※4月1日に投稿された📄の歌ってみたを元ネタに書いています。
※るむふぉが遊女、基本は 受け側になりますが場合によっては攻めにもなります。
※名前、口調は変えていませんので時代背景と合わない場合があります。
※捏造設定が多く含まれます。
※他、人によっては不快と思われる表現があります。ご注意ください。
今日も吉原の街に夜の帳が下りる。
すっかり日の落ちた部屋でアキラは仕事を始める。今日の最初の客は冷たそうな見た目とは裏腹な話し好きだった。 落ち着いた低く、品のある声に青みがかった銀色の髪。
「俺、今日が初めてだけど寝てくれんの?」
「……さぁ、わっちの気が向いたら。」
遠回しに拒否をしてみると、 あっそう、と興味を失った。かと、思えばここで不思議な人物を見なかったか、出来事はなかったかなど聞かれもした。
まるで役人が悪党でも探しているかのように見えた。
「最近マジで物騒だからさぁ、気を付けて。……じゃあね、凪さん」
一通り聞けて満足したのか、ろくに名乗りもせずその人は金を置いて行ってしまった。隠れるように着物にくっついた頭巾を深く被って。
「…っいやだ!」
「嫌だって言ってもねぇ〜、ここ来たんなら絶っ対やらないといけないからさ。」
蝋燭の火が照らす部屋の中、セラフは客と閨を共にするよう奏斗から言い渡されていた。
本来であれば、姐さんの後ろで作法などを学んでから水揚げ――初めて客を取るのだが、セラフの年齢や器量を考えるともう客を取れると判断してのことだった。
だが、セラフはまだ情事を解したことはないだろうと思い、事に慣れている尚且つ信頼のある客へ初夜までを任せる運びとなった。
「まだ、もうちょっと待ってよ。…明日、せめて明日まで、」
「そんな焦んなって、別に今日いきなりちんこ突っ込む訳じゃないからさ。」
今日は雰囲気慣れして、と奏斗が付け加えて冷や汗をかいているセラフを見る。
華奢な体つき、赤くきれいな目と髪の毛。その声は聞き心地の良い中音域で、張り詰めたなかにどこかふわっとした優しげな印象を受ける。
引込新造として育ててもきっといい遊女となっていただろう。だけれど、それでは経営が立ち行かない。
「……ねぇ、奏斗じゃダメなの?」
「え? 」
「その……初めての相手って…、奏斗じゃだめ?いきなり知らない人って怖い……」
「うーん、楼主がしてもいいのかな…まだ若衆ならあれだけど……」
怯えた様子だったセラフが強く訴えかけるような目で奏斗を見つめてくる。視線から逃げられず困ったように首を捻り、思案する奏斗。
一般的な流れであれば信頼できる客に破瓜を任せるところだが、彼は例外だ、そもそも男を受け入れられるように体ができていないのだから。
「……よし、わかった。じゃあ、慣らしは若衆にやってもらおう。最後が僕。それ以降はちゃんとお客さん取ってね。」
「……」
「セラフ、返事は?」
「はい…。」
客の帰った座敷の障子戸を開け放ち、満月から少しかけた月を眺めた。もうこれはアキラの癖になっていた。
冷たい夜風が麗しい黒髪をなびかせ、頬を撫でていく。
「……はぁ…」
乱れた髪もそのままにため息をつき、アキラは客が置いていった箱を眺めた。
あの中には一体何が入っているのだろうか。考えたくもなかった。
「身請け……じゃあ、アキラ、ここから出られるんだな!」
「えぇ、お世話になりました。」
身請け、客が遊女の借金と身代金を店へと払い、楼主が客へ遊女を引き渡すことを認めること。
アキラはとある商人へ買われ、近々ここを出ていくことが決まったのだ。本来なら嬉しいはずなのにどこか浮かない顔をしているアキラに雲雀はこっそりと問う。
「…なんかあんま嬉しくない?もしかしてやけど……」
アキラは静かに頷く。この吉原から出ていけばもう雲雀とは会えない、それだけが重く伸し掛かっていた。
「んー、でも、俺も寂しいなぁ、アキラいなくなんの。世話のし甲斐がなくなるな〜」
「…ふっ、嘘おっしゃい。世話をしなきゃいけない遊女なんて私以外にもいるのに」
「嘘じゃねーって!そりゃあそうだけど……けど、アキラのことはさ…」
雲雀が言いかけたところで奏斗がアキラを呼ぶ声がした。すっと立ち上がり、声のする方へと歩いていってしまうアキラへ引き留める言葉もなく、雲雀はその背中を見送った。