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#異能者
綾瀬リナ
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454
ゆ ぅ ナ . 【 🫧☔️ 】
202
登坂視点
都内某所の殺伐とした重だるい空気を後にして、息抜きにコンビニへと向かう。その道すがら、俺――登坂湊(とさかみなと)は、背後にヒヤリとした、冷気を感じた。
(またか……)
静かに振り返って視線を向けると、案の定そこには現在捜索中の被害女性だった。
現時点で見つかっている彼女の遺体は、頭部と上体のみ。そのため、俺の目に映る彼女の姿も、下半身と両腕が欠けたように視えない、あまりにも凄惨なものだった。
既に身元は特定していたが、パーツが足りないせいで、警察は遺族に遺体を返還できずにいた。そんなやるせなさや、俺の沈んだ心を嘲笑うように輝く、煌々と明かりを灯した店内に足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ!」
俺は店員の定型文を適当に聞き流す。
所詮は死者の姿が視えるだけで、何もしてあげられない。手にした能力がもっと高ければ、あるいは死者と対話できるだけの能力があれば――と。持たざる者の無い物ねだりなその歯がゆさはたぶん誰にも分からない。
特に俺の父は数々の難事件で黙秘を続ける容疑者に対して、犯した罪を穏やかに説き伏せることで「執念の鬼」と、同じ刑事からも恐れられたほどの警視監だ。
一方の母も地域の専門機関である、メディカル・エグザミナーとしてFBIと共に捜査した実績もある国際派の解剖医であり、二人ともその道で最高位の立場にあった。
当然のように自分にもその素質があるものと思っていた。だが、実際の俺は国家公務員総合職試験に挑むも、あっけなく不合格に終わった。それでも諦めきれず、巡査から経験を積むノンキャリアで地道に刑事を目指すしかなかったのだ。
担当する業務も普段であれば、窃盗や器物損壊などといった軽犯罪を主に扱っていた。しかし、今回のような残虐な事件では、捜査にあたる刑事にも危険が及ぶ。そのため、これまでとは違い、上層部からは「バディを組んで捜査すること」を絶対条件とされていた。
しかし、単に特殊能力を持つだけではなく、署内ではすっかり「親の七光り」であることは、暗黙の了解として知れ渡っていたため、誰一人として俺と組みたがる者などはいない。その不甲斐なさも、俺の頭を悩ませていた。
(署外で探すにしても情報漏洩のリスクもある。かといって、相手を慎重に選んでる時間も惜しい。八方塞がりすぎるだろ)
この能力を気味悪がることのない、捜査にも積極的で口の固い人など、都合がよすぎてどこにでもはいない。
一つ溜め息を吐く。
いつも通り最短ルートで棚から、目当ての商品を手に、そのままレジへと直行する。
(あれ……いつものおじいちゃん店員じゃないのか)
カウンターにいたのは、ずいぶん若い、大学生くらいに見える細身の店員だった。
わざわざ深夜に買うのがこれか?と言わんばかりに、訝しむ視線を商品に注ぎ、正直あまり愛想がよくない。
どことなく人を寄せ付けない切れ長の目、接客業でありながら全く交わらない視線、それは客と雑談をする気はないという意思が感じられた。
その一方で厚手の黒いトレーナーに、藍色のジーパンというラフな姿だが、両耳にピアス、首からスカルのシルバーリングを下げていた。まるで自衛のために何重にも分けて、バリアを張り巡らせているみたいだ。はっきり言って「拒絶のオーラ」が凄まじく、第一印象はかなり絡みにくそうだった。
もちろん気さくなおじいちゃん店員とは異なり、特に会話らしい会話もなく、彼が手早く機械的にスキャンを済ませる。なんだか早く帰ってほしそうに促されるまま、会計のために財布を開いた、その時だった。
「はい。どうしました?」
彼から発せられた声は、意外にも優しく、聞き心地のいい穏やかなものだった。しかし、俺はその場で固まった。
何故なら俺はまだ一言も発していない。彼は一体、誰と会話しているんだ?まさか――そんなはずがない。
目の前の彼が明らかにしまったという顔で、あっという間に血の気が引いていく。右手を額にあて、彼は思わず頭を抱えた。かろうじて左手でカウンターを掴んでいたが、カタカタと震えて膝から崩れそうなほど激しく動揺する。
死者の領域に足を踏み入れることができるのは、世界で自分だけだと思っていた。都合のいい偶然など転がっているわけないと、否定しようとした。しかし、彼の視線は目の前の俺を通りすぎ、完全に俺の真後ろへと向けられていた。そこにはあの被害者しかいない。
(こいつ…死者に干渉しているのか?)
