
だんだん視界がぼやけてきて、意識が遠のいた。