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「ねえねえ、アミとミオの住んでるとこって、自然が綺麗なんでしょ?」
「本当に良い所よ。きっとユーリも気にいると思うわ」
「まずはユーリの歓迎会しようよ」
「楽しみ~☆」
ユーリの案内の下、冥王が待つ『王の間』へ向かう最中、ユキを先頭に後ろの三人は談笑の真っ只中だった。
「な、馴染んでますね。予想以上に……」
先程まで敵対関係にあったとは思えぬ程、馴染んでいる彼女達にユキは呆れ気味に呟いた。
「女の子同士だもん」
「ねぇ~☆」
「ユキだけ男の子だし~」
「性別は関係ないでしょうミオ」
少々緊張感と危機感が足りない気もしたが、ユキはこの事に何処か安堵も覚えていた。
この闘い、どう転ぼうが世界か狂座、どちらかが必ず滅びる。
狂座の終わり後、独り残される事になるユーリだが、これならきっと上手くやっていけるだろうと。
確かにこの時代にそぐわない異質さだが、それは自分も同じ。アミとミオの二人なら、きっと分け隔てなく接していくだろう事を。
ーー豪華な宮殿内を談笑しながらひた歩く四人。しばらくーー前方に一際豪華な扉が見えてきた。
「ユキ、あの扉の先が冥王様の居る『王の間』だよ……」
ユーリが何処か緊張感のある声で、此処の終着を促した。
遂に此処まで来た。全員が一度扉前で立ち止まる。
「…………」
固唾を飲み込みながら誰もが沈黙したのは、この先に居るだろう者から感じられる、得体の知れぬ恐怖、悪寒、不安ーーあらゆる負の感情を如実に感じたからに他ならない。
“とてつもなくおぞましい何かが、この先に居るーー”
誰もが怯懦し立ち竦む中、重厚な扉が待ってましたとでも云わんばかりに、ゆっくりと“自動”で開いた。
扉をくぐり抜け、奥へと進む四人。その奥に向かって敷き詰められた、一本の黄金装飾の絨毯。それは正に、王の下へと続く道標で在るかの様に輝いている。
そして最奥の玉座に居座るノクティスと、その傍らで後ろ手のまま直立不動のハルの姿が。
一足先にユーリがノクティスの玉座へ向かい、膝を着いて敬礼。
「冥王様、彼を……お連れ致しました」
直属としての本来の役目を此処に遂行した事を。
“あれが……冥王? 何だろう……怖い!”
“なんて美しくも……邪悪な”
ミオとアミは初めて見るノクティスの姿に、これまでにかつて無い危機感を覚えた。
「…………」
ユキは彼女達を守るかのよう、決して自分の前に出るなと言わんばかりに、右手を二人の前に掲げていた。
「ご苦労だったねユーリ」
ノクティスは頬杖を付きながら彼女を労う。勿論、これまでの経緯は承知の筈だが、敢えて追及しなかった。
「そしてーー」
何故ならーー
「待っていたよーー“ユキ”」
全ての興味の対象は、全てユキ一人にのみに注視していたのだから。
「……いきなり私を“真名”呼びですか? アナタにそう呼ばれる筋合いは無かった気がするのですがね」
ユキは自分の名を“勝手”に呼び捨てにされた事に対し、嫌味の一つとして返答。納得していないのだ。まるで親愛の情でも込められたかのように紡がれたそれに。
「つれないね。私の伴侶に相応しい者を、親愛を以て呼ぶのは当然じゃないか。まあ、君のそういう気質が気に入っているのだけどね」
相変わらず、ノクティスは全く意に介さなかった。
「あ、あの? 恐れながら冥王様……」
不意に二人の間に割り込むかのように、ユーリが口を挟む。
「何かなユーリ?」
割り込まれた事に特に憤慨する事なく、ノクティスが穏やかな口調で聞き返した。
「冥王様の意にそぐわないと承知してますが、どうかこの世界から手を退く事は出来ないでしょうか?」
「それは出来ないよ」
ユーリの懇願にノクティスは即答。
「君は今まで“何を見てきた”のかな? 例外は無いよ」
「そ、それはそうですが……」
そう、最初からユーリにはこの答が分かってはいた。冥王の意思は絶対。これは何人にも覆せない。
それでも自分の気持ちに気付いてしまった以上ーー
「君の気持ちも分かるよユーリ。彼らを好きになってしまったんだね? 勿論、私はそれを咎めないし、寧ろ喜ばしい事だよ」
彼女の心情を先読みするかのように、ノクティスは代弁する。
そう、好きになった。だからこそ、争う事なく解決出来ればと。例え叶わぬとしても、進言せずにはいられなかった。
「ーーが、世界は消え失せる。これまでも、そしてこれからもね。それこそが私の存在意義でもあるのだから」
だがノクティスも、はっきりと明言。これまでの行いは必然であり、自分を覆す事はないという意思表示の顕れ。
「それに、君にとっても今回の件は悪くないと思う。彼らとは“これからも一緒に居られる”事だし、何なら君も彼から遺伝子を貰えばいい」
「えっ? い、遺伝子……ですか? それって、どういう……意味でしょうか?」
この世界は消え去るが、彼等が狂座入りする事で悠久に一緒の時を過ごす意味は分かる。だが突然の『彼から遺伝子を貰えばいい』の意味だけは理解出来ず、ユーリは戸惑いながら伺う事しか出来なかった。
「言葉通りの意味だよ。君達三人には彼のーー“ユキの子”を産んで貰う。彼の現時点での神なる遺伝子と君達の母体なら、素晴らしく優秀な人材が出来るだろうからね」
ノクティスのまるで有無を言わせぬ強制に、ユーリのみならずアミとミオも口を挟む事が出来ない。
“こ、この人は一体何を言っているの?”
「これを機に、狂座は新しく生まれ変わる。かつてない、最強の軍団としてーー」
彼女等の思考もお構い無しに、ノクティスはこれからの事を高らかに述べた。
とどのつまり、アミとミオとユーリはユキの子を産み、それを精鋭として育て上げろと暗に示していたが、彼女達からしたら到底納得出来るものではない。
自分達の意思も想いすら完全無視もそうだが、まるで生まれ来る命を、道具としか見ていないそれにーー。
「ああそれと、彼の子は幾らでも産んでくれて構わないが、彼がいつか神を超えた領域に突入した時は、残念ながらこの先の懐妊を諦めて欲しい。恐らく、君達の母体が耐えられないだろうからね」
彼女等の意向を完全に無視したノクティスの独壇場は続く。
「彼が到達した時の遺伝子を受け入れるのは私の役目だ。だが君達が確実な避妊をするなら、営み自体は続けて構わないからね。望むなら排卵を止めてあげよう」
それはさながら自分は正室、それ以外は側室という立場を強調。
そしてノクティスは穏やかな笑みを浮かべながら、高らかに宣言したーー
「さあ共にこの歴史を、宇宙をーー全てを牛耳ろうじゃないか。我々が創り出す、新たなる“家族”と共にーー」
その理解が追い付かぬ言霊の圧に、誰もが声を挙げる事が出来なかった。