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僕らの詩 ~Our Lifetime~

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僕らの詩 ~Our Lifetime~

2 - 始まりの出会い

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2022年08月24日

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北斗は、ここのスタッフのリーダーで医師の、マスターという人に施設のことをいろいろ教わったあと、部屋を案内してもらった。


視線の先には、先ほど見てきた海が広がっていた。瀬戸内海だ。

大きな窓から、青い海が見える。地平線のかなたまで、よく見える。

北斗はかばんを放り、思わず駆け寄る。ものすごく綺麗だ。これはきっと、樹も興奮しているだろう。

こんないい景色を毎日見れるなんて、ここまで頑張ってきてよかったな、と感じた。


先に送っていたスーツケースと、持ってきた小さめのボストンバッグから荷物を取り出し、棚やクローゼットにしまっていく。

自分はこれからここで暮らすだなんて、北斗は信じられなかった。

部屋が整うと、ベッドに飛び込んでみる。

ふかふかのマットレスが身体を包み込んでくれる。まさに夢見心地だった。


気づいたら、時計の針は12時前を指していた。気持ち良すぎて、眠ってしまっていたらしい。

もうすぐ昼食の時間だ。

マスターから、朝は8時、昼は正午、夜は7時くらいが食事の時間だと言われた。

食堂に行こうと、部屋を出る。

すると隣の部屋のドアが開く。顔を見せたのは樹だった。「あっ」

樹も気づき、笑顔を向ける。「北斗さん、お隣だったんですね」

「偶然ですね、ほんと」

「食堂ですか」

「そうです」

じゃあ一緒に、と歩き出した。

「あの……聞いていいですか、病気のこと」

北斗はおずおずと言った。「差し支えなければ」

「ああ。…僕は肺がんです。煙草がたたったみたいで、見つかったときには肺がボロボロでした」

自嘲気味に笑ってみせた。「北斗さんは…?」

「遺伝性の胃がんです。父と祖父がなってて、年齢的にももっと後かなって思ってたら、けっこう早くて」

「ですよね。俺も、20代でがんなんて信じられなかったですもん」

そう。ここは、死を受け入れたがん患者だけが過ごせる終の住処、ホスピス。

みんなが自分と同じ境遇なのだ。


食堂では、多くの人が昼食を摂っている。バイキング形式で、好きなものを取っていける。

「美味しそうですね」

樹が嬉しそうに言う。

「ええ。瀬戸内産のものがいっぱいで」

それぞれの料理のお皿には、料理名と産地が書かれたカードが添えてある。あたたかな文字の手書きだ。

病院食は調子が良くてもそんなに食べられなかったのに、なぜか今は食欲が湧いてきた。

2人並んで席につき、いただきますをする。

「美味しい」

「うまっ」

心から美味しいと思った。豪華ではないけど、必要な栄養と旨みが凝縮されている気がする。美味しさが身体の隅々まで行き渡る。すごく幸せだ。

「わあ、それ美味しそう!」

すると突然、明るい声がした。見ると、テーブルの向かいに長身の男性がいる。

「あ、すいません。俺、ジェシーっていいます。初めて見る方ですね」

「今日からここに入った、田中樹です」

「松村北斗です」

不思議と、初対面の人なのに声がしっかりと出た。

「隣、いいですか?」

どうぞ、と樹が答えると、2人の隣に座る。

「いつも一緒にいる高地ってやつが、今日は部屋で食べるって言ったので寂しかったんです」

友好的な笑みで言う。

「俺も、初めてで不安で。先にいる方に話しかけてもらえてよかったです」

「それはよかった。お2人若そうですけど、おいくつですか? ちなみに俺は26です」

「あっ、俺ら27なんで一つ下ですね」

樹が自分と北斗を指さした。

「そうなんですか! 近いですね、嬉しいです」

北斗は相槌を打つくらいだが、樹とジェシーは話が弾んでいる。そこで、病気の話になった。でも慣れているようで、声色は変わらない。

「2か月くらい前に、大腸にがんが見つかって。まあ親父もなってたんで、遺伝でしたね。樹さんってどこのがんなんですか?」

「俺は肺です。発見時にはもうステージ4で」

「そうですよね、俺も遅かったですもん。…えっと、北斗さんは?」

「あ、僕は胃です。ジェシーさんと同じ遺伝性」

みんなも同じだから、病気のことを言うのに恥ずかしくはない。そのことに、ちょっと安心感を覚えた。

「…そういえば、さっき言ってた高地さんって…」

今度は北斗が話題を変える。

「俺がここに来たときにはいた人です。それからなんか仲良くなって。高地優吾っていうんですけど、大体苗字で呼んでます。あっ、北斗さんと同じ胃がんですよ。でもスキルス性って言ってたな」

「スキルス…」

通常の胃がんよりも進行速度が速いタイプだ。だから発見時には時すでに遅しということがほとんどらしい。

北斗は会ってみたいと思った。同じ病気なら、いろいろ話せるかもしれない。

「僕、会いに行っていいですか?」

「全然いいと思いますよ。また一緒に行きましょう」

食事を終えると、各自の部屋に戻る。

「あー美味しかった」

また柔らかなベッドに身を委ねる。

本当に満足だった。こんな食事が毎日食べられるなんて幸せそのものだ、と北斗は感じた。身体や心、自分の全てが幸せだと叫んでいる。

そして、もうこの世からいなくなるとわかっているのに、親しくできそうな人に出会えたことが、すごく嬉しかった。


続く

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