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#異能者
綾瀬リナ
32
454
ゆ ぅ ナ . 【 🫧☔️ 】
202
鷹岸視点
都内某所のコンビニ。時刻は深夜。
客足はまばらどころか店内にいるのは、僕――鷹岸優斗(たかぎしゆうと)だけだった。棚の商品を整える作業もとっくに終わり、完全に手持ち無沙汰だ。接客業のプライドで、どうにか欠伸を噛み殺す。
(暇だなぁ……)
~~♪~~♫
入店音とともに手動ドアが開き、僕はハッとして声を張り上げた。
「いらっしゃいませ!」
入って来たのは、小柄で細身の僕からすれば、見るからに体育会系のガタイがいい男だった。
眼光が鋭く、いかにも堅物といった強面。サイズが合ってないのか、それとも服に頓着しないのか、パツパツのスーツ。身長が165cmしかない僕を余裕で見下ろせる、180cm近くはありそうな背丈。その威圧的な佇まいに、内心ビクビクしてしまう。
(もしかして警察関係者か……?)
彼は通い慣れた素振りで、迷いなく棚へ向かい、商品を手に取った。
レジに運ばれてきたのは、醤油味のカップラーメンとコンソメ味のポテトチップス。わざわざ深夜に買うのがこれ?というツッコミは心の中に留め、バーコードをスキャンしていく。
いつも通りセルフレジでの会計を促した、その時だった。
『ねえ……ちょっといいかしら?』
不意に鼓膜を揺らした女性の声。
会計中の客の背後から聞こえてきたその声に、僕はただ「客の声」として無意識に応答していた。
「はい。どうしました?」
――そして血の気が引いた。
僕が視線を向けた先には、誰もいない。
コンビニのガラス窓に映るのも、目の前の大柄な彼一人だけ。
「しまった」と思ったが、もう遅い。
小さい頃からずっとそうだった。生きている人間と、死者の声。僕の耳には、その二つの区別が全くつかない。どちらも同じように生々しく聴こえてしまうのだ。
区別がつかないが故に、小・中学校では「嘘つき」といじめられ、さらに高校でも編入と転校を繰り返し、どこにも馴染めなかった。
教師からは腫れ物扱いされ、挙げ句の果てには父親から激しい虐待を受けた。
そのため家出同然に祖母を頼った。彼女だけは、僕の味方でいてくれたこともあり、唯一の救いだった。しかし、その祖母も大学3年の冬頃に亡くなり、僕の卒業を見届けることなく旅立った。
また、祖母と暮らした家は老朽化がひどく、思い出が詰まった場所を取り壊さなければいけなくなった。
いとも簡単に破壊される家を、呆然と眺めるしかない、虚無で満ち溢れたあの日には戻りたくない。そう決意して社会人になると一人暮らしをしながら、この能力を必死に隠して生きてきたはずなのに。
たかが一度の過ち。
されど一度の過ち。
僕は声にすらならない。
(また、ここにいられなくなる……)
全身の血が引き、指先一つ動かせない。絶望に支配されかけた僕の耳に、彼の低い声が飛び込んできた
「君……死者が視えるのか?」
目の前の彼が、カッと目を見開いて僕を凝視していた。どこか期待を孕んだような、食い気味の問い。訳が分からず、不気味さのあまり僕は即座に否定した。
「視えません」
嘘は言ってない。僕に死者の姿を肉眼で捉えることはできない。ただ声を聴き取れるだけだ。
その一方で祖母は死者の姿を視て、生者と死者の区別ができた。もちろん死者の声も聴けたため、僕と祖母では受け継いだ能力の高さに明らかな差があった。
「じゃあ、死者の声が聴こえるのか?」
店内には僕と彼しかいなかった。それなのに、さっきの女性の声に反応してしまった以上、もう言い逃れはできなかった。
誤魔化してやり過ごす方が利口だったかもしれない。だが、彼が向けた瞳があまりにも切実で、何かに縋るように揺れていたからだ。
もちろん嘘をつくのは簡単だが、今の彼を拒絶するのは、不誠実な気がした。僕は何も言わず、コクリと一度だけ小さく首を縦に振った。
「俺は登坂湊(とさかみなと)だ。頼む、俺の捜査に協力してくれ」
あまりにも唐突すぎる申し出だった。
だが僕はそれ以上に、彼の「名前」に強い困惑を覚えていた。
かつて祖母から、数回ではあったが「登坂」という警察官とバディを組んでいた話を聞かされていたからだ。同姓の別人である可能性もあるが、珍しい苗字だけに、僕の中で強く印象に残っていた。
しかし、何があったのか、二人はすぐ解消して別の人と組み直したらしい。これは祖母が繋いだ縁であり、死者から目を逸らすなという必然なる運命なのかもしれない。
そんな直感が働き、驚きのあまり固まる僕を前に彼ー―登坂さんが静かに明かした。彼にも死者に関わる特殊能力があり、声は聴こえないが、その姿を「視る」ことが出来るのだと。
さらなる爆弾投下の威力は抜群で、僕はドクン、と心臓が大きく跳ねた。この能力は身内だから血筋だと思っていた。
まさか自分と同じように、死者の存在に振り回される人間が、僕たち以外で他にもいたという事実。世界中で自分だけが孤独に呪われていると思っていたのに。
あまりの情報量の多さと、重なりすぎて仕組まれているのではないかと、疑いたくなるほどの偶然に、立てなくなりそうな眩暈すら覚えた。
「そんなこと急に言われても困ります。それに……確実に役立つかどうかも保証できませんよ」
僕はなんとか声を絞り出す。何故なら生きている人間と同じく、死者も時には嘘をつく。生前に嘘つきだった人間は、死んでからも平気で騙してくる。つまり死者の言葉を鵜呑みにするのは危険なのだ。
すると、彼の後ろについていた「何か」が、今度は僕の方へすり寄ってくる気配がした。カウンターを挟んで僕の目の前に回り込み、僕の顔を覗き込むようにして、再び声を響かせる。
『お願いだから断らないで。私、家に帰りたいの!』
再び響いた彼女の悲痛な訴えに、言葉が詰まる。
この能力を使えば、嫌でも死者と深く関わることになる。紛れもなく今までずっと避けてきた道だ。誰かに期待されることも、必要とされることにも、僕はまだ慣れていない。
(どうしよう……)
協力すれば、僕の平穏な日常が壊れるのは目に見えている。それでもここでまた背を向けて逃げ出すのは、何か違う気がした。
ここでもし祖母の孫だと名乗ったら?
数々の未解決事件を暴いてきた、優秀な霊媒師だった祖母を思えば、間違いなく過剰な期待をされてしまう。
(その重圧に耐えられるだろうか?)
頭の中でひたすら押し問答が続く。情けないほどに答えがでない。なのに、目の前にいる登坂さんも、視えない彼女も、僕を急かすことはしなかった。
「……その前に」
ようやく絞り出せた声は、弱々しく掠れていた。
「事件の概要を…聞いてもいいですか?」
自分が一歩を踏み出そうとしている確かな予感が、その一言には籠っていた。
コメント
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第1話、拝読しました。 優斗くんの「また、ここにいられなくなる」という恐怖が、静かにひりひりと伝わってきました。祖母から受け継いだものに戸惑いながらも、最後に「事件の概要を聞いてもいいですか?」と口にするまで——あの一言に、これまでの諦めの人生を変えようとする意志がにじんでいて、胸が熱くなりました。登坂さんの「期待を孕んだ眼差し」も、お互いの孤独が触れ合うようで素敵です。続きが気になります🌷