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1章世界が止まった日
ー逢魔が時ー
「……おかしい」
辺りは、しんと静まり返っていた。
間もなく逢魔が時――。 家路を急ぐ人々の姿があっても不思議ではない時間だ。だが、その姿はどこにもない。
「静か……すぎる」
彼女は静寂が嫌いではない。 むしろ、独りで過ごす穏やかな静けさを好んでいた。
それなのに、今この場を包む静寂だけは違う。
まるで、この世界から自分だけが切り離されてしまったかのような、不気味な静けさだった。
薄暗く染まり始めた空を見上げ、腰まで伸びた深紅の髪をそっとかき上げる。
彼女…緋月煉華は、胸の奥で膨らみ続ける違和感を拭いきれずにいた。
言葉では説明できない不安。
夕日に照らされて長く伸びる自分の影が、まるで足元を掴み、この闇へ引きずり込もうとしているような錯覚。
その得体の知れない感覚が、煉華の胸を静かに締めつけていく…
「!?っ」
突然、背中に突き刺さるような視線を感じた。
ゆっくりと振り返る。
そこにいたのは――見たこともない、真っ黒な”何か”だった。
それは真っ黒で白い息を吐き濡れた紅い舌から滴る涎はコンクリートの地面を溶かし穴を穿った。
コンクリートが音を立てて溶けていく。
(あれに触れたら終わる。)
本能がそう告げた。
煉華は踵を返し、一気に駆け出した。
「まもなく閉館のお時間となります。お忘れ物ございませんよう、お気をつけてお帰りください」
「……っんー。」
軽く身体を伸ばし読んでいた本をそっと閉じ指先で表紙を撫でながら小さく呟いた
「これも違う…」
彼女…神代蒼紫は毎晩夢に出る不思議なナニかについて調べていた。だが夢で見るソレも断片的でとても曖昧で言葉で表現するのが難しくそれで学校帰り図書館で調べることにしたのだった
「……?」
長く読書をしていたからだろうか。一瞬、蒼紫は表紙の文字が霞んで…いや黒くなり読めなくなった。軽く瞬きをして、もう一度表紙を見る。
今度は、ちゃんと読めた。
「……疲れているのかしら」
そう呟いた直後。
誰もいないはずの図書館の奥で、本棚がひとりでに軋む音がした。
「今日もたくさん練習できたー」
軽く身体を伸ばし竹刀袋を肩に担ぎ道場を出て家路につく。
「今日の夕飯、何かなぁ」
自分と同じように家族が待つ暖かい家に帰る。すれ違う人も自分も心做しか足早になっていた
「おにいちゃん、まって」
「はやく、こいよ?ゆうはん、ハンバーグって、かあさんがゆってたぞ」
「可愛い…」
自分とすれちがった兄妹を立ち止まり温かい眼差しで見つめ
「さ、あたしも帰ろ」
小さく微笑み視線を前に向け歩き出した時ーー
カシャン…
金属が転がる乾いた音が静かな住宅街に響いた。
その音に身体をびくっと震わせゆっくり振り返るとそこに先程までいた兄妹の姿はなく女の子が手押ししていた自転車のタイヤがカラカラと音をたて虚しく回っていた。
「え?…な、に…?」
そこに居たはずの兄妹は跡形もなく消えていた。
辺りを探そうと見回すと自分以外、何もなかった。電柱の長く伸びた影が恐ろしく無機物に見える。
「……何かが…起こってる…?」
彼女…白峰琥珀は持っていた竹刀を構えた…
「大丈夫…イイコね…もうすぐだからね」
学校帰りケガをして蹲っているネコを見つけ持っていた携帯用救急ケースを使い手当をしていた。
「……出来た。気をつけてね」
時折、振り返りながらこちらをみてくるネコを手を振って優しい笑顔で見送る彼女…黒守詞葉は使った救急ケースをカバンに入れ家に向かって歩き始める……
「!!っ…な、にっ…?」
空気が変わった…
重い。
息苦しい。
鼻を突く腐臭。
まるで、生き物が長い年月をかけて腐り続けたような匂いだった。
息を吸うたび、身体の中まで腐っていくような錯覚に襲われる
「……っ、だれか…大丈夫ですか!!」
そんなことも気にせず彼女は走り出した。1秒でも早く1人でも多くを助けようと静かな住宅街を走った…走って気がついた…
「誰も…いない…?」
ハンカチで口と鼻を押さえ詞葉は静かな住宅街に1人取り残された恐怖に身体を震わせながらも
「誰かいるかもしれない…早くたすけないと…」
意を決し詞葉は再び人影を探し走り出した
コメント
2件

ありがとうございます。励みに頑張ります。
輪廻さん、第1話拝読しました。 複数の視点から「人が消えた世界」の異変を描く導入、引き込まれました。煉華さんが遭遇した黒い存在の不気味さ、蒼紫さんの夢の断片、琥珀さんの目の前で消えた兄妹、詞葉さんの腐臭漂う静寂——四つの視点がバラバラなのに、同じ「何か」が起きていると感じさせる構成が巧いです。特に、逢魔が時の静寂が「自分だけ切り離された感覚」という描写に、ゾクッとしました。 それぞれのキャラがどう交わっていくのか、とても気になります。続き、楽しみにしていますね。