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「ねぇ、柴田さん」
「はい、どうしましたか?谷崎さん」
「……暇だから、イタズラしていい?」
「ダメ」
「ちぇ〜……」
図書室のカウンターにいる、谷崎と僕。委員会の仕事でここにいるが、正直、やることは少ない。
本を借りる、返す人の対応をして。たまに本の整理をして。たまに入荷する本に、ハンコを押して。その3つだけ。
それを月曜、水曜、金曜の3日間、放課後にする。そして、それが毎週。僕はしたかったので別にどうってことはないが、谷崎は僕についてきただけなので、毎回、面倒くさそうにしている。
僕は本を読み進める。この前の推理小説は近所の図書館に返却し、今は図書室で借りたラノベだ。短編集のシリーズ物だから、読み進めていて飽きない。今読んでいるのが3冊目だ。
「ねぇ、それ面白い?」
谷崎がオフィスチェアを動かして隣にやってきて、肩に頭を置いてくる。僕は素っ気なく面白いよ、と返事すると、本をカウンターに置いて、肩に乗っている頭を、
「えい」
膝に乗せた。
「うにゃっ……」
谷崎の口から猫みたいな声が出て、自分で口を塞いでいた。やっぱり、可愛い。
「ほーれ、構って欲しかったんでしょ」
小声でそう言いながら、僕は谷崎の頭を撫でる。さらさらの金色っぽい髪を撫でる度、ふわっといい匂いが鼻をくすぐる。
「……」
構って貰えて嬉しいが、これは違うと、頭の向きを変えて目力で訴える谷崎。もちろんそれには気付いているが、僕は気付いていないフリをして、引き続き撫でる。
だが、誰も来ないことはない。上級生の男が、本の返却に来た。結構図書室に来る人で、顔は覚えていた。そして、そんな顔見知りだからこそ、違和感に気付く。
「あれ?今日はあの子いないんだね」
カウンターにピッタリ収まっている椅子を見て、そう言った。あの子は谷崎のことだろう。
カウンターの下に入った座席に腰を、僕の膝に頭を、間にある本の詰まったダンボール箱に上半身を乗せている谷崎は、男からは見えない。そう思うのも当然だ。
僕は少し、谷崎にイタズラをすることにした。
「まぁ、今日はいないです、ね」
えっ!?
谷崎がそう言いそうになったので、すぐに口を塞ぐ。男は興味無さそうに、そっか、と返事して要件を終えると図書室から出た。
僕が膝に乗っている顔を見て、いたずらに微笑むと、谷崎はほっぺを膨らませた。だが、「谷崎は今日いない」で皆を騙すのには賛成らしく、ムフッと笑っていた。
でも、そんなに図書室に人がいる訳じゃない。今いるのは3人。全員隅っこの方で勉強しているので、こちらにはやって来ない。
おそらく、谷崎はそれを分かっていない。つまり、谷崎にイタズラをするチャンスだ。
「谷崎さん、お腹の方向いて」
僕が耳元に囁くと、カウンターの下を見ていた頭は僕のお腹を見た。吐息が当たって、少しくすぐったい。僕は耳元に口を近づけて、
「耳かきと、耳フゥー。どっちがいい?」
甘い声で聞く。谷崎はビクッと体を震わせて、呼吸を荒くする。これからイタズラする耳は、赤色になっていた。
「み、耳フゥー……」
小声で返事をすると、キュッと目を閉じる谷崎。触られるのに慣れていない動物みたいで、無性に揉みくちゃにしたくなる。
「はい、分かりましたよー」
僕は耳元に口を近づけて、息を多めに吐いて喋る。ゆっくりと、甘い囁き声を出すのには、とある事情で慣れていた。谷崎はすでに限界のようだが、それがさらに欲求を高める。
「せーの」
たっぷりと合図をして、ゆっくりと息を吹く。谷崎がピクピクと震えているが、僕はそんな谷崎の頭と体を撫でながら、何回も息を吹きかける。時折、「可愛いなぁ」とか「めちゃくちゃにしたい」とか言うと、さらに谷崎が反応するから、余計にしたくなってしまう。
……。耳フゥーって言ったけど、ハムハムしていいかな。
そんな考えが頭によぎる。多分、今の谷崎はトロンとしているから、耳をくわえてもいいだろう。何だったら、逆に興奮すると思う。
僕は喋りかけながら、谷崎の耳をじっと見る。見ていると、余計したくなってきた。
あぁ、我慢できない。しよ。
そう思って、口を開いた。その時だった。
「ごめん、時間ギリギリだけど開いてる?」
図書室に、邪魔者が入ってきた。谷崎も目を覚ましてしまったのか、虚ろな目が元に戻っていた。僕は急いで顔を上げて、何事も無かったかのように振る舞う。
4時55分。閉館が5時だから確かにギリギリだが、そんな謝るほどだろうか。僕は本を返しにやってきた邪魔者を見る。
「あ、」