不謹慎ながらも、期待で胸が跳ねた。
「君……死者が視えるのか?」
まるで彼の動揺が伝染したように、声が震えそうになるのをどうにか、堪えながら問いかけた。俺の勘が正しければ、間違いなく彼は彼女の存在に反応したことになる。きっと彼なら、俺のバディになり得る存在かもしれない。
そう邪な考えがよぎったのも束の間で、彼は自分の秘密である弱みを握られたかのように、怯えた様子で狼狽えた。
「視えません」
短い拒絶。先ほどの穏やかさは完全に消え失せた、冷たい声で吐き捨てられる。
会話を端的に終わらせようとする口調だった。その態度により、死者と関わりを持つのが不本意なのはもちろん、それ以上の「何か」に対する苛立ちのようなものが、彼の全身から伝わってくる。初めて見つけた同胞から拒絶されたような、暗い絶望感が胸に広がった。
相手の気持ちを思えば無理強いはしたくない。だが、俺にはどうしてもバディが必要だ。矛盾した気持ちがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「じゃあ、死者の声が聴こえるのか?」
彼の意思は尊重したい。だが、食い下がらないでもいられず、白黒つけたかった。そこで重ねて問い詰めると、彼は躊躇い、考え抜くような素振りを見せたあとで、静かに一度だけ深く頷いた。
彼の肯定は、孤独だった俺にとって、何ものにも代えがたいほど鮮烈だった。
「俺は登坂湊だ。頼む、俺の捜査に協力してくれ」
俺はほとんど無意識に手助けを求めた。さらに畳み掛けるように、自分に死者の姿を視る能力があることを明かす。狡いやり方だとは分かっていたが、断られるリスクを少しでも減らしたかった。
しかし、彼は何とも言えない表情をする。勢い任せの唐突な申し出よりも、何故か俺の名前を聞いた瞬間に、しかめっ面で眉を寄せた。何だか聞き覚えのある人を頭の中から探すような、違和感に満ちた反応をする。
おかしい。彼とは初対面のはずだ。それとも身内の登坂家に知り合いでもいるのだろうか。
俺が七光りだと知られている?嫌な予感が背中を滑り落ちていく。
「そんなこと急に言われても困ります。それに……確実に役立つかどうかも保証できませんよ」
当たり障りのない言葉で、当然ながら、彼は自分の平穏が破壊されることを恐れ、難色を示した。
同じ能力を持っているはずなのに、何故こうも分かり合えないのか。孤独には慣れていたはずなのに、今まで以上の虚しさに支配されそうになる。
その時だった。俺の背後にいた彼女がすっとレジカウンター越しに回り込み、彼の目の前で何かを必死に訴え始めた。
身振り手振りでどうやら、彼を説得しているようだ。声は聴こえずとも、その必死な空気感だけで、何となく理解は出来た。
(頼む、応じてくれ……)
自分は名乗ったというのに、不自然に身元を隠そうとする彼に、俺は祈るような視線を送った。
彼女が間を繋いでくれているなら、俺まで口を出して彼に負担をかけるわけにはいかない。俺は傍らで静かに、二人のやり取りを見守った。
「……その前に」
極度の緊張からか、彼が発したのは聞き取りにくいほど、掠れた声だった。まだ怯えながらそれでも、絞り出すように、さらに言葉を繋いだ。
「事件の概要を……聞いてもいいですか?」
果たして協力してもらえるかどうかは、まだ分からない。それでも、彼は会話を拒絶しなかった。
それだけで、これまでの長い孤独が、一瞬で報われたような気がした。
コメント
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読ませていただきました、第2話「孤高のバディ」。登坂さんの「死者は視えるけれど声は聴こえない」という設定と、店員さんの「視えないけど聴こえる」という能力の対比が、もう本当に鮮やかで……!お互いが孤独を抱えているからこそ、あのコンビニの一瞬の緊張感が胸に迫りました。特に、店員さんが「しまった」という顔で血の気を引かせる表情の描写が好きです。バディになるかどうかはまだ分からないけど、彼が「事件の概要を聞いてもいいですか」と一歩踏み出したラスト、すごく良かったです。続きが気になります……!