コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
新藤さんは片手で弄んでいたロックグラスをピタっと止めた。時折垣間見るあの鋭い目つきになっている。「律さん……それは本気でおっしゃっているのですか?」
「本気です!」
私は新藤さんからグラスをひったくって、そのままその液体を自分の身体に流し込んだ。新藤さんが飲んでいたウィスキーがほぼ原液で体内を流れて行った。
途端に身体が焼け付くように熱くなり再びクラっとした。浮遊感のある心許ない状態に陥ってしまい、完全に酔っぱらいが復活してしまった。
「ねえ新藤さん。私を元気づけたかったら白斗に連絡を取って、彼を目の前に連れてきてくださいよ。元スタッフだったら、白斗の連絡先くらい知っていますよね?」
「律さん。目が座っていますよ」
「ちゃんと立てまぁす!」
しゃきっとソファーから直立姿勢でぴんと背筋を伸ばした。傍にあった高級ボトルからウィスキーをロックグラスに注いでもう一度体内へ流し込んだ。
喉が焼けそうに熱くなる。
「うぅ……」
「律さん!!」
ふらっと倒れそうになった私を新藤さんが抱き留めてくれた。
「白斗に逢わせて……どうしても逢いたいです」
「律さん。私にもできることとできないことがあります」
「そうですか。どうしたら元気になるかって聞いてくれたから言ったのに、もういいです。どうせ白斗にはもう一生会えませんから。わかってます。白斗を連れてくるなんてできませんよねっ。もういいでぇーす!」
めちゃくちゃな酔っ払いを相手させるのも気の毒なほど、私はこの時酔っていた。
「誰も『できない』とは言っていませんが」
何時も冷静な新藤さんが、心なしかムキになっているように見えた。
「じゃあ、白斗を今すぐここに連れて来てください!!」
「わかりました。ひとつ忠告しておきますが、後悔しても知りませんからね?」
「しませんよっ! 白斗に逢えるならなんでもします。それで、逢ったら白斗に説教しまぁす! 勝手にRB解散して、ずっとずっと好きだった――いや、今でも大好きです。もう追っかけできないなんて辛すぎます。だから理由聞きたいでぇす。解散した納得のいく理由を!!」
「そこまで言うなら結構。いいでしょう。彼に逢わせてあげますよ」新藤さんは恐ろしい位の鋭い目つきで私を見つめている。「でも、条件があります。『白斗に逢えるならなんでもします』というお言葉、絶対、撤回しませんね? 地獄へ堕ちても構いませんか?」
「撤回なんかしませぇん!! 地獄でもドコへでも連れて行ってくださぁい。どうせ私は地獄行きです。詩音を助けられませんでした……いろんな人を傷つけてしまって……罪は重いでぇす」
どうせ堕ちるなら、最後に白斗に逢ってから旅立ちたい。
「――その言葉忘れんなよ、空色。いや、吉井律」
急に新藤さんが丁寧で完璧な敬語もとっぱらって、ドスの利いた低い声で言った。
突然のことで頭がパニックになった。彼を見ると不敵な笑顔で新藤さんは笑っている。彼のこんな顔は初めてだ。
でもこの顔、どこかで見たことがある。
彼は私から取り返したロックグラスを赤い舌を出してベロリと舐めて見せつけた。
え? なに?
この顔、ポーズ、知っている。
絶対、どこかで見たことがある。
「白いマイクスタンドやないと、誰かわからんか?」
新藤さん、完全にキャラが違う。豹変している。
えっと……新藤さんの素って、こんな感じなの?
ていうか、待って。
白いマイクスタンド――そこまで聞いて背筋に旋律が走り、ぞくりと冷たくなった。
視界が回る。これは酔ったせいではない。