テラーノベル
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なんか過去の自分も似たようなの書いてたんでコピペします
窓の外では横浜の夜が冷たい雨を降らせていた。 重厚なカーテンが閉め切られた中也のセーフハウスは、静寂と、微かに漂う上質なワインの残り香に包まれている。
「……最悪だ。死にたい。今すぐ、この腹を抉り抜いて死なせてほしいよ……」
ベッドのシーツに沈み込み、芋虫のように毛布にくるまった太宰が、掠れた声で呪詛を吐く。普段の朗々とした挑発的な声はどこへやら、今の彼女は湿った子猫のように弱々しい。
「手前は黙って寝てろ、青鯖。死ぬ死ぬ詐欺は聞き飽きた」
中也は苛立ちを隠そうともせず、乱暴にジャケットを椅子の背に投げ捨てた。だが、その足取りは驚くほど静かだ。キッチンから戻ってきた彼の手には、温かいカップと、マフィアの最高幹部が持つには似つかわしくない市販の鎮痛剤がある。
「ほら、これを飲め」 「……嫌だよ。薬なんて、私の体質には……」 「五月蝿ぇ。これは異能無効化とは関係ねぇ、ただの生理現象への対処だ。さっさと飲み込みやがれ」
中也は太宰の細い首筋を支え、半ば強引に薬を流し込ませた。太宰は喉を鳴らしてそれを飲み込むと、ひどく不満そうに、しかし熱を帯びた瞳で中也を見上げた。
「……中也、熱い。君の体温が、部屋の空気を焦がしてる気がするよ」 「俺のせいにするんじゃねぇ。手前の身体が冷え切ってんだよ」
実際、太宰の指先は驚くほど冷たかった。彼女の体質なのか、この時期特有の貧血のせいなのか。中也は舌打ちを一つ。そして、自分でも信じられないような行動に出る。
ベッドの端に腰を下ろし、毛布の上から、彼女が痛みを訴える下腹部のあたりに大きな掌を置いた。
「……ッ、何、するんだい」 「湯たんぽ代わりだ。文句があるなら蹴り飛ばしてみろ。今の手前にそんな力があるならな」
中也の手の平から、重力操作とは異なる、彼自身の確かな熱が伝わっていく。太宰は一瞬だけ身体を硬直させたが、その熱が驚くほど心地よく、執拗に暴れていた腹の痛みを和らげていくのを感じると、ゆっくりと吐息をついて力を抜いた。
「……ふふ、重力使いの掌が、こんなに優しくて温かいなんて。横浜の連中に教えたら、みんな腰を抜かすだろうね」 「黙れ。……寝ろって言ってんだ」
中也は顔を背けたが、その耳朶は僅かに赤らんでいる。 太宰は、彼の手の温もりに誘われるように、微睡の淵へと沈んでいく。意識が途切れる寸前、彼女は無意識に、中也のシャツの裾をギュッと握りしめた。
「……中也、行かないでよ。君がいないと、また寒くなる」 「……ああ、分かってるよ。何処にも行かねぇよ」
中也の声は、雨音に紛れるほど優しかった。 重力で世界を支配する男は、今この瞬間だけは、目の前の小さな体温に縛られることを、自分自身に許していた。
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