シャワーを浴び、リビングに戻るとそこにはもう彼の姿はなかった。どうやらおとなしく帰ったようだ。
午前10時 バイトの桃香ちゃんがきて、店を開店させる。週末のブーケの試作をしていなかった事を思い出し桃香ちゃんに店番を任せて隣のアトリエでブーケを試作する。季節は春。花の種類には事欠かない季節だ。春は花々も色とりどりあるので大好きな季節だ。あらかじめ要望のあったイメージに近い形で作っていく。白のウエディングドレスとその後着用のカクテルドレス両方とも合うように作らなければならない。なかなかの難作となりそうだ。
ふと携帯に目を落とすと、夜の仕事依頼のメッセージが2件きていた。〝了解〟とだけ返信した。
昼休憩の桃香ちゃんと交代でレジに立つ 。
ここから見える景色が好きだ。都会の片隅にひっそりと立つ花屋から見える、忙しそうに通り過ぎるサラリーマンもランチに向かうOLも一生懸命生き抜く姿がここから垣間見れる。時折店頭の花々を見ては足を止めたり、優しい目つきになる人々を見ると自分の仕事のやり甲斐を感じる。ここは私が守らなきゃいけない場所だと改めて感じる。
健太 よっ鈴花調子どう?
二軒隣の酒屋の健ちゃん。幼馴染だ。お店が暇になるとこうやって私の仕事の邪魔をしにくる(笑)
鈴花 なぁにお花買いに来てくれたの?たまには買っていってよ
健太 村岡さんの話聞いた?
村岡さんとは酒屋の前の金物店のことだ。この辺りは小さな商店が並んでいる。商店街とまでは言えない小規模なものだが、どのお店も古くから営業している。私が首を横に振るのを確認すると神妙な面持ちで語り出した。
健太 この辺りが再開発の候補になるって話!立ち退きしなきゃならなくなるかもって村岡さんが言ってるだよ
鈴花 そんな訳ないでしょただの噂でしょう。あの人噂好きだから全部鵜呑みにしちゃダメよ健ちゃん
確かにこの辺りは古いお店が並んで活気も昔ほどないけど‥良いところだってたくさん残ってる。まぁ何の根拠もない話だと軽くあしらった。
夕方になると人の往来が多くなり恋人や家族に花を贈る人たちが駆け込んでくる。花を選ぶ時のお客さんの顔は送る相手のことを想像しているのか、とても素敵な笑顔だ。
一通りお客さんの流れが止まったタイミングで午後からのバイト百合ちゃんにお店を任せて私は夜の準備をするために2階の住居に移動した。百合ちゃんにお店を任せると今日の待ち合わせのホテルへと移動する。もちろん私がしている夜の仕事の事は誰も知らない。
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