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「え、ないない……ない事もない事もないけど。えっと、一緒にまわる候補に入れているとか何とかは話したし、まだ確定じゃないし、まわるって……ほんとそこまで言ってないから!」
私は、思わずブライトの言葉に反論した。
確かに、リースとは一緒にまわるかも知れないし、まわってあげるかも知れないとは言ったが実際一緒にまわるとまでは約束していないし、そこまで話を進めていない。
のにも関わらず、リース中身元彼はルーメンさんにブライトが聞けるような場所で大きな声で言っていたのかと思うと、私の頭痛はさらに酷くなった。
(あの馬鹿! これじゃあ、元彼とまわることになるじゃない!)
私は頭を抱えながら、どうしてこうなったと項垂れた。
「えっと、つまりエトワール様は殿下と一緒にまわらないと?」
「……そう、言い切れたら良いんだけど、確かに誘われていると言えば誘われていて……でも、まだOKしたわけじゃないし、私も考えているところだし」
「……そう、ですか」
私がそういうと、ブライトは残念そうな表情を浮かべていた。その声色も何処か寂しげで。
でも、何故私がリースとまわることが彼にとって悲しみやら残念やらそういう気持ちにさせるのだろうか? 私の見間違いと、聞き間違いか。
そんなことを考えながら、ブライトを見ると彼はただ優しく私に微笑みかけるだけでそれ以上何も言ってこなかった。
なので、私もこれ以上何も追求するつもりはなかった。
(でも、ブライトは一応候補に入れておかなきゃ何だよな……あの双子はあっちから断ってきたわけだし)
先日、攻略キャラである双子、ルクスとルフレから手紙が届きもしや星流祭を一緒にまわらないかという誘いかと開いてみたが、何てこと無い「星流祭は二人でまわるから、聖女さまとはまわれない」という別に誘ってもいないのに、フラれたような気持ちにさせる内容が書かれていた。思わず手紙をくしゃっと握ってしまいそのままゴミ箱に捨てたのはいうまでもない。
あの双子は相変わらず私に意地悪をしてくる。コンセプトはドSなショタ……らしいが、私からしたら子供のイタズラ程度にしか思えない。
まあ、だからきっぱり彼らは攻略対象から省いているんだけど。
(そのせいで、四人の中で決めなきゃいけなくなったんだけど……)
と、私は残りの攻略キャラ四人の顔と名前を思い浮かべため息をついた。
皇太子で私の最推し……しかし中身元彼のリースか、平民上がりの護衛騎士、リースの次に好感度の高いグランツか、魔法の師でありこうして恋バナらしい話が気軽に出来るブライトか、一度殺されかけて脅され、敬意何もへったくれもないアルベドか……
(アルベドだけはないと思うんだよね……次はリース……)
そもそもアルベドは光魔法の魔道士やら貴族やらが多く参加するこの星流祭に果たして参加するのだろうか?
それに、彼奴はどう考えても私に対して友好的ではない。むしろ敵意をもっているのではないかとすら思える。だって、私は彼と相反する魔法の使い手だから。
まあ、どちらにしろ彼は私のタイプではないのでまわる確率は四人の中で最も低いと言える。
だけど、そうなると残り三人の中で誰とまわるか決めないといけない。
(……うう、でもリースがそう公言している以上皇太子の誘いを断ったなんてなると、彼の顔に泥を塗るわけだし私の評判も下がって……)
私の逃げ場を間接的ではないがなくしたリースを恨めしく思う。あの時きっぱり断れれば良かったのに……と思ったが、あの時もあの時で断れ無い状況に置かれていた。
「まあ、エトワール様のまわりたい人とまわればいいと思います。それが一番幸せだと思いますし」
「そうだよね! やっぱりそうだよね! ブライトの言うとおりだよ」
私は、ブライトの言葉に同意すると、うんうんと首を縦に振った。
やはり、好きな人とまわる方が楽しいだろうし、それでいいのだ。
と、いっても私は好きな人とかいないのだけど。推しの中身は元彼だし。
私が、一人納得してウンウンと首を振ると、ブライトは何故か複雑そうな表情をしていた。
「あ、でももし、一緒にまわる人がいなかったらブライトと一緒にまわっても良いかなって。ブライトもいないんだよね?」
「え、ええ」
「なら、ブライトも候補に入れておこうっと。一人でまわるのは寂しいからね」
そういって私がブライトに微笑むと、ピコンと音を立てて彼の好感度が上昇する。
「そう、ですね。せっかくの祭りですし」
「ブライト?」
ブライトの顔が少し赤くなっている気がして彼の顔を覗こうとしたが、すぐにいつもの調子で何でもありませんと言ってくれた。
(何か気になるけど……まあいっか)
そして、私は考えることをやめた。
まあ、候補としては有力である。
「ああ、でも弟さんとまわるとかはない?」
と、私は少し気になったことを彼に投げかけた。
彼は、超のつくブラコン……という設定なだけあって、私と出会った当初、私が彼の弟に触れようとしたとき手を叩かれたほどだから。まあそれは後々、病気を持っていたからと言う理由で私の身体を気遣ってとっさに叩いてしまった訳らしいが。
私の質問に、ブライトは少し困ったような表情をしてから口を開いた。
「弟は身体が弱いので、それに病気のこともありますし……それだけじゃなく、夜は」
「夜、そっか、危ないもんね。子供は寝る時間だし、誘拐されても大変だし!」
「そう、ですね……危ないですから」
そう、何処か引っかかるような口調で話すブライト。
よほど、弟と星流祭を回れないことがショックなのかと思い、私はフォローを入れようと口を開こうとすると、その前に彼が言葉を紡いだ。
「弟のことは気にしないで下さい。色々あるので」
「そ、そっか。でも、弟さんも一緒に回れないの悲しんでいるんじゃないかな?」
「悲しむ心があれば……ですけど」
「何かいった?」
「いいえ。そうですね、悲しんでるかも知れません。なので、星流祭にいった際には彼にお土産でも買って帰ろうと思います。お気遣いありがとうございます。エトワール様」
そう言ってブライトが私に頭を下げる。
そんな大したことはしていないのに……と、思いながらも、ブライトに礼を言われると嬉しい気持ちになる。
私が一人にこにこと笑っていると、ブライトは今日はこの辺にしておきましょうと立ち上がり衣服についた砂埃を払った。
確かに、今日はいつもより長い時間魔法の特訓に付合って貰っていた気がする。
「一生懸命なエトワール様はとても素敵ですし、格好いいと思いますが自身の身体のことも考えて下さいね」
「あ、ありがとう。でも頑張らなくちゃ。この間の事もあって、私はまだまだ力不足だって感じたし……それに、私は皆を守る聖女だから」
私の言葉を聞いたブライトは、一瞬驚いたように目を見開いたあと優しく微笑んだ。
そして、私が立ち上がると彼はそのまま手を差し伸べてくれた。私がその手に自分の手を重ねると、グイッと引っ張られるようにして立ち上がらされる。
「そうですね。ですが、あまり無理はしないで下さい」
「うん、やっぱり優しいね、ブライトは。 ありがとう。また明日もお願いしてもいいかな?」
「はい。喜んで」
そういって、私達は別れの挨拶をしてその場を離れた。
「……僕は優しくなんて、ないですよ。貴方に嘘をついているんですから」
そう呟いたブライトの声は、誰の耳にも聞えることなく掻き消された。