思わず声が出る。邪魔者は、
「委員長さん……?」
毎日、先生の手助けをしている委員長だ。良く言えばアシスタント、悪く言えば雑用係だが。
「えぇ。用事が長引いちゃってね…」
僕の漏らした声に優しく言葉を返してくれる委員長。だが、邪魔をしたのは許せない。せっかく、いい所だったのに。
まぁいい。家でゆっくりシよう。
そう思って本のバーコードをスキャンしようとしたが、ブックカバーがついていた。
「取ります、ね」
一応確認を取って、ブックカバーをとる。出てきたのは、官能小説。
一瞬固まる。委員長を見る。委員長は、顔が真っ赤で、手は前で組んでいる。
戸惑ってしまい、あわわわと口から声が漏れながら、手続きをする。そして、その本を返却された本の棚に押し込むと、僕は委員長に、
早く帰った方がいい。
とハンドシグナルを送る。委員長はそれの意味が分かったのか、ペコッと小さく頭を下げて、電光石火で図書室を出た。
「……何があったの?」
声のした方を見ると、谷崎が上を向いてこっちを見ていた。多分、あわわわ言ってる僕を見られたんだろう。
「いや、ちょっとね」
僕は咄嗟にそう言った。委員長のことを話す気はなかった。
***
翌朝。谷崎はまた少し寝不足で、僕はスッキリとしていた。
昨日の夜、まだ起きている谷崎と向かい合った隙に抱きついて。耳に囁いたり、息を吹きかけたり、くわえたり、舐めていたりしていたからだろう。僕はそのまま寝てしまったが。
朝の用意をしながら、そんな事を考える。じっと谷崎を見ていると、こっちを向いて笑った。それを一旦無視する。谷崎はショックで机に倒れる。そして、丁度いい位置に来た頬を指でつつく。もちろん、さっきはしなかった微笑を浮かべながら。
すると、誰かが机の前に立った。
「?……あ、委員長、さん」
「おはようございます」
「お、おはよう」
未だに、クラスメイトと話す時は言葉が途切れ途切れだ。委員長はそれを笑ったり苛立ったりしないから、どちらかといえば好きな人だ。
これは余談だが、委員長は自己紹介の時のしっかり者の女子だ。覚えているだろうか?まぁ、どちらでも構わないが。
「それで、アレのことですが……」
ボソボソっと耳打ちしてくる委員長。
「大、丈夫。話さない」
親指を立てると、委員長は少し笑って
「そうですか。ありがとうございます」
と言うと、自分の席に戻った。
「……」
もの凄く横から視線を感じるが、あえて見ないことにした。
***
昼休み。
散々昼寝をしたが、まだ眠い僕はもちろん寝る。夜は谷崎にイタズラをするので忙しいから、眠くてしょうがない。
そんな時だった。
「おい、やめろよ」
ケタケタと笑いながら、追いかけっこをしている男子2人組が、こっちに来た。そして、僕の隣を後ろ歩きで通過する瞬間。
「こっち来てみろよ!って、うわっ!?」
足元に転がっていた鉛筆で、転ける。そして、転ける方向が悪かった。気付いた時には遅かった。
「えっ」
防御していない僕の頭と、男子の頭が見事にぶつかった。
「っ〜!!」
ドタドタと音がして、男子は床に落ちる。
机の角で背中を強打したらしく、痛みに床で悶えていた。それを、隣で笑うもう1人。
どっちも僕のことに気付いてはいない。
……。頭痛いし、保健室行こ。
僕は椅子から立ち上がって、床に倒れている男子の横を通ると、教室のドアから廊下に出た。
***
「あ、腫れてるよー。痛いなぁー、これは。治るの、大体1週間かな」
保健室に行って、頭を打ったことを伝えると、優しそうな顔の女の先生がすぐに診てくれた。
冷やすための氷とタオルを貰うと、すぐにぶつかった場所にそれを当てた。かなりヒンヤリしてて気持ちいい。
僕は先生に感謝を伝えて、保健室から出る。予鈴が鳴っていたので、もうすぐで授業が始まる。小走りに教室に向かうと、後ろのドアを音を立てずに開ける。授業はまだ始まっていなかった。
「はぁ」
安堵のため息をつく。呼吸が落ち着くと、僕は席に戻った。隣の谷崎が、大丈夫?と聞いてくるが、ただぶつけただけ。と答えておいた。
授業が始まって、僕は机に横になる。顔はいつも窓を向いているが、今日は谷崎を見ることにした。
ツンツンと頬をつついてくるが、先生が話し出すとそちらを向いて話を聞いて、ノートを書く。横からは、昨日の夜散々いじり倒した耳が見えている。それを思い出して、またイタズラしたくなる。
手元には、先程もらった氷とタオル。
机を合わせて、すぐ近くにある谷崎の耳に、氷を当てる。一瞬声を上げそうになった谷崎だが、堪えて、僕をドヤ顔で見てきた。
もっとイタズラしたくなって、色々した。