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僕らの詩 ~Our Lifetime~

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僕らの詩 ~Our Lifetime~

1 - プロローグ

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2022年08月22日

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海が穏やかだからか、船はほとんど揺れない。

ちゃぷちゃぷと音を立てながら進んでいく。

海はどこまでも透き通った青で、水に溶け込んだ絵の具のよう。

おまけに空も真っ青なんて、贅沢すぎるくらいだ。

漂う空気や吹く風も澄んでいて、吸い込むと身体が丸ごと浄化されているみたい。

北斗は、知らないうちに感嘆の声を漏らしていた。「綺麗…」

「ほんと、めちゃくちゃ綺麗ですよね」

突然、後ろから誰かの声が聞こえる。

振り返ると、にこやかな笑みを浮かべた男性がいた。身体は細いが、茶髪で明るい印象だ。

「すいません、急に話しかけてしまって。あの、俺、今日から『シエル』に入るんです。もしかして一緒ですか?」

「あ、はい」

「やっぱり。田中樹っていいます。よろしく」

「…松村、北斗です」

こんな船の上で自己紹介するなんて、思ってもいなかった。北斗はいつもの人見知りが発動し、声が小さくなる。

「同世代くらいですよね。俺27です。北斗さんは?」

「…僕も、同じです」

「えっほんとに? 偶然ですね。良かった、同年代の人がいて」

「あ、でも、ここは30代くらいまでの若年層を主に受け入れているらしいですよ。だから僕も、居心地がよさそうだなって思って」

「そうなんですね。じゃあ若い人が多そう。俺はただケアマネージャーさんに勧められたまま来たからな。でも、海が見たくて。すごい良いところですよね…」

辺りを見回し、ほほ笑みながら言った。

「…僕は、瀬戸内の出身なんです。もうちょっと東のほうですけど。瀬戸内海を見て育ってきたので、最後までこの海と一緒にいたくて」

北斗の口が自然と動く。なぜかこの人と話していると、緊張がどんどん消えていくような気がした。

「わあ、いいなあ。俺は関東だから、こんな穏やかな海があるなんて今日初めて見てびっくりしました。またあっちで会ったら、一緒に海を見に行きたいですね」

「はい、ぜひ」


船着き場に到着する。

樹は立ち上がり、北斗に手をそっと差し出す。「揺れると危ないです」

と言っても、樹も北斗と同じ心配される立場なのだ。「樹さんこそ」

荷物を持ち、手を握ってゆっくり立ち上がる。

「ありがとうございます」

手を離すと、樹は先に歩き出す。リュックサックの背中に北斗が続く。

「うわーすごい。俺、島って初めて来たかもしれない。北斗さんって、島育ちですか?」

後ろを振り返って言う。

「そうです。小っちゃい島ですけど、いいとこでした」

そうですか、と樹は笑う。北斗もつられて口角が上がった。

この人となら、友達になれそう。

これからの暮らしも、楽しくなりそう。

そう彼は思った。樹もまた、そんなことを思っていた。


どちらが先にいなくなるかはわからない。

そのときは、どちらかが悲しむかもしれない。

でもいずれは、どちらも空に行くんだから――。


続く

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