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泣かせに行きます
ご注意を
――ポオ視点
朝、目が覚めたとき、
ぼくの喉は、何も言葉を発さなかった。
痛いとか、苦しいとか、そういうのじゃない。
ただ、出ない。
声が、喉の奥で引っかかってる。
乱歩に「おはよう」って言いたかったのに。
言葉が、出なかった。
だから、代わりに笑った。
そうすれば、乱歩は「おはよう」って返してくれるから。
……でも今日の乱歩は、黙ってぼくを見つめていた。
あの子は、たぶんもう気づいてる。
ぼくが、“もうそんなに長くない”ってことに。
「ポオ君、今日も、たい焼き買いに行く?」
その声に、ぼくは小さく頷いた。
歩く途中、足元が少しふらついた。
でも、乱歩は何も言わなかった。
ただそっと、ぼくの手を握ってきた。
強く。絶対に離さないように。
声が出せない代わりに、
ぼくはその手を握り返した。
本当は、「ありがとう」って言いたかった。
たい焼きを買って、川沿いのベンチに座る。
風が少し冷たくなってきた。
乱歩は、ぽつりと呟く。
「ポオ君、僕ね、君の声が好きなんだよ。」
ぼくは、心臓がぎゅっと締め付けられる音を聞いた気がした。
「本を読むときの声、難しいことを説明するときの声、照れ隠しで小さくなる声。
……あと、僕の名前を呼ぶときの声。」
乱歩の手が震えていた。
「全部、録音しとけばよかったなぁ……って、思ってる。」
ぼくは、首を振った。
そんなことしなくても、
君の胸に、ちゃんと残ってる。
君なら、忘れない。
だから、録音なんていらない。
でも、それを言う声が――ぼくには、もうなかった。
帰り道、ぼくは乱歩の袖を引いた。
言いたいことがあった。
どうしても、伝えたかった。
だから、筆談のメモ帳を取り出して、
たった一言だけ、震える指で書いた。
「だいじょうぶ」
乱歩はそれを見て、
しばらく黙ったあと、静かに笑った。
「うん、だいじょうぶだね。君がそう言うなら。」
そして、声に出さずに涙を流した。
それでも、ぼくは――
最後まで、君の笑顔だけを覚えていたい。
ポオのノート(最後のページに書かれた言葉)
君の声を、最後に聞けてよかった。
ぼくの声が、もう届かなくても。
君が笑っていてくれたら、
それだけで、ぼくは
ずっと生きてる。
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